阿部暁子さんの『金環日蝕』を読みました。
阿部さんの小説は初めてです。
以前、どこかのサイトでこの本が紹介されていて、読んでみたいなと思ってウィッシュリストに入れていました。
今回 Audible で聞けると知り、とても嬉しかったです。
そして、これは本当に知らなかったんですが、今年の本屋大賞受賞作『カフネ』も阿部さんの作品なんですね!
『カフネ』も Audible にあることを知ったので、次はそっちを読もうと思いました。
すっごくおもしろかったです!
読み始めは「なんかアニメっぽいな」と思いました。
登場人物たちの立ち回りやとかセリフ回しなどが、ちょっと『そっち側』に寄りすぎてるような感じがして、ちょっと鼻につく感じが気になりました。
北海道大学が舞台の1つです。
森見登美彦さんや万城目学さん、最近だと『成瀬は天下を取りにいく』の成瀬の出身校である京都大学は、いわゆる『変人』が多いというイメージが強くあるんですけど(本当に失礼)、今回の北大もなんだかそんな感じで描かれているな…という感じがしました。
でも、物語が進んでいくとどんどん世界に引き込まれていって、そんなことは気にならなくなりました。
にしても…何だろう、北海道はすごく治安が悪いんだろうか…と思ってしまうぐらい、なんだかかわいそうな人がたくさん出てきてきました。
北大なんてすごく賢い大学に通っているはずなのに。
努力して北大に入学したにも関わらず、何かのきっかけでふと行ってはいけない方に転がり落ちてしまう、そんなことが日常にはたくさんあるんですね。
自分が今こうやって普通に生きているのも、いろんな奇跡の積み重ねなんだろうな、と思うことは確かにあります。
『法廷遊戯』の解説にも書いてありましたが、今まで何のトラブルにも巻き込まれなかったというのは、普通なんじゃなくてきっとものすごく幸運なことなんでしょうね…。
私が通っていた大学はほとんど単科大学みたいなものだったので(英語では University と名乗っていますが)、大きな総合大学についてあまりイメージができないんですよね…。
こんな感じで『変な人』がサークルなどに固まっているんでしょうか。
それこそ、学園ものの恋愛コメディみたいな人しか出てこなくて、ちょっとびっくりしました。
物語のメインとなる人たちが何人かいました。
男子高校生・錬くんは、彼の父親の犯罪のせいでひどい目に遭ってしまいました。
家族を本当に大切にして、とても賢くかっこいい男の子です。
でも、なんだか常に影を持っている感じでした。
彼の父親も、ちゃんと知ってみると、当然の権利を踏みにじられたからこそ『犯罪』をしてしまったわけで、心底悪い人というわけではなかったんですよね。
『加々谷』に名簿の詳細情報を提供していた理緒も、大変な家庭環境と妹の事件、母親の体調不良が重なって、もうにっちもさっちも行かなくなってしまった結果でした。
あのまま普通に居酒屋で働いていればどうなったかな…とも考えますが、きっと大学には行けず、お金でつらい思いをしながら暮らしてたんだろうな、と思ってしまいます。
なので、彼女の選択が100% 愚かだった、とは私は言い切れないです。
そして、年上のちょっと悪そうな男性に憧れてしまう気持ちとか、つらい時に助けてくれてすごく好きになってしまう気持ちなんかも少しわかるような気がするので、なんとも責められないですね…。
正直、理緒と妹・奈緒の母親についてはいろいろ思うことはありますが、『人それぞれ』なわけですし、まぁそれも責められないかなとは思います。
自分がこの母親のような状況になったことが、今のところないのでね…。
そして、主人公の春風(はるか)。
彼女は「たまたま自分の知り合いがひったくりに遭ったところを目撃した」というだけで、ここまで突っ込んでくるんだな…と思いました。
でも、そんな彼女にもとてもつらい過去があって、それを克服したいという強い気持ちと、自分を責め続ける気持ちから、多少無鉄砲な行動に出てしまいがち、だと。
そんな事情を知ると、なんだか愛おしく感じてしまいます。
鐘下も、最初はいいイメージが全然なかったです。
こんな彼を好いてくれている女学生が不憫でならなかったです。
理緒に執拗に付きまとったり、奈緒にまで手を出そうとしたり、すごく嫌な感じでした。
でも、最後はメッセージアプリを消して守ってくれたり、入院したときの言葉がなんだかすごく『まっとう』な感じがして、「この子もつらかったんだろうな」と思いました。
そして『加々谷』。
彼のやってることはもちろん犯罪ですし、きっと足も洗わずこのままそっちの世界で生きていくんでしょうね。
でも、彼も好き好んで『この世界』に入ったわけではないということ、家庭環境が大変だったこと、鐘下と理緒に見せた最後の突き放しとか、本当に本当の悪人というわけではないんだろうな、と思ってしまって…。
まぁ、よっぽど特殊な人でない限り、できる限り善人でいたいと思いますよね。
そうでいられないから、つらいんですよね。
とりあえず、今回の一件がこういう感じで落着して、春風と錬くんとはこれで縁がなくなってしまうのかな、なんて思ったんですけど。
なんかご飯にも誘ってもらえたし、彼は賢い子みたいだから、きっと大学の後輩になるでしょうね。
どういう『関係』になるのかわからないですが、こうやって縁は繋がっていくんだろうな、と思いました。
みんながみんな、自分の手の届く範囲の人を幸せにして、誰かを騙したりしないで生きていければいいのにな、と思うんですけどね。
Audible で読みました。
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