I の悲劇

読んだ本

米澤穂信さんの『I の悲劇』を読みました。
米澤さんの小説は『いまさら翼といわれても』以来です。

いまさら翼といわれても
米澤穂信さんの『いまさら翼といわれても』を読みました。先日の『ふたりの距離の概算』の続刊です。 『<古典部>シリーズ』、既刊分の最終巻です。さて、どうなることやら…。 今作はまた短編集でした。なかなかおもしろい話揃いで、とても読み応えがあり...

『<古典部>シリーズ』の既刊は読み終えてしまったので、その他の米澤さん作品を読むことにしました。
今回は『I の悲劇』。
タイトルからして『X の悲劇』『Y の悲劇』『Z の悲劇』からの『W の悲劇』系のリスペクトですかね。

W の悲劇
夏樹静子さんの『W の悲劇』を読みました。夏樹さんの小説は初めてです。 『W の悲劇』は1982年の小説です。でも、思ったよりも古さは感じませんでした。それが、名作が愛されるゆえんなんでしょうねー…。 今回読もうと思ったのは、以前読んだ『W...

『W の悲劇』しか読んだことないけど…。
『W の悲劇』の『W』には様々な意味が込められていました。
今回の『I』にはどんな意味が込められているのか…と考えながら読みました。

この本は連作短編集で、8つの短編が入っていました。
以下は1章読み終えるごとに書いた感想で、そのあとの話は加味されていない状態のものです。

最初は『I の悲劇』。
短く、今回の舞台『簑石』地区についての説明がされました。
ひとり、またひとりと住人がいなくなり、誰も住まないゴーストタウン(ゴーストヴィレッジ?)が出来上がるまでの話が書かれています。
今の時代、こういう集落ってたくさんあるんだろうな…と思ってしまいます。
私は両親が秋田の都市部じゃないところの出身なんですが、まぁ、そんな感じだな…って。

2つ目は『軽い雨』。
いきなり『テセウスの船のパラドックス』から始まりました。
たしかに、『再生』ってなんなのかな、とは思ってしまいますね。
始まり方から哲学っぽい感じの話なのかと身構えましたが、まぁそんなこともなく。
最初は中山七里さんの『ワルツを踊ろう』みたいな、限界集落でなんかいろいろおっぱじまっちゃう話なのかなと思いましたが。
まぁ、そういう話っちゃそうなんですけど、なかなかおもしろかったですね。
一見昼行灯かと思っていた課長が、意外や意外、探偵役として最後に大活躍。
そういう形式の物語なんでしょうか?
今回使った方法としても、確かにそれであれば自分たちにはほとんどデメリットないですもんね。
失敗したら失敗しただし、成功したらラッキーみたいなレベルですからねー。
こういうのも『未必の故意』っていうのかな?
しかも、うるさくしていた理由を明かされて、本当にガッカリっていう感じでしたね…。
まあ、壊滅的に相性が悪い二家族、不幸な組み合わせだったっていうことなんでしょうか。

3つ目は『浅い池』。
これは盲点でした。確かにそれだと恰好の的になっちゃうかー、と残念な感じ。
養殖してる様子を『青空レストラン』なんかで見ても、上は囲ってないよな、なんて。
でもそれは、『深い池』だったからなんですね。
浅い池だから中のものも目立っちゃうし取られやすいのかな。
人間対策は十分安全だったのに、残念でしたね。
持ち金全部つぎ込んだ感じなのかなー、だとしたらきついですね…。
今回も課長がなんかいろいろ言ってくれるのかなと思っていましたが、そういう感じでもないんですね。
『課長の安楽椅子探偵の本』っていうわけではないようです。

4つ目は『重い本』。
これはやりきれない話でした。
今までの傾向からして、関わった家族が簑石地区から出ていくっていう流れになることは予想していましたが、今回はちょっとかわいそうでした。
しかし、万願寺さんが防空壕の位置を見つけたのはかなりのお手柄でしたね。
しかし、その防空壕の存在に加えて、子供の好奇心と家の古さ。
それが災いして、あんな事故に繋がってしまいました。
男の子に後遺症があるかどうかは知らされなかったみたいなんですが、できれば何事もなくちゃんと元気に大きくなってほしいなと思う。
確かに、救急車呼んで50分来ないとなると、子供を育てるにはちょっと不安ですね…。
平均時間は10分程度ですもんね…。
気持ちはわかります。
ただまぁ、こういうタイプの子どもがいる家庭であれば、病院の近さとかは最初から考慮に入れてほしかったな、とは思いますが。
それ以外の環境はめちゃくちゃいいんでしょうけどねー。
あと、本のおじさんの方も、せっかく良かれと思って子供に解放した我が家で怪我をしてしまうなんて。
これは不幸だったと言ってもいいんじゃないかなと思います。
二家族とも、この村になじんで根を張って生きていってほしいなと思えるような人たちだったので、とても残念です。
しかし、課長はいつでも仕事先延ばしにしますね…。
いくらなんでも、住民票とかたどれば追跡できるんじゃないんでしょうか?
先延ばしにしたって何もいいことないと思うんだけど、まあいいのかな?

5つ目は『黒い網』。
なるほどー、マジシャンズセレクトですか。
なかなか興味深い話でした。
『金田一少年の事件簿』の『異人館ホテル殺人事件』、いわゆる『赤ひげサンタ』の最初の殺人を思い出します。
あれは台本にト書きを一言書いていたがために毒のグラスを選んでしまう話でした。
今回は、河崎さんの奥さんの考え方を読んで、一つだけ混ぜておくっていうのがなかなかおもしろかったです。
にしても、河崎さんの奥さんが嫌いなもの、『ガソリン車』と『コーヒー』と『無線の電波』となると、それってまるまる『タクシー』じゃないの?って思っちゃうんですけど…。
奥さん、旦那さんのことを大嫌いだったんじゃないの? って。
これはちょっと穿ちすぎでしょうか…?

6つ目は『深い沼』。
今回のお話に『深い沼』自体は出て来ず、『比喩』でした。
「都心ががんばって捻出したお金を地方が消費する』『コストを削減するためにも中央の方に住んだ方がいい』という弟の言葉、まぁなるほどそれは一理あるかもしれないです。
私自身は今東京に住んでいるし、仙台に帰りたくないと思っているので…。
ただまぁ、それこそ本当に万願寺さんの言う通り、どこに住むのだって自由ですからね。
まぁ私は『I ターンプロジェクト』とか遠慮させていただきたいし、夫には『人生の楽園』を見てたときにも「こういうの、興味あったりするの?」って聞いていて、毎回「ない」って言われてすごく安心していますけど…。
難しいところではあるなと思います。
『人生の楽園』といえば、西田敏行さんが亡くなってしまいました。
とても悲しいです。
御冥福をお祈りします。

7つ目は『白い仏』。
…あれ?
これって、空気のせいで内開きの扉が開かなくなってるんだと思っていたんですが、違うんでしょうか…?
探偵学園Qの8巻『家庭科室の謎』に、シチュエーションが似てると思うんですが。
にしても、いくらなんでも、勝手に盗んですり替えて自分の床の間に飾っておくとか、まさに盗人猛々しいですね。
それで見つかったところで、言い訳でのらりくらりとかわすとか。
まー、図々しい。
でも、ここはやっぱり課長がビシッと言ってくれたおかげで、村から追放することができました。
しかし…どんどんどんどん人が減っていってしまって、なんか結局頓挫して終わっちゃいそうな予感がありますね…。

そして最後8つ目、『I の喜劇』。
そうかー、黒幕はそういうことだったんですね、納得。
観山ちゃんも、ただのかわいくて無知な感じの女の子だったわけじゃなかったということですか。
万願寺さん1人だけ騙されてて。
でも、さすが最後には全部気づいて突きつけるとは、やるなと思いました。
仏間での一件は、やっぱり気圧の関係だったみたいです。
しかも、二酸化炭素はドライアイス!
ここで魚屋さんが絡んでくるわけですね。
…といっても、親切心でただドライアイスくれただけでしょうけど。
そして、除雪もここに絡んでくるのかと唸ってしまいました。
確かに、「村が存続すればそれだけ税金がかかる」って弟が言っていたことは間違っていなかったということなんでしょうね。
しかし、万願寺さんがこの後どうするか、ですね。
市役所の役人としての矜持というか、そういうものはなんか全部吹っ飛ばされてしまったような感じします。
ただ、「それだけのことをされてしまったわけだから、次の人事異動は望むがまま」というのも、ちょっと羨ましいような気もしますね。
しかし、観山ちゃんが「本来であればこんな市役所で働いてもらえるような人材ではない」と言われていましたが、じゃぁどどんな感じなの? と、ちょっと想像つかなくて。
なんかものすごい資格持ってるとか、なんかすごい論文発表してるとか、そういう感じの人だったりするのかな?
ちょっと気になります。
この章のタイトルが『I の喜劇』というのも、なんか物悲しい感じがします。
これは、喜劇なのかな…悲劇じゃないかな、やっぱり。

今回の小説のタイトル『I の悲劇』の『I』は、もちろん『I ターンプロジェクト』の『I』だと思いますが…。
あとがきに、各章のタイトル『軽い』と『重い』、『浅い』と『深い』、『黒い』と『白い』で対比させていると書かれていました。
…全部「い」で終わる形容詞ですね。
『I』はそれにも掛けているんでしょうか?

なんだかいろいろ考えさせられる話でした。
万願寺さんが人間不信にならず、これからも元気で働けるといいんですけどね。
おもしろかったです。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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