伊坂幸太郎さんの『AX アックス』を読みました。
先日の『マリアビートル』と同じ『殺し屋シリーズ』です。
『殺し屋シリーズ』3作目ですが、前2作とは違って連作短編集のような形でした。
各章のタイトルの文字が『A』『B』『C』『E』『F』で始まっているんですが、『D』だけがないのは何か意味があるんでしょうか…?
まず、表題作『AX』。
初登場の『兜』という殺し屋が主人公です。
かなりの恐妻家のようで…。
最初に蜜柑と檸檬の話が出てきましたが、「ああ、彼らも死んでしまったんだよな…」とちょっと悲しくなりました。
同じ『業界』とはいえ、死亡情報は広まらないんだな、と。
先日見た『鬼滅の刃』の映画では、カラスが知らせてくれていたのでね…。
まぁ、『味方』じゃないから当然ですかね。
兜はめちゃくちゃ恐妻家なんですが、『恐妻家』の話でいつも思うのは、こういう奥さんってどういう感情で暮らしているんだろう、ということです。
一緒に暮らしている人を『支配』して楽しいと思っているのか、はたまた傍若無人な性格ゆえそんなことにはまったく頓着しないのか、もしくはサイコパスなのか。
だって、夫とはいえ相手は男性なわけで、いざガッと来られたら普通は力では勝てないじゃないですか。
「いつか反撃されるかも」とか、「なにか仕込まれるかも」とか、そういうことは考えないんでしょうかね。
相手に対する愛情なんて、一瞬で枯渇することだってあり得るのになー。
そして、今回もまた、「日本には殺し屋がたくさんいるんだな」と。
まさか学校にまで潜入しているとは。
『金田一少年の事件簿』でいうところの、『異人館村殺人事件』の六星竜一的な感じで、赴任直前の教師を殺害してなりかわったって感じでしょうか。
怖いわ。
兜は、いつもは「情報と情報をすぐに結びつけて勝手に解釈する」と諌められていましたが、今回に限ってはその想像が当たっているような気がしいますね。
校内での事件も未然に防げたという点から、今回のお父さんはヒーローなんじゃないかなと思いました。
息子には伝わりそうにないですけどねー。
2つ目は『Bee』
この流れで『Bee』といえば当然スズメバチだろうなと思って読んでいました。
結局、『謎の人物』がそうだったのかは分からなかったですが、兜は雀蜂からも『スズメバチ』からも家族を守ったんですねー。
もちろん、妻には感謝されなかったっぽいですけどね。
そしてまさか、リアル雀蜂の駆除を素人がやるなんて、考えてもみなかったです。
「殺し屋は考えることが違うな…」と思いつつも、終わった状態では普通の人でも歴戦の殺し屋でもあんまり変わらなかったかな…。
その後に殺し屋・スズメバチを退けた(と、思われる)のはすごい功績ですよね。
完全防備の状況をつかうなんて、すごい機転でした。
相変わらず奥さんの傍若無人さにうんざりするんですけど…兜本人がいいならいいんですけどね。
スズメバチといえば、以前貴志祐介さんの『雀蜂』という小説を読んだことがあるんですが、それも怖かったですね…。
3つ目は『Crayon』。
なんだか急にハートフルな感じの話でした。
もちろん、内容はなかなかに物騒なものではありましたけど。
こうやって読んでいると、本当に殺し屋なんてその辺にたくさんいるのかな、なんて思ってしまいます。
嫌ですけど。
普段は一般人の仮面をつけていても、実は…なんてこともあったりしちゃうんでしょうか。
ワンフレーズだけ『グラスホッパー』に登場していた『蝉』の話が出てきて、それもなんだか懐かしいなと思ってしまいました。
みんな死んじゃったな…。
今回お友達になった松田さん、本当に本当に最後の最後まで、私はずーーーっと疑っていたんですよね…。
いつ『同業者』だということがわかるのか、いつ兜を狙ってきた刺客だと明かすのか、ずっとヒヤヒヤしていました。
同じ恐妻家で、同じようにサラリーマンで、共通点もすごく多く、しかも息子と同じクラスの娘さんがいるということまでわかって。
確かに、本当に運命的だったんですが…とても残念な結果になってしまいましたね。
娘さんは、高校生になってからの転校だといろいろ大変かもしれないですが、なんとかがんばってほしいなと思います。
当の松田さんは、本当に離婚したのかどうなのかはわからないですけど、今回のことはせっかく兜が処理してくれたんですから、素直に忘れて新たに生きていってほしいです。
ただ、「自分はブチ切れると危ないことしちゃう人間だ」ということだけは心に留めておいてほしいですけど。
まぁ、今回は正当防衛だとは思います。
なので、必要以上に心を病まないでほしいですね。
兜がそばにいたっていうのは、最大級のラッキーだったんでしょうからね。
4つ目は『EXIT』。
え、何、最後の方になんかすごい『爆弾』が書いてあったんですが、どういうこと!?
兜、死んじゃったの?
少なくてもあともう一章分はあるから、そこまでは大丈夫なんだと思ってたのに…。
『グラスホッパー』でも『マリアビートル』でも、殺し屋はたくさん死んでしまっているのであり得るとは思っていたんですが、まさかここで…?
殺し屋同士の、なかなかに刺激的な戦闘シーンが展開されていたんですが、最後のアレで吹っ飛んでしまいました。
しかし、殺し屋にもいろんなタイプがいるなんだな、と。
兜や『警備員』みたいに、どうにかして仕事から抜け出したいと思っている人もいれば、今回の『警備員』の同僚のように「名をあげたい」と思っている人もいる。
一体、この業界はどれほどの規模のものなのか、何人ぐらいが在籍しているんでしょうかね…?
まぁ、やっぱり『同じような属性』だと親しくなりやすいですよね。
今回も、前回の松田さんのようにお友達になれるかもしれなかったのに、まさかの同業者だったとは…。
2回連続同じような話かと思い、奈野村さんに対してはあまり警戒していなかったのに、こっちが本命だったか…と。
医師は、「投資した分を回収しなければ辞めさせられない」と言いますが、一体何を投資されたんでしょうか…?
一般企業の新入社員だとそういう話はよく聞きますが、医師は兜に対して何を投資したんですかね?
気になります。
武器とか渡したにしても、どうせお金は天引きされていそうなのに。
それとも、やっぱり辞めさせないための方便だったんでしょうかね。
…最後に書いてあった通り、本当に兜は死んでしまったんでしょうか…?
息子も妻もいるのに…。
最後は『FINE』。
内容的にまだ1/3くらいあるにも関わらず、兜はやっぱり死んでしまっていました…。
どんな話になるのかと思っていたら、まさかこんな展開だとは。
『クリーニング屋』が言っていた通り、まさに息子と二人力を合わせて『医師』を退けた、と言っても過言ではないような展開で、胸がとても熱くなりました。
やっぱり誰かが『自殺』してしまうと、残された人たちはものすごい後悔の念に苛まれてしんどいんだな、ということがよくわかります。
兜は、実際には『自殺』なのか『殺された』のか微妙なラインですが、表向きには飛び降り自殺したということになっていました。
奥さんも息子も、「夫・父はなぜ自殺したのか」と、ずっとずっと考えている状態でした。
奥さんなんか、その日の朝間違えて送られてきたメールで夫の浮気を疑って、そのまま『自殺』されてしまったモンですから、ずーーーっと引きずってるっぽかったですね…。
まぁ兜は自殺かどうか微妙ですから当てはまらないんですけど、やっぱり自殺というのは、改めて残されたの人のことを思えばやってはいけないことなんだな、と分かりますね…。
東野圭吾さんの『手紙』にも、同じようなことが書かれていたように思います。
それから時は、兜が死んでずいぶん経って、息子も結婚して子供まで生まれている状態まで流れました。
ある日兜が隠した鍵が見つかるところから話が再び動き始めました。
そのきっかけもなかなかおもしろくて。
何というか、「どんな人にでも親切にしておくのはいいことなのかも」と思わせるような出来事でした。
その流れから、息子と医師が知り合ってしまって、見つかった鍵についても相談してしまったために、つきまわれることになってしました。
最後には銃口を向けられるという場面にも遭遇してしまいました。
でも、やっぱりここでも兜が生前に種を蒔いておいた親切が花を咲かせて、息子は大事に至らずに乗り越えることができました。
こうやって恩返しをしてくれる人もいるんですね。
まさか、ずっと見守っていてくれたとは思っていなかったですけど。
…最後に至るまで、「ひょっとしたら死んだのは偽装なんじゃないか」とか、「一応、槿(あさがお)にも依頼をしていたわけだから、数年越しに実行してくれるんじゃないか」とか、いろいろ考えていたんですけどねー。
『偽装』はずっと考えていたんですけど、家族思いの兜が家族に会えなくなることを良しとするはずがないな、とも思っていました。
槿に関してはちょっと肩透かしだったなー。
「ここで、義理堅く実行してくれてもいいのになー」なんて。
桃に好かれた殺し屋は、みんな死んでしまいました。
ある意味1番の『死神』なのかも、なんて。
彼女の描写では、彼女をうまく想像することができなくて…どんな人なんでしょうねぇ?
最後の最後で兜の回想が入りました。
奥さんとの出会いの様子が描かれていました。
本当になんてことない会話だったんでしょうけど、彼にとっては自分が『この世界』に生きていることの証みたいな感じだったのかな、と思いました。
ずっと暗い世界で生きてきたから、彼の奥さんは『兜のいるところ』から『表の世界』へ戻るための道しるべみたいな存在だったのかな、と。
たとえ、顔色を伺って毎日ビクビクして過ごしていたとしても、それでも奥さんはとっても大切な人だったんでしょうね。
もちろん、兜自身がいろんな人の命を奪ってきているから、いわゆる「畳の上で死ねると思うなよ」的なところはありますが、それでももうちょっと生きていてほしかったですけどね。
せめて、孫の顔を見せてあげたかったな、と。
前2作とはかなり違うテイストだったと思います。
でも、これはこれですごくおもしろかったです。
やっぱりすごい作家さんですね。
次の『777 トリプルセブン』も楽しみです。





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