山田宗樹さんの『百年法 上』を読みました。
山田さんの小説は初めてです。
この小説は上下巻編成なんですが、『上下合本版』が売られていまして、お買い得だったんです。
そしてさらに、レビューの評価がすごく高くて。
前情報一切ナシで読み始めたんですが…めちゃくちゃおもしろかったです。
正直、読み始めてすぐは、今現在の日本の『停滞気味』な感じが小説でも描かれていて、正直食傷気味になってしまいました。
中国・韓国に好き勝手やられている日本、それがもっとひどくなったような内容だったので、だんだん倦んできてしまって。
くさくさするので読むのやめちゃうかなって思ったんですよねー…。
でも、その辺をグッと我慢して読み続けて、本当に良かったと思いました。
本当に前情報無しで読み始めたので、バックグラウンドも何も情報がなく、「終戦直前に原発を6発も落とされた」みたいな記述でようやく「あ、これは今の日本とは違う世界の話なんだな」というのが分かりました。
そこを理解したら、なんとなく腑に落ちてすんなり入り込めたような気がします。
この小説の世界には『HAVI』という技術があります。
この処置を受けた人間は、受けた当時の肉体の若さそのままに、時間が過ぎても老化せずに生きていられるという技術です。
…すっごく羨ましいですね(笑)。
しかも、20歳以上であれば誰でもその処置を受けることが可能です。
なので、街には『若い人』が溢れている状態。
ただし、そのまま『長生き』し続けるといろいろ困っちゃうので、タイトルにもある『百年法』(正式名称は『生存制限法』)という法律によって、処置後100年で『生存権を始めとする基本的人権』を『すべて放棄しなければならない』と決められました。
「若い姿がいい」から20歳になったらすぐに処置を受ける、そうすると合計で120年くらいしか生きられない。
政治家のような『容姿に貫禄があったほうがいい』人は、ある程度の歳(30代後半とか)になってから処置を受ける、するとそこからもう100年くらい生きられる。
究極の選択っぽい感じです。
でもって、こういう技術があると必ず出てくるのが、『例外』ですよね…。
お金持ち、権力のある人は、なんとかして『100年』の壁を超えたい、みたいな。
その様子が生々しく泥臭く描かれています。
で、この日本は、今これから『百年法』が初めて適応されるという段階です。
なので、ちょっとしたパニック状態になってしまっています。
なので、その『百年法』自体を凍結しようとする流れも出てきていて…。
いろんな人の思惑が入り乱れ、国民投票などが開かれて、一旦凍結されるけど…と、本当に今の日本で起こりそうなことばっかりで、「すごいな」と思ってしまいますね…。
この日本では、HAVI の技術がアメリカによって早い段階でもたらされてしまって、その後の混乱もすごいことになっています。
HAVI がまだ導入されていない段階の中国や韓国が日本に視察に来て、そこから自国に展開する方法を決めていくんですが、その『違い』もおもしろかったです。
中国は富裕層だけに HAVI を解放すると決めました。
韓国では、全国民に解放するものの、期限を100年間ではなく40年間とします。
でも、国家に『貢献』した人は、その『貢献の度合い』によって延命できる、というしくみ。
『貢献』は、もちろんなにかすごい技術を開発した、というのでも、国に対して多額の寄付をした、というのでも OK。
…この適用方法が、なんだかすごくリアルだなと思ってしまいましたね…。
今の現実と比較して、まぁもちろん現実には HAVI なんてないので完全な比較はできないですけど、昨今目まぐるしく進化を遂げている『AI』がない(もしくは目立っていない)ということぐらいしか違いがないな、と正直思ってしまいました。
それぐらい…何というか的を射ている考察というか。
「多分実際にこういうような混乱に陥るだろうな」と、容易に予想がつく感じが、本当にすごいですね。
物語の登場人物としては、基本的には政府のお偉い方がたくさん出てきて、何やらモメモメしている様子がよく描かれています。
一方で、かなり早い段階で蘭子という『一般人』が登場します。
正直彼女、HAVI は受けているもののそれ以外は本当に普通の人なので、「『普通の人代表』として俎上に載せられた感じなのかな」と思っていましたが…。
彼女、しばらく登場しないうちに出産していたんですよ。
産んだのは100歳過ぎてから、なんですよねー。
それは正直うらやましいですね…100歳で出産かー…。
若さが永遠に続く HAVI だからこそできることですね…。
蘭子はきちんと百年法を受け入れて、自分の最後を決めたとのこと。
そのシーンはやっぱり涙が出てきましたし、潔く美しいなと思いました。
しかし、実際にこの法律や技術が現代にあったとしたら、自分はどうするだろう、って…。
まぁ、これを読んだ人はみんな考えると思うんですけどね。
やっぱりいろいろ怖いし、どうしたらいいかわからないですね。
「自殺が増えた」というのも、なんだか頷ける話だなと思います。
『永遠の命』とか『永遠の若さ』というのは、古今東西いろんな小説やマンガやその他で「手に入れたいもの」として描かれています。
でも、実際にそうなった場合…何というか、「終わりがなさすぎて絶望してしまうだろうな」とも思いますね…。
高橋留美子先生の『人魚シリーズ』とか、『トニカクカワイイ』の司ちゃんとか、やっぱりずっと生きてると自分を置いていなくなる人たちを見送る悲しさがありますね。
まぁ、今挙げた2つは『本人しか不老不死が保証されていない』という状態なので、少し状況が違いますけどね。
日本国民全員に『不老不死』の権利があるとなると、やっぱり人口の問題、食料の問題、出産の問題はつきまといますね。
百年法の適応ギリギリまで出産ができるというのは、女性にとっては素晴らしいことかもしれないですけど、長く生きていられる分何回も『家庭』ができるので、『家族のリセット』というものが普通に行われるというのが、なんだか寂しいですね。
そしてさらに、富裕層は『家族のリセット』が行われずに、結束がより強固になっていくというのも、なんだか皮肉なもんだなーと思ってしまいます。
完全に『上級国民』とそれ以外みたいな分断になってしまっています。
なんだかいろいろむずかしいですね…。
そして極めつけは、一番最後。
…何、あの大統領のやり方!
すっごくすっごく不愉快ですね…本当に嫌なやつだなと思ってしまいました。
あいつがなんとかなるのを、下巻で期待しています(笑)。


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