有栖川有栖さんの『砂男』を読みました。
有栖川さんの小説は『妃は船を沈める』以来です。
今回は超豪華版とのこと。
1冊に『火村英生シリーズ』と『江神二郎シリーズ』が混在しているという、前代未聞の作品だということです。
「1冊分にするために集めただけなのでは…?」とも思いますが、贅沢であることに変わりはないですね。
短編集で、6つのお話が入っていました。
最初は『猫か女か』。
実は、私にとって記念すべき『江神二郎シリーズ』の第1作目がこれになってしまいました。
シリーズ1作目からちゃんと読んだほうがいい…んでしょうけどねー。
いつも見ている『アリスさん』が、なんだか「マリアという女の子に片思いをしている」的な感じの書き方で、なんだかすごく不思議な気持ちになりました。
普段はほとんど女っ気のないアリスさんも(いや、隣人のことは気になっていましたっけ?)、こんな時代があったのかなー、なんて。
いや、シリーズが違うからパラレルワールドって設定でしたっけ。
なんだか複雑ですね。
しかも、そのマリアという女性の本名が『有馬麻里亜』という名前らしくて、以前読んだ『まぐだら屋のマリア』を思い出しました。
…親はどんな思いで名付けたんでしょうかね…、武藤十夢さんみたいな感じでしょうか?
内容はまあ正直、そこまで事件性が強いものではなく、ちょっとした日常の謎レベルだったように思いました。
江上シリーズというのはこういうライトな事件を扱う作品…ってわけじゃないですよね? たまたまかな。
解決編にしても、「まぁそうですか…」と、若干肩透かし感もありつつ。
でも、この江上シリーズの世界観が味わえたというのは良かったです。
ラストのライブのシーン、は『僕の心のやばいやつ』のおねえが歌った『つづく』みたいな感じだなーなんて、ぼんやりと思いました。
まー、要するに、私が経験し得なかった青春だなーってことですね…。
2つ目は『推理研VSパズル研』。
これもなんだか平和な話でした。
でも、作中で「うちのサークルはこれまで3回も連続殺人に巻き込まれて~」というセリフがあったので、いつもこんな牧歌的な風景だというわけではなさそう、というのはわかりました。
にしても、この話の中に出てくる例のクイズ。
回答を聞いてイメージはわかったんですが、なぜ「人数分の日にちがかかるのか」がわからなくて…。
仕方ないので ChatGPT に聞いたところ、『ブルーアイズパズル』という有名な論理パズルだ、と教えてくれました。
青い目の人数分だけ日付がずれるのは、全員が『感情なし』『思考の遅速なし』『推理ミスなし』『考えをサボる人もなし』というすごく特殊な空間のパズルだから、とのこと。
1人、2人までは納得したものの、3人目から3日かかるのがなんとなく腑に落ちなかったんですが、作中にも出てくるように、そもそも『天国と地獄の分かれ道に門番がいる』『狼と山羊をボートで対岸に運ぶ』というのと同じくらいシチュエーション自体がおかしいから、そこはそういうものだと納得して OK…とのこと。
うーーーーん、なんだかなぁ、まぁ仕方ない。
それはいいとして、このパズルのストーリーをなんとか現実に即したものに作り変えていく過程、そっちの方が断然おもしろかったです。
ということは、私はパズル研よりも推理研向きな人間、ってことでいいんでしょうか?
江上先輩についてはまだ全然わからないことだらけだし、長髪の人みたいでどんな風貌なのかもうまく想像できていないですが、他の話も俄然読んでみたくなってしまいました。
いやー、本当に『私が経験し得なかった青春』だわー。
3つ目は『ミステリ作家とその助手』。
何これ、怖い。
『ミステリ作家』の話だから、てっきり『火村英生シリーズ』が来たのかと思って読み進めていったら、なんだかすごい展開になってしまいました。
『刑部慶之助』と検索してもこの本しか出てこなかったので、この人が何かの作品に出ていた人というわけではなく、たまたま今回スポットが当たったミステリー作家、ということでいいんでしょうか?
なるほど、大御所っぽい感じではあるけど、最近はスランプ気味で。
でも、ちょっと前に弟子をとっていて、その人をとても便利にこき使いつつ、その人に講釈を垂れるのが楽しくて仕方ないという、老けたおっさんという印象です。
しかし、まさか弟子はこんな思いを胸に秘めて日々過ごしていたとは…という感じですね…。
結局どのようなトリックを使ってこういう状態に持っていたのかはわからなかったんですけど、話の流れとしてはとってもおもしろかったです。
最後の最後までは書かれてはいなかったんですが、きっとこのまま…という感じなんでしょうね…。
なかなかドキドキさせる展開で、ちょっとびっくりして、そしておもしろかったです。
4つ目は『海より深い川』。
『前口上』で作者の有栖川さんが書いていた「法律が変わってしまったため未収録だった」という話です。
いやー、火村先生の鮮やかな推理、本当に素晴らしいですね。
しかし、人物の入れ替わりというのはたまにある題材ではありますね。
パッと思い浮かぶ のは宮部みゆきさんの『火車』、あとは『電脳山荘殺人事件』でしょうか。
でも、まさかそれが…という感じででした。
いやー、おもしろい。
2人亡くなっているので「おもしろい」ではいけないんですけどね。
そしてタイトルにもなっている『海よりも深い川』。
それも「なるほどな」という感じでした。
火村先生が言った「『海より深い川』は、俺とお前(アリスさん)の間には存在しない」というのは、なんだか「まぁそうだよな」という感じもするし、なんか「親密さアピールか!?」とも思いました、はい。
5つ目は『砂男』。
表題作です。
これも火村先生の話でした。
そして、「えーーー、ここで終わっちゃうの!?」という感じのところで切られてしまいました。
まぁ、話の流れからして、火村先生が披露した推理が真相なんでしょうけど。
あともうちょっと固めて突っ込めば、犯人は認めざるを得ない感じだとはは思いますが、「ここで終わりなの!?」という気持ちが拭えないです。
なんだかもうちょっと書いてほしかったなー、と。
しかし、妹も…なんというか。
姉をある意味苦しめた人とわかっていても、惹かれてしまうものなんでしょうかね…。
その辺のことはまったく理解できないなと思ってしまいました。
それから、『砂男』の都市伝説を意図的に広めようとしたという試み。
そんなにうまく『全国』に広がるものなのかな…とは思ってしまいます。
『金田一少年の事件簿』の『天草財宝伝説殺人事件』の『白髪鬼』の都市伝説を思い出すような内容だったな、と思いました。
あれは、あの島の子供たちだけの間の都市伝説的な感じでしたけど。
にしても、例の砂男が最後に一周砂を撒いたというのだけは解せない…。
そういうことしないでしょうよー、普通に考えてー。
かなりずれた人だったのかな…という印象です。
やっぱり火村先生の話は安定感がありますね。
まぁ『臨床犯罪学者』なんだから、当然かもしれないですけど。
最後は『小さな謎、解きます』。
以前読んだ『アリバイ崩し承ります』や『ノッキンオン・ロックドドア』なんかを思い出させるような作品でした。
正直そんなに大きな謎じゃなくて、日常に潜む謎を解き明かすみたいな感じでした。
どういう趣旨で作られた物語なのかよくわからなかったんですけど…。
あとがきを読んで納得、『加熱式たばこ』の普及のために開設されたサイトで連載されていたものとのこと。
だから毎回あんなタバコ吸ってたんだなーと。
確かに、商店街に怪しげな探偵事務所ができちゃったら、正直みんな警戒しますよね…。
でも、こうやって少しずつな事件や謎を解決していって、みんなから認められていって、商店街の一員になっていく…みたいなのもおもしろいなと思いました。
そして、いつか甥っ子と一緒に様々な謎を解く探偵事務所に育て上げていってほしいな、と思います。
この話は膨らませて『角川つばさ文庫』的な感じのシリーズモノなんかにしたらおもしろいだろうな、と思ったんですけど、やっぱりタバコ吸っちゃうからダメなのかなー。
『テネシーワルツ』、聞いたことはあって「素敵な曲だな」とも思っていましたが、歌詞はまったく知リませんでした。
今回読んで、「確かになんかループしてる…!」と思いました。
「一緒に踊っていた恋人を友達に紹介されたら、その人に取られちゃった」という内容のようですが、原曲では男性の話らしく、「こんなことがあったんだよー、HAHAHA」みたいな快活な感じらしいんですが、そんなに大して好きじゃなかったってことなんですか…?
外国の方の恋愛観ってよくわからない…と思ってしまいました。
もはや馴染み深くなった火村先生たちの話だけでなく、江上先輩の話やノンシリーズまで入っていて、確かにお買い得な本でした。
「集めただけ」というのは訂正します、大変失礼いたしました。
やっぱりおもしろいですねー。









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