祝葬

久坂部羊さんの『祝葬』を読みました。
久坂部先生の本は『悪医』以来です。

悪医
久坂部羊さんの『悪医』を読みました。久坂部先生の本は『廃用身』以来です。この『悪医』、「余命を宣告されたらどう過ごすか」というのがテーマ、ということでいいんでしょうか。本当に難しい問題だと思うんですが、小説でわかりやすく語られていて、興味深…

本作は連作短編集でした。
「医師になると代々早死する一族である」と自認している男性医師・土岐祐介が、やはり37歳で亡くなりました。
一族には、他にも比較的若くして亡くなる『医師』が多くいます。
それはどうしてなのか。
最初に家系図と死因がついているので、何度かそれを参照しながら読むことになりました。

最初は表題作『祝葬』。
家系図下の『祐介』の死についてです。
語り手は祐介の友人の手島医師(土岐家ではないので、この家系図にはいません)。
…これは、もったいなかったんじゃないかな、と思ってしまいました。
せっかくお医者さんになったのに。
「一族が早死だから」と若いうちから諦観・厭世感たっぷりにして生きていたから引き寄せたのか、やっぱり『そういう一族』だから引き寄せたのか。
どっちなんでしょうね。
タイトルの『祝葬』のとおり、本人にとっては良かった…のかな。
部外者からしてみれば「もったいない」と思ってしまうんですけど。
しかし、今回は「本人が望んでいたこと」で、かつ「その後に『犯人』が同じ方法で」という形ではあるんですけど…警察にバレない方法って怖いなと思いました。
でも、さかなクン(さん)も「未知の毒を知っている」らしい(都市伝説)ですからね。
『毒殺』は、既知の毒しか検出できないですからね…。
そんな感じで年間何人かは亡くなってたりするんでしょうか。

2つ目は『真令子』。
家系図中央、『伊織』の死についてです。
語り手は、家系図左端の川嶋芳美。
すごい、こんなに何年間も引きずるものなんだなぁ…と、ちょっと感心してしまいました。
別に「人には生まれてきた意味がある」的な考えを主張したいわけではないんですが、それでも『手に入らないもの』にこんなに振り回される人生だと、ちょっと悲しいなと思ってしまいます。
これ、本当に早い段階でさっさと告白していれば、なんとかなったのでは…? と思うんですけど、どうでしょうか。
ダメだったとしても、さっさと未練を断ち切って次に迎えたかもしれないですし。
そして。
この真令子という女性。
まー、ある意味「この人がすべてを狂わせた」とも言えなくはないですね。
彼女さえいなければ…と、私だったら腸煮えくり返る思いになってしまうでしょうね。
でも、「真令子がいい人だったから」と。
…「いい人」ってなんなんでしょうね。
それも含めて難しいです。
『滑落死』の真相、なるほどなー…と。
やっぱり、『こういうシチュエーション』とか『船の上』なんかですと、発覚しにくいんでしょうね。

3つ目は『ミンナ死ヌノダ』
家系図左側、『覚馬』の死についてです。
語り手は本人。
樺沢先生が「一生懸命な医者ほど燃え尽き症候群になる」みたいなことをおっしゃっていましたが、そういう側面もあるんでしょうね。
『早死に一族』の謎を解明しようと、いろいろ探っていきます。
そのうちに、祖父・騏一郎の『噂』を知り、彼について調べていって見つけた「ミンナ死ヌノダ」の文字。
これだけ見ると『呪い』っぽい感じですけど、そんなことはなく、ただの『絶望の言葉』でした。
…みんな死ぬのは、本当に普通のことなんですけどね。
他人のことだとあっさり認められるのに、いざ自分や身内や近しい人にはなかなか当てはめられないんですよね。
本当に難しい話だと思います。
内容としては、前回読んだ『悪医』と共通する部分があったので理解しやすかったんですけど、それでもやっぱり難しいなと感じました。
マスコミの報道、人の噂、本当に胡乱なものだな、と改めて思います。
覚馬が『肺がん』で死んだのは、決して『発見』が遅れたからではなかった。
『医者の不養生』ではなかったんですね。
まぁ、納得しているなら『これ』もありだな、と。
ただ、医師ですから自分の死の状況を細かに分析できてしまって、ラストのシーンはなんだか壮絶だなと思いました。

4つ目は『希望の御旗』。
家系図右側『冬司』の死についてです。
語り手は妻・信美。
いやー…これはある意味『ホラー』です。
今の時代であれば「京大卒なのにすぐに専業主婦でもったいない」と言われるでしょうけど、そもそも信美の実家は資産家なようですし、本人も「伴侶を探していた」と言っているので、そういうモノなんでしょうね。
昭和50年代ですから、今よりももっと『そういう時代』だったんでしょう。
まー、高学歴な伴侶を見つけるには自分も高学歴になる、というのは理にかなっていますね。
で、その時代の女性らしく、内助の功、『医師の妻』がアイデンティティというか、『夫の成功』がすべて、というか。
それも、時代だから仕方ないのかもしれないですけど…「他に楽しみ見つけたら?」と言ってしまいそうです。
『努力』に絶対的な信頼をしているにも関わらず、その『努力』をするのが自分ではないんですから、イライラしてしまいそうです。
そして、『努力至上主義』だからこそ、以降の展開になっていくんですよね…。
一昔前までは「がんは見つけたら即切る」というのが常識とされている時代だったんですよね。
だから、私がいつも行く歯医者の先生が「がんは切らない」とおっしゃっていて本当に驚いたんです。
ただ、私自身もいろんな本を読んで、「物によってはその方がいい」ということを知ることができました。
そして、「検診の受けすぎでがんになることもある」ということも、今は理解しています。
でもまぁ、この時代ではそういう感じではなかったんだろうなー、と。
いささか常軌を逸してはいますが、流れとしては理解できますね。
『がん免疫強化療法』は『悪医』にも出てきていました。
今でもある療法らしいですし、ごく一部は保険適応らしいですから、完璧な詐欺ではないとことですよね?
それから、浮気を追い詰めるところも怖いわー。
「自分の中に快感がある」と認められるのはすごいなと思いましたね。
以前『叱ることの快感』という記事を読んだことがあるので、これも納得できます。
がんは治療するべきか放置するべきか、素人にはそれはわからないです。
同じ患者で両方を試すことはできないですから、証明もできないですもんね。
冬司の胃がんが発覚した後は、もーーー想像した通りの展開です。
怖い怖い。
本人が辞めたがっても、信美がやめさせない。
冬司と信美の次男が『祝葬』の祐介なんですけど、『こういうの』を見てきたから『ああなった』という感じなんでしょうね…。
「医師は患者に希望を与える」、『悪医』でも同じようなフレーズがありましたけど、こうなるとホラーでしかないな、と思いました。

最後は『忌寿』。
最初の『祝葬』の対義語のような感じでしょうか。
そして一変、こちらは「コメディか」というような内容です。
もちろん、今までの流れを踏襲していて、無理のない SF 展開になっているんですけどね。
だから、コメディというよりはやっぱりホラーなのかもしれないです。
語り手は、『祝葬』と同じ手島医師です。
彼は現在88歳になっています。
そして今は西暦2068年。
…あ、私と同い年かも?
88歳でも現役の医者をしているということで取材を受けているんですが、相変わらずマスコミは耳障りの良いことしか書こうとせず、本人が訴えている『現実』には触れようともしない。
今から40年後の未来では、がんは免疫療法で治る時代、外科手術がぐんと減って『健診医』にならざるを得ないようです。
その健診自体もほぼ不要な時代のようですが。
それでも、一般人は『健康』を求めてあらゆる検査を望み、一方で『長生きの罪』に気づいている一部の人は「長生きしたくない」と思う。
長生きするために様々な健康法をし、『不健康』とされるものを徹底的に排除し、過剰な検査を求める。
それに応じて業界も危機を煽る。
なんだかすごく歪な世界です。
医療裁判のくだりもおもしろかったんですけど、虚しさが残りますね…。
結局のところ『運』という言葉に収束されてしまうような気がするんですけど、私も含め、それを認めたくない人はたくさんいるでしょうしね…。
終盤に、祐介の兄の信介に会いに行きます。
信介は91歳で存命、短命ではありませんでした。
『感情失禁』という言葉は知っていたものの、こんなに激しいのか…と驚いてしまいました。
そして。
最後の最後。
そこにいたのは『希望の御旗』の信美なんですけど…。
ここが、本当に、まごうことなき『ホラー』でした。

いろいろ考えさせられる話でした。
土岐家の『短命』は、ほぼすべて理由が明らかになったわけで、納得のいかない『呪い』のようなものはありませんでした。
でも、別の意味での『呪い』はあるのかも知れない…と思わされます。
「いったい何歳で死ねばいいのか」この言葉がズシンと響きます。
同じような問いは、久坂部先生の『人はどう死ぬのか』にも書かれていました。

人はどう死ぬのか
久坂部羊さんの『人はどう死ぬのか』を読みました。久坂部さんの本は初めてです。タイトルはなんかちょっと怖い感じで、以前読んだ上野先生の本みたいな感じなのかなと思ったんですが、ちょっと違いました。フォーカスされていたのは『死んだ時の状態』『死ん…

そこにも書かれているとおり、『死』は練習できないですし、1回しかないんですよね…。

Kindle Unlimited で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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