知念実希人さんの『崩れる脳を抱きしめて』を読みました。
知念さんの作品は前回の『時限病棟』以来です。
富裕層向けの療養型病院で期間限定の研修医をしている碓氷蒼馬は、
その病院の特別室の患者である弓狩環という女性に恋するようになります。
しかし、環の頭には『グリオブラストーマ』という脳腫瘍が巣食っていて、
早ければ2・3ヶ月しか持たないという病状でした。
ある日碓氷先生は環さんに
「自分の父は家の金を持って蒸発し、別の女と結婚した挙げ句
山から滑落して死んだ。なので、自分はとにかく金を稼ぎたい」
という話をしてしまいます。
環さんは「奨学金を肩代わりしてあげる」と言いますが、
碓氷先生はそれを施しのように感じて拒絶し、二人はギクシャクします。
しかし、環さんは碓氷先生の父親の死の真相を見事に突き止め、
それによって碓氷先生は環さんに特別な感情を抱きます。
碓氷先生は研修最終日に環さんに気持ちを伝えようとしますが、
環さんは「自分は幻だから」と言って告白させてくれませんでした。
その後、碓氷先生の元に環さんが亡くなったという連絡が届きます。
そして、環さんの弁護士を名乗る人物から、
碓氷先生の奨学金と同じ金額が相続されると告げられます。
お金の話は環さんとの間でカタがついたはずでしたし、
環さんが病院でないところで亡くなったというのも解せないため、
碓氷先生は環さんの入院していた病院へ足を向けます。
が、そこに『弓狩環』という人物が入院していた形跡はなく、
院長からも「君が精神的に疲れていたから、
環さんの主治医として振る舞っていた君をそのままにしていた」と
言われてしまいます。
しかし、碓氷先生は環さんが確かにいたという決定的な証拠を見つけ、
彼女の遺志を果たそうとします。
…中ほどまで読んだとき、「しくじったかな~…」と思ったんです。
1ページほどのプロローグではなかなか不穏な始まり方をしたんですが、
半分くらいまでは碓氷先生と環さんが恋を温めていく過程にしか見えなくて。
金持ちで薄命の入院患者と新人医師のラブストーリーかよ…と。
(と言っても、ラブストーリー嫌いじゃないし、どうせ泣くんですけど)
が、しかし。
途中でガラッと様相が変わるんですよ。
環さんは本当は生きているのでは?
そうでなければ、なぜ病院の外で亡くなったのか?
誰かに殺されたのか?
なぜ、病院の人たちは環さんの存在を隠すのか?
いろんな謎が急に畳み掛けてきて、いきなり心拍数が上がります。
途中で結構話が信じられなくなりますけどね!
だって、病院の人たちみんなに「そんな人はいなかった」と言われ、
カルテとかにも何も残っていないんですよ。
幻だった…? って。
最後の最後、一番の謎が明かされたときは
「良かったねぇ」と言いながら泣いてしまいました(笑)。
依然、危ないことには変わらないのかもしれませんが。
とりあえず全方位いい感じに収まったので良かったです。
途中、碓氷先生の元恋人で親友的な存在である冴子が出てくるんですが、
彼女がなんだかカラッとしていてなかなかいい人なんですよ。
しかも、自分から碓氷先生を振ったくせに
多分彼のことが大好きなんでしょうね。
それがにじみ出ていてなんだかいじらしくて。
密かに彼女のことを応援していたんですが…。
彼女にも幸せになっていただきたいです。
Kindle Unlimited で読みました。
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