湊かなえさんの『往復書簡』を読みました。
湊さんの小説は『夜行観覧車』以来です。
すべて読み終えてから気づいたんですが、最初の話は独立していたけど、他の3作はうっすらと繋がりがあったので、これは連作短編集ということになりますかね?
最初は全部繋がっているのかと思って、いろいろ考えながら読んでいたんですけど、後ろの3つと最初の話はつながりがないように思いました。
今回はタイトル通り往復書簡形式の小説でした。
以前読んだ『ルビンの壺が割れた』も往復書簡の体裁の小説でした。
あれは、どんどん気持ち悪いものの正体がわかってくる感じでしたね…。
最後は怖いようなスカッとしたような感じでした。
今回の『往復書簡』は、少しモヤモヤは残るものの、爽やかな感じで終わってよかったなと思いました。
まぁ、正直ちょっと身構えすぎていたかもしれないしれないです(笑)。
1つ目は『十年後の卒業文集』
やっぱりそういうオチだったのか、という感じです。
私は当たり前ですが彼女たちの部活仲間ではないので、昔の彼女と今の彼女との違和感みたいなものは感じなかったんですが、何度もそう言われるもんだから、きっとそうなんだろうな、と。
まぁ、「手紙を書いている人とは別人なんだろうな」とは思ったんですが、まさか代理で結婚式にまで出席していたとは。
そこについてはものすごくびっくりしました。
しかも気づかれないって…すごいですね。
千秋も元の女性も「もう地元には帰らない」と決めたからこそのこの行動ですかね。
これからも地元と交流を持ち続ける気があるのであれば、こんな危ないことできませんよね。
まぁ、こういう狭い人間関係に嫌気がさしたから出て行ったという感じなんでしょうかね。
しかし、こうやって地元になかなか帰らないと、こんな風に尾ひれをつけた感じで、ものすごいことを言われ続けるんですねー。
私もほとんど実家には帰らないし、地元の友達なんてもう1人しかいないんですけど、いろんなこと言われてるんでしょうか?
いや、話題にすら上がらないかな。
しかし、この千秋という女性、かなり自由奔放ですね。
まぁ、地元から出られてよかったね、という感じではあります。
みんなが憧れていた男の子と付き合えたにも関わらず、最後の方は「ずっと別れたかった」みたいな感じだったようなので、周りを振り回す系の女性だったのかな、と。
でも、人物を偽って手紙を書いているわけですが、そういった「他人が本当は自分をどう思っているのか」を直接手紙で言われても、別にそんなに傷ついているという感じでもなくて。
それはやっぱりメンタルがタフなんだなと感心します。
顔をかなり傷つけてしまって、それでもこうやってバッチリメイクして、ちゃんとシュッとしていられるというのは、すてきなことだと思いました。
自分だったら…怖いかなー。
こんなことは怖くてできないです。
自分のことが書かれている手紙も見たくないかな。
知らぬが仏、というやつですね。
2つ目は『二十年後の宿題』。
『北のカナリアたち』という映画の原作になった話とのことです。
映画は見ていないのでわからないんですが、Wikipedia に書いてある内容とあんまり合っていないような気がしたんですが、どうなんでしょう?
それはいいとして、竹沢先生は最初からこの目的で大場くんに声をかけたんですね、きっと。
最初は「なんか随分重めなことを教え子に頼むんだな…」と若干引きぎみだったんですが、そういう理由だったのか、と納得です。
にしても、先生をやっていると、こういう『違う学校の生徒なのに自分の教え子同士で結婚』みたいな事態に遭遇したりするんですかね!
考えてもみなかったので、おもしろいと思いました。
本人同士は何やら運命的なものを感じてしまいそうですね。
今回の6人の子どもたち、1つの事件に対してそれぞれ違う考え方・捉え方をするんだな、とおもしろくも怖い気持ちで読みました。
特に、溺れてしまった当人の子ども。
「夫の分まで」という言葉が呪いになってしまったという、とても悲しい出来事でした。
呪術廻戦の七海さんの最期を思い出してしまいましたね…。
自分なりに昇華できてよかったと思います。
子どものときにこんな事件を目の当たりにして、特に先生が生徒ではなく夫を先に助けたことを知ってしまったら、確かに子供心にはかなりの衝撃を受けてしまうだろうなと思います。
そういう意味で、3人目の女性はちょっとかわいそうでした。
これで、溺れた子が助からなかったら目も当てられなかったですが、溺れた子だけは助かったのでまぁ良かったです。
でも…自分のお腹の子供と夫が死んでしまって、本当に本当に辛かったでしょうね…。
たとえ、夫の余命が長くないことがわかっていたとしても、ね。
利恵さんと大場先生は、なんとかうまくいきそう…ってことでしょうかね。
竹沢先生の「教え子たちをを子どもだと思って」というのは、本当に本心からそう言っているんでしょうね。
こういう人こそ、幸せになってほしいと思います。
子どもを失った女性教師、という共通点から同じ湊さんの『告白』を思い出してしまい、正直ヒヤヒヤしながら読んだんですが、平和に終わってよかったです、本当に。
3つ目は『十五年後の補習』。
学生時代からのカップルで、男性・純一が国際ボランティアに応募してしまい、2年間海外に赴任することになってしまいました。
それを知らされずに驚いていた彼女・万里子と始めたエアメールでの文通、という体です。
「15年も付き合ってるのにこんなにラブラブかよ…」とちょっと胸焼けがしそうな感じではありました(笑)。
でも、こうやって、長くいてもずっと幸せでいられるカップルがいるというのは、励みにもなります。
15年前に起きた火事は、万里子もその被害者の1人で、残りの2人の被害者は亡くなってしまっていて、彼女には当時の記憶があまりない、という状況でした。
2人が付き合うにあたって、そのときの話はしないというルールができてしまっていたから、15年ぶりに蓋を開けたという感じになっています。
最後まで読んで、「まぁ、こんなの内容だったら、確かに記憶がなくなっても仕方ないよな」と思ってしまうような感じでした。
純一の方から突き放す感じで書かれた手紙の優しい嘘で、本当に万里子のことを大切に思っていたんだなと伝わってきました。
まぁ、万里子の方が記憶を取り戻してしまったので、その嘘は見抜かれてしまったわけですけどね。
純一が現地でマラリアに罹ったときに、裸の万里子が何人も出てきて、そのときの『パンツがない状態』で『ゼロの乗算』について悟った、というのが…おもしろかったです(笑)。
なんかそういうことってありますよね!
急に訳のわからない妄想から何か閃いたりするよな。
万里子のいとこの過去もあり、万里子の同僚の女性が家庭内 DV について彼女に相談した後、「別れさせられた」と恨み節をこぼしたという下り、イラッとしますね。
何なの、こいつ…。
幸い、私はそういうふざけた相談をされたことはないんですけど、もし私も相談されていたら、多分警察に連れて行くと思いますし、弁護士探しとかを真剣に助言すると思います。
いわゆる『共依存』とか『カサンドラ症候群』とか、そういう関係かもしれないですし、『別れる別れる詐欺』的な感じだったのかもしれないですけど、本当やめてほしいです。
こういうのが、小説だとうっかり殺されちゃったりするんだよなぁ…今回は大丈夫みたいですけど。
結局『真犯人』は万里子…みたいな感じでしたし、放火の犯人も純一だったわけで。
「なんという過去を持つカップル!」と驚かないでもないですが。
状況が状況だっただけに、法律うんぬんは置いておくとしても、仕方ないんじゃないかなと思ってしまいます。
体の大きな男の子に迫られて、本当に怖かっただろうな、と。
それが、同級生の仕組んだ罠だったと分かったときには、もう絶望的な気持ちだっただろうな。
しかし、彼女の行動力。
本当にすごいですね!
結局、一番最後の純一からの手紙のときには、もう現地に向かっていたってことでしょ?
小説にも書いてありましたが、地元の漁師にお願いしてチャーターしてもらうみたいなことを経て、わざわざがんばって会いにいったわけですよね。
もう、末永く幸せになってほしいなと思いますよ、本当に。
今までもいろんなこと乗り越えてこられたから、これからもきっと大丈夫だろうなって。
とてもすてきだと思いました。
現地の女性に髭が生えている、というのは本当に笑ってしまいました。
ところ変われば美の基準も変わる、ということですかね。
最後は『一年後の連絡網』。
『十五年後の補修』の後日談のような、短いお話でした。
ここに出てきた『りえちゃん』というのは、『二十年後の宿題』の利恵のことですよね?
『公務員の彼』と言っていたので、まだ続いていてよかったと思いました。
いろんな人の人生がいろんなところで交差して、本当にドラマチックですね。
現実もきっとそうなんだろうなー。
今がんばってる人、真摯に生きてる人は、幸せになってほしいなと思いました。
Audible で読みました。




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