葉真中顕さんの『絶叫』を読みました。
葉真中さんの小説は『ロスト・ケア』以来です。
今回の小説はねー、私が『絶叫』しましたよ…。あー、本当にびっくりした。
私はいつもほとんど Kindle 本を TalkBack で読み上げしてもらったものを聞いています。聞いていて漢字が思い浮かばなかった言葉なんかは、途中で止めて画面を見に行くこともあります。たまに間違えて読み上げられることもあるしね。
あとは、夜の片付け等がすべて終わり「あとは寝るだけ」となったときは、一緒に寝る娘の準備が整うまで画面を見ながら聞いていることはあります。画面の明るさを一番下まで落とさないと、目がチカチカして寝られなくなるので注意が必要ですが。
今回の『絶叫』も、ラストの方は娘待ちで画面を見ながら聞いていました。だからこそ気付けたと思います…。
ラストから遡って4行目、そこに書かれた『ルビ』が重要です。見逃さぬよう…。
物語は新聞の記事から始まります。一人の男性が刺殺された事件の報道です。
その後本文が始まり、先程の男性刺殺事件とは別の、女性の変死体が見つかった話が展開されます。亡くなっていた女性の傍らにあった通帳などには『鈴木陽子』の名前。彼女を追いかける刑事・奥貫綾乃が主人公…でしょうか? いや、亡くなった鈴木陽子こそが主人公でしょうか?
本文の文体はなんだか不思議な感じです。『誰か』が亡くなった鈴木陽子に話しかけるような感じ。陽子が生まれてからどのような道を辿って今の場所に向かったのか、それが細かく描かれています。雰囲気からして、刑事である綾乃の語りかけではない様子。誰なんだろう? と思いながら先へ進みます。
章立ての構成になっていますが、更に細かく1~30の数字が付けられています。奇数には『◆』、偶数には『◇』が付いていて、どうやら『◆奇数』は謎の人物が陽子に話しかける体裁の、陽子のこれまでのストーリー、『◇偶数』は刑事・綾乃が事件を追っている現在の様子が描かれています。そして、『◇プロローグ』と『◆エピローグ』とあるので、それぞれプロローグが現在の様子、エピローグが陽子の物語です。
陽子は…読んでいるうちにムカつきを覚えるくらい、ある意味典型的な『転落していく女性』という感じです。
いわゆる『毒親』といっても差し支えないような父・母に育てられ、弟もいじめから自殺してしまい、家庭内がぐちゃぐちゃでした。それはとてもかわいそうだと思います。母親は猫かわいがりしていた弟が死んでからも弟の幻影だけをかわいがり、相変わらず陽子に対しては雑な扱いのまま。いつしか陽子は金魚になった弟の幻影を見、それと会話するようになります。
就職しても結婚しても幸せになれず、離婚して転職して、不倫してその挙げ句に騙されて。どんどん堕ちていきます。「もう少し賢く生きろよ…バカかよ…」と思ってしまうくらいイライラさせられます。
ただ、嘲って終わりにはできないですね…。いつどんなことがあっても自分だけはこうならない、とは言えないな…と思いました。様々な不幸が重なったときにこういう選択をしないとは言い切れない部分があります。それが怖い。生と死の境界も紙一重、犯罪を犯す・犯さないも紙一重。つい先日も同じことを考えたばかりです。
流され流されたどり着いた先で、陽子はようやく『反撃』に出ます。自分の人生に対する反撃ですかね…。壮大な『金策』の計画の歯車の一つになりながらも、虎視眈々と逃げる隙を伺い続け…ついにはそれをやり遂げてしまいます。前半の流されるだけだった女性とはまるで別人です。
そして、次々と犯行を重ね、最後には安住の地へたどり着きます。…たどり着いてしまいましたね…きっとこのままなんでしょうね…。綾乃も降参していたようですし…。様々な偶然も味方しましたが、鮮やかな犯行でした。
そして、『絶叫』。最後の犯罪のとき、陽子が絶叫しながらだったことからこのタイトルになった、ってことでいいんでしょうか? しかし、はじめにも書きましたが、本当に私が『絶叫』しました。ホント、気付いてよかった…、画面見てなかったらスルーしちゃってたかもしれません。それでも十分おもしろかったんですが、やはり最後の仕掛けに気づけて良かったです…。なるほど、だからこういう感じの話しかけるような文体だったんですね…。
この小説は、以前 WOWOW でドラマ化されていたようです。
最初に刺殺された男性・神代武は安田顕さん。なるほどー、わっるい顔してるなー(笑)。陽子は尾野真千子さん。これもいいですねー、ぞくぞくします。
そして、刑事・綾乃は小西真奈美さん。はー、そうきましたか。読み終わってからこの配役を見たんですが、私の中では中山七里さんの『逃亡刑事』の冴子っぽい感じかな、と想像していました。
もしくは、今やっている『爆上戦隊ブンブンジャー』の細武調さん的な? 彼女、結構好きなんですよね…(笑)。
不思議な興奮がまだ残っています。いやー、おもしろかったです。
Kindle Unlimited で読みました。
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