夢を売る男

読んだ本

百田尚樹さんの『夢を売る男』を読みました。
百田さんの小説は『モンスター』以来です。

モンスター
百田尚樹さんの『モンスター』を読み終えました。 百田尚樹さんの小説は、このブログでは『プリズム』に引き続き2冊目です。 今回は、醜いがために迫害された少女時代を過ごし、とある事件を起こしてしまって故郷を追われた女性が、顔を整形しまくってめち...

百田さんといえば、昨年末ガンであることを公表されていました。
X(旧 Twitter)で『多分ですが、手術をしたら治るでしょう。仮に上手くいかなくても、それは天命です』ともおっしゃっていたそうですね。
なんというかものすごい方だなと思いました。自分がそう告知されたら、そんなふうに思えるかなって。
百田さんが悔いの残らぬように過ごせることをお祈りしています。

さて、今回の『夢を売る男』ですが、出版業界の話でした。
なかなか黒い。ジャンルは違うものの、テイストとしては中山七里さんの『作家刑事毒島』みたいな感じのブラックユーモアです。

牛河原勘治は丸栄社という出版社で編集長をしている男性。丸栄社は文藝新人賞などの文学賞を主催していて、その文学賞に応募してきた作品で大賞を獲得できなかった作品を、作者と出版社とが半分ずつ費用を出し合って出版する『ジョイント・プレス』という方式で出版している会社です。
自費出版をすればせいぜい数十万円程度で出版できる本を、ISBN コードの付与や専属の編集者を担当に付けること、本屋に配本するという契約などをパッケージ化して200万円ほどで販売しています。
「ネットのブログで一番多く使われている言語は日本語。70億人中1億人程度しか使っていない言語なのに、2006年でのシェアは37%。日本人は世界で一番自己表現をしたい民族である」と牛河原は言っていて、丸栄社の文学賞に応募してきた作家志望に対して日々営業をかけています。相手の虚栄心を巧みにくすぐり、おもしろいように顧客は増えていきました。
ある日、自分たちの商売が他社にもっと安価でパクられていることを知り、相手の会社を潰そうと画策します。自分の部下をその会社に入社させ、内部を探らせるなどの徹底ぶりです。
牛河原はどうやって対抗するのか? 出版業界の闇のようなものが垣間見えるような気がします。

丸栄社の商品ですが、はじめは「人の真剣な気持ちを弄んでいるのでは?」とちょっと反感を抱いたんですが、別に詐欺をしているわけではないし、きちんと担当も付けているし、一応本屋には並ぶし、本人たちもそれなりに喜んでいる人が多いみたいなので、なんだかんだ言って Win-Win なんだなと驚きました。確かに『夢を売る男』。すごいです。
作家志望の顧客に対しては、おべんちゃらも涙もいくらでも出る感じの牛河原ですが、最後の数ページを読んで「結構いいヤツ」と思ってしまいました。私もカモられるかな~。

でも、途中で育児本の章があるんですが、出版予定のその本の育児手法に対して「あれはダメだ」とその手法がどうしてダメなのかを解説するシーンがあるんですね。そこだけちょっとモヤッとしてしまいました。
どんな本でもそうかもしれないんですが、自分の悩みを解消しようと真剣に思ってその本を手に取る人もたくさんいると思うので、そういう人たちに対しては不義理だなーと思ってしまいました。
出版社から出版されている本って、ちゃんと編集者の人たちと議論して、間違っていないか、引用文は正しいのかなどの精査が行われていると思っていたので、こんな感じの本が溢れてたら嫌だなーって。
そんな本ばかりじゃないと信じたいです…。どうなんでしょう???

あと、今は『Kindle 出版』という手があるので、丸栄社の商売は上がったりになっちゃったかな…? やっぱり競合しますよね、きっと。

なにはともあれ、やはりおもしろかったです。
百田さんの本といえば、やはり『永遠の0』が第一想起なんですが、またぜんぜん違うジャンルの話ですね。さすがだなと思いました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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