中山七里さんの『月光のスティグマ』を読みました。
中山さんの小説は先日の『死にゆく者の祈り』以来です。
『スティグマ』とは『差別』『偏見』などという意味だそうです。樺沢先生がよくおっしゃっていたので覚えていました。
淳平は神戸に住む小学生。彼には6つ離れた兄がいます。そして淳平には、兄妹のように育った双子の麻衣と優衣という幼馴染の女の子がいます。淳平と麻衣と優衣はいつも一緒に過ごし、麻衣と優衣は自然と淳平に惹かれていき、淳平は近所でも評判のそっくり双子ではあるものの、優衣に次第に惹かれていきました。
中学生になり淳平は優衣と両思いになりましたが、二人の仲はゆっくりと育まれていきました。しかし、平成7年1月17日、阪神大震災が起きて彼らの生活は一変してしまいます。
その前日、淳平は塾からの帰りにたまたま兄の省吾が麻衣か優衣のどちらかと廃工場に一緒にいて、さらに兄が双子のどちらかに刺されたシーンを目撃してしまいました。
眠れぬ夜を過ごし、そして阪神大震災。淳平の両親は瓦礫の下敷きとなってしまいました。兄とは連絡が取れません。隣家からは助けを呼ぶ声。それに応えて瓦礫を掘り起こすと、双子の片方がいました。本人は『優衣』だと名乗っており、淳平も多分優衣だと思っています。が、そっくり双子であるため、確信は持てませんでした。避難所で離れ離れとなってしまい、それ以降は彼女とは連絡が取れなくなってしまいました。
淳平は大学を卒業し、東京地検特捜部の検察官になりました。優衣とはあの日以来再会できていません。彼女のことを忘れたわけではないものの、淳平もごく普通に恋愛をして今は恋人がいます。
東京地検特捜部は現在、是枝孝政という政治家に目をつけていました。二世議員ではあるものの、次に彼の所属する国民党が政権を取り戻した際には何らかのポストに就くだろうと言われている、今人気の議員です。『震災孤児育英会』という NPO への寄付金が彼に流れているという疑惑があるため、淳平はその NPO に潜入して捜査することになりました。そして無事、その NPO のボランティアスタッフとして採用されましたが、そこで是枝議員の私設秘書となった優衣に再会したのです。
是枝議員の疑惑は事実なのか? 優衣は本当に優衣なのか? 兄を殺したのは麻衣だったのか優衣だったのか? 淳平は自らの過去に決着を付けることができるのでしょうか?
序盤は逆『タッチ』のような構成で、ちょっと危ないこともありつつも、幼なじみたちの平和な日々が描かれていました。最初の方で舞台が神戸だと書かれていましたが、少し進むと『平成7年』と出てしまいます。「あ…これは…」と思っていると、やはり震災が来てしまいました。
地震の描写はやっぱりキツイですね。現状とリンクして、何も言えなくなってしまいます。急に保護者を失ってつらい思いをした子どもたちはたくさんいたんでしょうね…。
さらに、直接東北で被災したわけではないものの東日本大震災も経験し、そして最後はアルジェリアでテロに巻き込まれています。小説とはいえ、ものすごくハードな人生です。
そのアルジェリアでのテロですが、途中まで読んでピンときました。
これって、同じ中山さんの小説『総理にされた男』のテロのエピソードですよね! うわー、ここでこのリンク来るかーと思ってしまいました。
『総理にされた男』は3年くらい前に読んでいるんですが、なかなかおもしろかったのを覚えています。これを気にもう1回読むかー。
このアルジェリアのテロ、『総理にされた男』の方では日本でのテロの対応が焦点に置かれていましたが、こちらの『月光のスティグマ』では現地で実際に拘束されて人質となった人たちの立場で書かれていました。ものすごい緊迫感でしたね…。まさに地獄。自分が巻き込まれてしまったら…と思うと本当に怖いです。生き残れる自信もない。
『総理にされた男』は2015年、『月光のスティグマ』は2017年のようなので、『総理にされた男』の方が先なんですね。こういうのって、いつか別アングルで使おうってどの段階で思うんですかね! いつもすごいなと感心してしまいます。
結局、『スティグマ』というのは
- 兄を殺したのは『麻衣』なんだという『偏見』 → 『月光』だからこっちがメイン?
- 震災で生き残ったのは『優衣』だという『偏見』
- 是枝議員の秘書であり愛人でもある『優衣』への偏見
みたいな感じでいいんでしょうか? 3はないかな…?
Amazon のレビューでは「どんでん返しがなくて残念」という投稿がいくつかありました。
確かに、中山さんのいつもの『どんでん返し』というのはなかったですが、やはり『総理にされた男』とのリンクがあったので、私としては大満足でした。
やっぱり中山さんの小説はおもしろいですねー!
Kindle Unlimited で読みました。
[AD]月光のスティグマ
コメント