二宮敦人さんの『ある殺人鬼の独白』を読みました。
二宮さんの小説は初めてです。
真っ黒い表紙に赤い殴り書きの文字。シンプルだけどインパクトのある表紙です。この表紙になんだか惹かれてしまって読みました。
7つの話が入った短編集でした。
1つ目の短編が始まる前とすべてが終わったあと、この『記録』を集めている人物の語りが挿入されています。この人物は「殺したり殺されたりするのが怖い。怖いものはその実態を確かめる事によって回避できる可能性があるから、殺人者の記録を集めている」と言っています。なんとなく納得できるような、できないような…。
ただ、「なぜ今殺されていないのか、殺していないのか。それはただ幸運だったから。あるいは豊かさや、恵みによってたまたまスイッチが入っていないから。そう、わたしたちの中には、スイッチが今も残っているのです」という言葉にはうなずいてしまいます。本当に、本当に些細なきっかけで殺す側にも殺される側にもまわってしまうのだなぁ、と小説やらドキュメンタリーやらを読んでいると思ってしまいます。
1つ目は『故障』。女たらしのホストの男性です。どうやら、顔面がボコボコに崩れている女性がとても好みで、たまらなく興奮するタチなんだそう。生育歴に同情すべき点はありますが…。親や生まれた環境は選べないので、かわいそうだとは思います…。
2つ目は『栄光』。これはねー…こういう人って、本当にいるんでしょうか? なんというか『真面目系クズ』ってこういう感じなのかな…? 以前読んだ『新宿鮫』の短編集『鮫島の貌』にあった『五十階で待つ』という話を思い出しました。
その話の男もこの『栄光』の男も、結構よくいるタイプなのかな…? 自分の子供はこういう…誰かの『養分』みたいな人生を送らないように、親としてできることをしたいと思います…。
3つ目は『沸騰』。いわゆる市民ランナーの星、みたいな女性の話です。正直、私も「長距離選手って走っている間何を考えているんだろう?」と思っていたので、なんかおもしろく読めたと言うか…。怖いですけど。私は短距離選手なので、走っているのは長くてもせいぜい20秒程度ですから、まー何も考えていません。この人はその間だけが本当の自分が開放されていたんですねー。だから引退したら…。
4つ目は『選別』。これは…この時代の女性の一つの物語というか。本人はどう思っているかはわかりませんが、こういう話はたくさんあったんだろうな、と思います。本人の『気持ち』はわかりませんが。これが、自分を責める方に行っちゃうと『サバイバー』とかになっちゃうのかな。あと、この女性は、過去を思い出しすぎて、後付けなのか事実なのかわからなくなっている可能性もあるんだろうなー。多分かなりのご高齢だろうし。
5つ目は『信頼』。1行目に『警告』があるのでちょっと身構えるんですが、話を読んでいくうちに普通に引き込まれていきます。でも、「あれ? あれ?」と思うことが少しずつ増えていって、なんだかわからなくなっていきます。どんどん矛盾が多くなってきて、話がわからなくなっていって…。これって『虚言癖』っていうレベルなんでしょうか?
6つ目は『親愛』。お肉屋さん。『鋼の錬金術師』のバリー・ザ・チョッパーを思い出しました。正統派のホラーって感じの話でした。
最後は『元凶』。これもなかなか…。誰しも二面性はあると思いますが、ここまで乖離していると生活がしんどかったでしょうね。最後の最後で自分で終わらせたのは、英断だったんだと思います。
それぞれの話で、最後に新聞記事っぽい引用があるのもおもしろいです。多分、『記録を集めている人物』とは別の人が書いた記事(?)だと思うので、本文と違い事実だけが淡々と記載されているのがまたおもしろいです。
ちょっとグロいのもありましたが、おもしろかったです。『そっちがわ』にいかないようにしなきゃね…。うん。
Kindle Unlimited で読みました。
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