恒川光太郎さんの『竜が最後に帰る場所』を読みました。
恒川さんの小説は『夜市』以来です。
恒川さんの小説は、本当に不思議な読後感があってかなりタイプなんです。
中にはちょっと怖い話もあるんですが、不思議とやめられないんですよね…。
今回の『竜が最後に帰る場所』も同じテイストで、安心したというか不穏な気持ちになったというか(笑)。
5編入っている短編集でした。
最初は『風を放つ』。
なんてことない本当に普通の話…なような、そうでないような…。
深夜の印刷所のバイトで知り合った先輩、その先輩がナンパして適当に持ち帰った女の人から「携帯の番号を盗み見た」と言って電話がかかってきました。
ちょっと虚言癖があるメンヘラっぽい子だったので、適当にあしらいつつ無視しつつ、たまに会話するという感じ。
彼女が「人を殺せる瓶を持っている」みたいな話になって…という感じなんですが、その話が「小学生か?」というような内容でした。
ただ、それをおそらく成人すぎている女性が臆面もなく言ってしまうところに危うさを感じるし、確かにこういう女性に魅力を感じる男の人もきっといるんだろうなぁと思ってしまいました。
結局本当何も起こらず、何も解決することもなく、ただただ時が過ぎ去ったというような感じの話なんですが、なんか不思議とちょっと引きずるところがあるというか…変な哀愁が癖になるという感じでした。
2つ目は『迷走のオルネラ』。
これは…私的にはかなりスカッとした話でした。
幼い時に母を殺されて、出所してきた犯人を拉致・監禁した上で洗脳し、別の殺人をさせるみたいな感じの話です。
いろいろ法に触れることはしているんですが…結局その殺人で救われた男の子がいるわけだし、平たく言ったらなんかみんな幸せになれたのかな、と思ってしまいました。
このひとは、もうそういうことでしか社会の役に立てないのかも知れませんね。
この話の先がどうなるかはちょっとよくわからないですけど、無責任に言ってしまいますが、良かったんじゃないかな…と。
ただ、アイドルを自分の妻だと思わせるっていうのは、意味がよくわからなかったです。
そのアイドルの彼女に、何か危害が加わらないといいなあとは思いますけど…。
昔の元カノもなんかいろいろ大変みたいですが、幸せになってほしいと思いますし、漫画家の娘の方も新しい一歩ちゃんと踏み出して、これからも頑張って欲しいと思います。
もちろん、主人公も。
3つ目は『夜行の冬』。
怖いような、それでいて夢があるような、本当に不思議な話でした。
夜中に金属音が聞こえてきて、赤い服を着た女の後についていくと、街をぐるっと一周してまた戻ってきます。
でも、出ていった街とはちょっと違う『パラレルワールド』みたいなところに到着して、それまでとはちょっと違う生活を送ることになるっぽくて。
何かが微妙に違う、不思議な生活が始まります。
例えば配偶者だとか、勤めてる企業だとか、家族構成だとか。
それで数日を過ごした後、またその金属音が聞こえて行列に参加して…というのを、冬の間繰り返すことができるみたい。
参加するのは自由だし、別に参加しないことで何かペナルティーがあるわけではない。
ただ、行進している途中で怪我をしたりして列から離れてしまうと、後ろから異形のモノが着いてきているので、そのモノたちにどうやら食べられてしまうらしい…。
リスクはあるんだけど、不思議な魅力があって、もう何年もずっと繰り返している人もいるようです。
ただ、急にいなくなる人もいるし、食べられちゃう人もいる、みたいな。
サバイバルですね。
最後はなんかちょっと悲しい感じのお別れになってしまうんですが…。
冬の間しか現れないらしい、『不思議な魅力』ですね…。
自分が遭遇したらどうしちゃうかなーって考えてしまいます。
できれば参加したくないけど、偶然その『金属音』が聞こえた時に、自分の生活が満たされてなかったら…参加しちゃうかもしれないですね…。
次の町が、今よりもずっといいところかもしれないし…って思うと、なんかずっと追いかけ続けてしまうようで、それも怖い。
ある意味依存のような形になってしまうというか…いや不思議な話です。
でも、いまいち解釈がよくわからなくて、ちょっとググってみたら、「刑務所、もしくは精神病院に週間されている主人公。知らないはずの娘の名前を思い出したのは、以前付き合っていたから。本当は彼が殺してしまって…」という解説を見ました。
うわーーーー、なるほどなー。
それが正解なのかはわかりませんが、おもしろい。
どういう解釈でも、きっと正解なんだと思います。
4つ目は『鸚鵡幻想曲』。
『偽装集合体』というパワーワードがあって、なかなかゾワッとする話でしたね…。
日常のものに紛れて、ものの『ふり』をしているんですけど、実は別の何かが集まってきたものだったという感じです。
ある場所の『ポスト』が実は『てんとう虫』をものすごい数の集めた集合体だったりとか。
想像するとゾワッとします。
そして、その偽装を解ける人がいて、その人が目をつけたのが主人公でした。
偶然を装って話しかけ、「あなたが先日買った電子ピアノは偽装集合体ですよ」と知らせ、それの解放をしようと部屋に上がってきたところ、実は電子ピアノではなく主人公本人が偽装集合体だった、という話でした。
ここまでで半分。
集合体を解かれて20羽のオウムになってしまった主人公たちは、風に乗って南下します。
その後もいろんなことがあったんですけど、自分の集合を解いて解放した人物にも仕返しできたし、まぁその後の人生もなんだか楽しめそうな感じでした。
なんとなくハッピーエンドな感じで終わってる話で、不思議で爽やかな読後感でした。
最後は『ゴロンド』。
さっきの『鸚鵡幻想曲』が、この本のタイトルに通じる話になるのかなと思ってたんですが…いやいや、こっちの話でしたねー。
『ゴロンド』は『ドラゴン』の話でした。
不思議な場所に生まれて、生まれた瞬間から外敵の多い所に存在していて、命の危険を常に感じながら生き、ようやくコロニーを見つけ、穏やかな日々を過ごすします。
次第に体が大きくなり、羽が生えてきたところで、全員が巣立たなければいけなくなってしまいます。
そこから人間と出会い、人間に親しみを持ちつつも恐れ、人間がいない場所に自分の住処を見つけるために旅立っていく、というような感じの話でした。
なんか、本の向こうに大きな空が見えるような、何も悲しいことはないはずなのに涙が出てくれるような、そんな話でした。
なんというか、『自然』をすごく感じる話で。
人間はやっぱり恵まれているなーって思いました。
生まれた瞬間放り出されたら、生きていけないですもんね。
今だって、自分たった一人じゃ生きていけないです。
誰かが何かを作ってくれたり、自分の代わりに何かしてくれないと生きていけないです。
でも、もうそういうしくみになってしまってるから、まぁ仕方ないんですけどね…。
いつも思うんですが、本当はこの世界にドラゴンっているんじゃないかな、って。
人から巧みに隠れてるだけで、なんて。
いるんだったら会ってみたいですね…。
きっと、神々しいんだろうなぁ、という妄想です。
本当に不思議な話で、なかなか味わえない感覚ですね。
Kindle Unlimited で読んだんですが、いろんな本を試せるってことで、やっぱりすごくありがたいサービスだなと思ってしまいます。
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