葉真中顕さんの『ロスト・ケア』を読みました。
葉真中さんの小説は初めてです。
表紙に大きく長澤まさみさんと松山ケンイチさんが写っている表紙で、それに惹かれて読みました。
しかも、どうやら『彼』というひとは42人も殺しているらしいのです。もし現実だったら稀代のシリアルキラーです。
表紙以外の情報もないままに読み始めましたが、とても、とても重い話でした。
検事の大友秀樹は、学生時代の友人・佐久間が勤めている会社・フォレストが経営する介護付有料老人ホームに、自分の父を入所させるために動いていました。そこはとても恵まれた施設で、その分料金もかなりの高額でしたが、安心して父を任せられそうだと感じていました。
一方で、老人ホームに入れることができず自宅で介護している羽田洋子は、自分の母の変わりように心身ともに疲れていました。シングルマザーで母を介護し、外でも働いて、心の休まる時間がありませんでした。しかし、ある時仕事から戻ると母はベッドの上で亡くなっていて、彼女の介護生活は唐突に終りを迎えました。
佐久間の務めるフォレストは介護業界に新規参入した会社で、かなりの急成長を遂げていましたが、資金の流れに不明瞭なところがあると指摘されます。厳しい風当たりの中で、それでも末端である営業所で働くスタッフは、日々の業務を着実にこなしていました。
フォレストで介護士として働いている斯波宗典は、ある日営業所に保管されているある担当家庭のスペアキーが、いつものものと替えられていることに気づきます。寝たきりの老人がいる家のスペアキーに何らかの細工がされたということは、そこで窃盗などの事件が起きている可能性が考えられました。その現場を偶然捕まえられる保証はないので、斯波は自ら期限を設定し、その日まで該当の家を外から見張ることにしました。期限と決めた最終日、斯波はついにその細工をしたであろう人物と対面します…。
完全に騙されちゃいましたね、私は。まったく、いつまでも学習しません。まんまと騙されたと思います。
真相が語られだしたときに「えっ!?」と声出してしまいましたもん。いいお客さんですよー。
真犯人の壮絶な生い立ちを知るにつれて、涙が止まらなくなりましたね。自分と親しかいないような閉鎖空間で、まさに『地獄』のような様相だったんでしょうね。そして、『ロスト・ケア』を思いついた、と。
タイトルの『ロスト・ケア』ですが、読む前は「何かを失った人に対してケアすることなのかな」なんて思いましたが…。『ロスト』させることでその人達を『ケア』していた、ということなんですね…。
幸い、私自身は介護の経験はまだないです。これからどうなるかはわかりません。
私の母親は25歳のときに私を生んでいるので、私が大学生のときは45歳くらい、今の私と同じくらいの歳です。そのころ、私の祖父、母の父が介護が必要になりました。我々は仙台に住んでいたんですが、祖父は秋田の仙北郡だったところに住んでいたので、母は月に1回程度帰省して祖父の介護をしていました。
1度だけ一緒に行ったことがありましたが、とても大変だな…と。それしか言えない。たまたま一緒に行っただけの私が手伝えそうなことはほとんどなく、ほとんど見ているだけで申し訳なかったです。母も手伝わせようとはしなかった。申し訳ないですね。
祖父は、若いころはけっこういろいろ家族に迷惑をかけていたタイプの男性だったようでした。その数年後に祖父が亡くなったときに「知らない兄弟が出てこなくてよかった」と母が言っていたので、そういうことがあったんだろうな、と思っています。あと、母は高校の時それなりに成績が良くて、秋田大に行きたいと思っていたらしいんですが、いわゆる「女に学歴は必要ない」ということで行かせてもらえなかったみたいで。現在母はメンタルをちょっと病んでいるんですが、院卒である私の妹に対して「あんたはいいよね、私なんか高卒だし」みたいなことをよく言っていたらしいので、未だに心の傷が癒えてないんだと思います。
そんな祖父を、どんな思いで介護していたのかな…と想像しますが、よくわからないというのが正直なところです。
そして、母と『同い年』である自分がおんなじことできるかな…とも思ってしまいます。介護の問題は、本当に難しいです。
『人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。』というのは『黄金律』というんですね…知らなかったです…。
誰しも一度は言われたことがあると思います。まぁ、きれいな言葉だな、とは思います。
私は、似たような言葉ですが、「自分が嫌がることは、人にしない」という言葉をよく言われました。「その人が何をしてもらうのが嬉しいかは人によるけど、何をされると嫌がるかは共通していることが多いから」と。私もそう思うので、特に子供にはよく言っていると思います。
要するに「おせっかいになる可能性がある」ということを考慮して、こういう風になったんじゃないかなと思うんですけど。
まぁ…今回の『ロスト・ケア』は、受け入れられて喜ばれていたケースもあるんだと思います。そんなことは誰も口にできなかったでしょうけど…。
佐久間については、とても残念な男性だなと思いました。せっかく頭が良くて時流を読む能力のような物もあったにも関わらず、そんな結果にしかたどり着けなかったか…と。もったいないですね。
でも、その佐久間が残したデータから、こんな大事件が発覚しました。しかも、その解析っぷりがとても鮮やかでした。椎名くんすげぇな。ぜひとも椎名くんにボーナスをあげてほしいものです。もちろん、そこに目をつけた大友さんの慧眼もすごいですが。
表紙にあった通り、本作は去年映画化されたようです。
検事の大友秀樹が、映画では大友『秀美』と女性に変更され、長澤まさみさんが演じていました。そして、斯波宗典が松山ケンイチさん。
驚いたことに、佐久間の名前がキャストになかったので、彼は出ていなかったのかな…? であれば、大友を恨む悲しい男は存在しなかったんですね…良かったような、残念なような。佐久間がいないと結構話が変わるような気もしますが、どうだったんでしょう?
ちなみに、小説で大活躍(?)の椎名くんは鈴鹿央士くんだったみたいですね。なるほどなー。長澤まさみさんとは『ドラゴン桜』でも一緒でしたねー。
読み終えてもなお、しばらく引きずってしまうような、重い話でした。でも避けては通れないですね。いろいろ考えるきっかけをもらえたような気がします。
とてもおもしろかったです。読んでよかった。
Kindle Unlimited で読みました。
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