落日

読んだ本

湊かなえさんの『落日』を読みました。
湊さんの小説は『往復書簡』以来です。

最後まで読んで、全部の点が繋がったな、とすっきりした気持ちになりました。
あぁ、本当に良かったなと、なんだか心が満たされたような気がします。

最初、監督の香はなんか美人なのに辛気臭いし、脚本家の真尋は「姉ちゃん、姉ちゃん」していて芯がない感じだし、「なんだかなー」と思いながら読んでいました。
けれど、それぞれみんな心に抱えていたものがあって、しかもそれが最後には全部1つに繋がりました。
すごい物語だな、と。
香監督の幼少期、心の支えになっていたのが、まさか沙良ではなく力輝斗の方だったとは。
まぁ、幼稚園児なんて性別があってないようなもんだし、分からなくても仕方ないなという感じはします。
しかし、なぜ彼はそこまで虐げられなければいけなかったのかな…と。
本当に、本当に悲しい気持ちになりますね。
そんな扱いをするくらいだったら、早くに施設なりに預けてくれれば、こんなことにならずにすんだかもしれないのに…と思います。

そして、沙良。
彼女はなんだかとんでもないサイコパスの女の子に描かれていました。
でも、こういうよく嘘ついてる子って、小学生ぐらいまでだったらいるよなーという感じです。
小学生のとき「その嘘吐いて何の意味があるの…?」と問いただしたくなるようなどうでもいい作り話を聞かされてうんざりするという経験は、私にもありました。
私の同級生のその子はそこまで大ごとにならない感じではありましたが、沙良は顔がとてもかわいかったがために、真に矯正されることがないままに大きくなってしまったのが、本当に不幸だったのかもしれないですね。
…にしても、美人率高すぎですよ、この周辺。

香監督の身の上も「ヘビーだなぁ」と思いながら読んでいました。
母親が祖母(夫の母)に認められず、躍起になって教育して、それが巡り巡って全部返ってきている、みたいな。
その後も、祖母に引き取られて暮らしていたものの、同級生の男の子絡みでひどい目にあってしまいました。
それだけならまだしも、その親からもひどい言葉を投げかけられて。
その年頃の女の子だったら、潰れちゃって当然のような流れですね。
美人にも関わらずちょっとおどおどしていたりするところは、そこがルーツなのかと思うと…本当にかわいそうだなと思います。
相手の母親の言い分はひどいです。
「キスしてあげましょうか?」って、何様のつもりだよ…。
これぐらいの女の子にとって、どんだけ酷だったかと思うと涙が出ます。

脚本家の真尋の方も、最初は「なんだか自分がなくてふにゃふにゃした人だな」と思っていました。
彼女のお母さんが特別悪いというわけではないんですが、まぁその影響でずっとちゃんと向き合ってこられなかったんだなと。
今回、奇跡的に香と真尋のタッグが決まって、2人とも救われて本当に良かったなと思いました。
しかも、最後の最後で、香のお父さんは自殺じゃなかったということも分かりました。
こんな狭い世界のはずなのに、そういうことは伝わらないもんなんですよね。
でも、ようやくそれを知ることができてよかった。

肝心の死刑囚である力輝斗ついては、もうこういう流れになってしまって、これ以上何かできることがあるのかどうかは分からないです。
以前読んだ中山七里さんの『死にゆく者の祈り』を思い出しました。

やっぱり本人が自暴自棄になってしまうと、こうやってどんどん最悪の結果の方に行ってしまうんですね。
これから香監督と面会することになって、まぁどういう方向に転ぶのか。
想像するしかないですけど、ちゃんと自分で納得できる結末になることを願います。

今回の Audible の朗読は北川景子さんでした。
北川景子さんの朗読は、意外にも飾らない素朴な感じでちょっと意外でしたが、すごくよかったです。
この『落日』を WOWOW でドラマ化したとき、香の役が北川景子さんだったようです。
脚本家の真尋は吉岡里帆さん、力輝斗が竹内涼真さん。
なるほどなーという人選です。
というか、やっぱり真尋もかわいすぎでしょう…。
真尋の師匠である有名脚本家先生を黒木瞳さんが演じられていたようで、それを知ってから北川景子さんの朗読のその部分を聞くと、黒木瞳さんが言っているように聞こえてきて、本当に驚きました。
やっぱりさすがですね。

沙良は、脚本のプロットに書かれていたように、真尋の姉を死なせてしまったことを後悔してると思いたいです。
香監督の前の映画作品『一時間前』。
これを映画化に持っていくため、加害者の母親たちを説得した監督。
本当にすごい仕事をする人ですね。
やっぱりこうやって女性ががんばっている話を読むのは嬉しいです。
今回の物語は、みんないろいろつらいものを抱えていて、傷が見えるようで痛ましい部分もありましたが、それでもがんばっている人たちは報われてほしいと思います。
おもしろかったです。

Audible で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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