麻野涼さんの『死の臓器』を読みました。
麻野さんの小説は『三叉路ゲーム』以来です。
麻野さんの代表作といえばこの『死の臓器』だそうで、2015年に WOWOW でドラマ化もされているようです。
評判に違わずとても面白かったです。かなり濃密な医療の話で、いろんな人の思惑が交差している分野なんだな…と思いました。
沼崎恭太はテレビ制作会社のディレクターです。彼は昔週刊誌の編集をしていたとき、自分の記事が元で自殺者を出してしまったことがあり、そのことをいつも悔やんでいます。
彼は青木ヶ原樹海を特集したテレビ番組の取材中、若い女性の遺体を発見します。遺体は強い睡眠薬であるハルシオンを大量に服用した形跡があり、更に手術によって左の腎臓が摘出されていたことがわかりました。しかし、身元は一向に明らかになりません。
沼崎のかつての恋人だった由香里の父親・日野誠一郎は、熊本で泌尿器科医をしていて、『レストア・キッドニ』(=修復腎)の移植を積極的に行っています。地元での信頼も厚い医師ですが、ある日警察に臓器売買の容疑で取り調べをされてしまいます。裏では、同県の同業他社が暗躍している様子。元恋人からその話を聞いた沼崎は、その『臓器売買』の実態を調べるために中国へ行きます。
青木ヶ原樹海から話が始まります。一昨年辺りに法医学者の上野正彦さんの本を何冊か読んでいたので、青木ヶ原樹海での自殺体の話とかはかなりイメージできました。私としては、そこでかなり掴まれていたので、そのあとどっぷり『死の臓器』の世界に浸かれたと思います。
腎臓の話といえば、金田一少年の事件簿では『金田一少年の殺人』と、昨年読んだ『仮面病棟』ですね。
どちらも腎臓移植にまつわる話でした。
『レストア・キッドニ』という言葉はまったく知りませんでした。どこで区切るかもわからないくらい。レストア(restore)=修復、キッドニ(kidney)=腎臓で修復腎とのこと。修復腎とは、ガンなどの病気で2つあるうちの1つの腎臓が摘出されると、その腎臓の悪い部分を除いて別の患者に使えるようにしたものだそうです。素人考えだと、移植された人がその病気にかかってしまうのでは…? なんて思ったんですが、その可能性はかなり低いとのこと。まぁたしかに、人によってその体内環境とかはまったく違うだろうから、定着しないこともあるだろうし、定着してもその病になりやすい環境ではないためまったく問題ないこともあるんでしょうね。人間の体って本当に不思議でおもしろいですね。
小説の中に出てきた『白米の中のハエ』の話がとても印象的でした。「ハエだけ取り除いて食べられる人もいれば、全て捨ててしまう人もいる。ハエが入っていたことを知った上で、捨てるなら分けてほしいという人もいる。それがないと餓死してしまう人もいる」というような内容です。リアルに白米の中のハエだったら捨ててしまうかもしれませんが、たしかに腎臓に置き換えると納得できる話だなと思いました。
事件は海外を巻き込んだ形になりました。日本での事情も中国での事情もかなり興味深かったです。
途中で沼崎さんはかなり危ない橋を渡った感じがありますが、無事で良かったです…。怖かった…。彼の過去にも少し整理がつけられたみたいでなんだか安心しました。
Kindle Unlimited で読みました。
[AD]死の臓器 [AD]Kindle Unlimited
コメント