美しき愚かものたちのタブロー

読んだ本

原田マハさんの『美しき愚かものたちのタブロー』を読みました。
原田さんの小説は『ギフト』以来です。

ギフト
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原田さんの小説はどれもおもしろいですけど、やっぱり美術に関係あるモノが大好きです。
今回の題材は『松方コレクション』。
1年ほど前に国立西洋美術館に行ったんですが、そのときに『松方コレクション』がなんなのか、をなんとなく知ることができました。

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でも、今回の小説を読んで、松方さんの想い、それを支えた人たちの想い、それらをぐっと引き寄せて知ることができたような気がします。

表紙はゴッホの『アルルの寝室』。いろんな呼び方がありますけど。
この間行ってきた『ゴッホアライブ』でも見た絵です。

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同じ構図の絵が3つあります。そのうちの一つ、パリのオルセー美術館にあるものが表紙の絵です。
これが松方コレクションだったとは。
この絵のことは、小説内にもでてきていて、「陰影がいっさい描き込まれていない」と書かれていました。…言われるまで気付かんかった…。やっぱり見方がなってないですね~あはは~。

1953年。日本を代表する美術史家である田代雄一は、政府からの要請でフランスに残されている『松方コレクション』の『返還』の交渉のためにパリへと向かいました。交渉の相手は個人的にも交流のあるフランス国立美術館の総裁ジョルジュ・サル。旧知の仲にも関わらず交渉は難航してしまいます。そもそもフランス側は、この交渉は『返還』ではなく『寄贈』だと言い、『松方コレクション』の中でも目玉となる数点の作品については国内から出さないと言っています。田代はサルをどのように説得すべきなのか思案します。
時は変わって、1921年。若き日の田代はフィレンツェに留学する前にパリに立ち寄り、松方幸次郎とともにパリ中を駆け巡って美術品を買い付けます。松方は「わしは絵のことはわからん」と言いつつ、財力に任せて次から次へと美術品を購入していきます。田代は松方にどれを買うべきなのかを必死でアドバイスし、買うべき運命の1枚を探し続けます。そんな夢のような日々でしたが、田代は松方に影のように付き添う日置という男性が妙に引っかかっていました。
そして再び1953年。『松方コレクション』の目玉作品の返還の目処が立たずに途方に暮れていたとき、かつて松方に仕えていた日置が田代に面会しにやってきました。今回の『寄贈返還』の対象である多数の『松方コレクション』をどうやって戦禍から守ってきたのか、日置の口から長い長い物語が語られます。

物語は、パリで田代氏がジョルジュ・サル氏と交渉する場面、松方幸次郎氏と田代氏がフランス中でのちの『松方コレクション』達を買い付けるために奔走する場面、第二次世界大戦を経て行方不明になっていた『松方コレクション』がどのようにして戦禍をくぐり抜けて来たのかを語る場面、1950年代と1920年代の物語、そしてその間を埋める物語という構成で語られます。

たくさんの人達が、戦前・戦中・戦後の過酷な時勢の中で『美術品』という『不要不急』のものに巨額の金を払い、たくさんの労力を注ぎ、人生すらも捧げていました。それに「愚か」という表現を当てたわけですが、その愚かな行為のお陰で我々は今、日本にいながら世界の素晴らしい作品に触れることができるんですね…。本当に、本当にありがたいことです。
一部返ってこなかった作品もあります。表紙の『アルルの寝室』、『アルジェリア風のパリの女たち』なんかです。この小説を読む前にそれを知ったとき「フランスひどいな」と思ったんですが、いろいろなものを読んで『フランス側が松方コレクションのすばらしいラインナップを認め、自国のラインナップにはない名画たちを国内にとどめたかった』という文を見て、なるほど確かにそれならしかたないかもな、と妙に納得してしまいました。日本人が日本で描いた名画が同じ立場だったら、「渡さないでほしい」と思ってしまうかもしれないですからね…。間に戦争も挟まれていますし、国際的なことは難しいです。

この本の解説は前国立西洋美術館館長の馬渕明子さんという方なんですが、以前開催された『松方コレクション展』にはこの『美しき愚か者たちのタブロー』を読んだ『オジさん』たちがたくさん押し寄せてきたそうです。確かに、この小説読んじゃったら見に行きたくなるよなー、『松方コレクション展』。残念ながら2019年は私はまだまったく美術に興味がなかったので、自分のアンテナにはまったく引っかかりませんでした。悔しいねぇ。

時を超えて、『松方コレクション』が日本の青少年たちにとって素晴らしい存在になっていることは確かだと思います。少なくとも、うちの息子と娘はモネの睡蓮を目を輝かせてみていました。私もですけどね。
松方さんをはじめ、尽力してくださった皆さんには本当に感謝の気持でいっぱいです。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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