葉真中顕さんの『コクーン』を読みました。
葉真中さんの小説は『Blue』以来です。
今回の小説は…なんというか…とても『問題作』ですね…。
1995年3月20日、『地下鉄サリン事件』が、起きなかった世界の話です。もちろん、この事件だけがポッと抜けてしまったわけではなく、それより前の段階から少しずつ少しずついろんなひとの運命が互いに影響しあって、『地下鉄サリン事件』ではない別の事件が別の人間によって引き起こされた世界の話。いわゆる『別の世界線』といっていいのかな。
うちの父はこのころ東京に単身赴任していました。虎ノ門とか日比谷とかそのへんに勤めていたので、この事件にニアミスしていた、と後から聞きました。父の安否を母がなんとか確かめようとしていたのは、なんとなく覚えています。そういう意味では、心穏やかに読めなかった人もいるだろうな…と思ってしまいました。被害が甚大だったのでね…。まぁ、そんなこと言ったらすべての物語がそうなのかもしれませんが。
まさにバタフライエフェクト、ほんの少しのきっかけで、人の人生は大きく変わってしまうんだと思います。もちろん、「この世界線じゃない別の世界線」を覗くことなんかできないので、「どちらが正解」とか「大きく変わる」なんて言えないですが。
生と死の境界も紙一重、犯罪を犯す・犯さないも紙一重。最近こんなことばっかり考えているような気がしますね。
それにしても不思議な話でした。
この世界で『地下鉄サリン事件』の代わりに起きた『丸の内無差別乱射事件』、それに関わった人たちの物語が、それぞれの視点で描かれています。
はじめの木村真弓の話。アダルトグッズの工場で働いているバツイチ50代の女性です。しかし、求人が『おもちゃ工場』だったというのはおもしろいですね。実際もそうなんですかねー。ずいぶん嫌な感じの元夫だなーと思っていましたが、真相がこうだったとは…。みんな心に傷を抱えていますね…。
元看護師の彼女が新しく務めることになったのが『行路病院』。以前読んだ『ある行旅死亡人の物語』の『行旅』と同じような意味でしょうか。
『仮面病棟』みたいな感じの病院なのかな? あれとはちょっと違うかな?
とにかく、こういう病院ってあるんだな…と思いながら読みました。世の中、知らないことっていっぱいありますね…。
一応、物語としては丸く収まった、と思ったのですが。
電子版の『奥付』の後ろに、もう1話分の短い話が収録されています。これは、単行本の表紙に掲載されていた掌編だそうなんですが…。
またこれが繰り返されるのか…? と、震えますね…。『ハサミ男』のラストのような、嫌な感じの読後感です。褒め言葉ですけど。
Kindle Unlimited で読みました。
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