深追い

横山秀夫さんの『深追い』を読みました。
横山さんの小説は『顔 FACE』以来です。

顔 FACE
横山秀夫さんの『顔 FACE』を読みました。横山さんの小説は『動機』以来です。こちらも再読です。購入したのが2021年なので、5年ぶりでした。やはり、内容は意外と覚えていました。やっぱり横山秀夫さんはすごい作家さんですね。以前ドラマ化された…

なぜか値段が安い横山さんの本だったので購入してみました。
『三ツ鐘村』と揶揄されるように、庁舎と官舎と宿舎が近い場所に立てられている『三ツ鐘署』、そこに勤務する警察官たちを主人公にして描かれた警察小説です。
短編集になっていて、7つの話がはいっていました。

最初は表題作『深追い』。
こういう話を読むと、本当に横山さんはうまいな、と唸ってしまいます。
今回の主人公は秋葉という交通課事故係の男性。
以前は警察機動隊に所属していましたが、信号無視の車を『深追い』して運転手を死なせたとして、事故係へ転属させられたという過去があります。
彼は、高校生の時一瞬お付き合いをしていた女性・明子の夫の死亡事故を担当し、その現場でポケベルを拾いました。
そこには、明子からの『夕飯のメニュー』が定期的に送られてきます。
夫が、死んだ今でも、です。
…ものすごく絶妙な筋立て、男性なら心をぐっと掴まれるようなシチュエーションじゃないですか!?
(私はオバサンですが)
秋葉さんが明子にどんどん深入りしていき、子供とも仲良くなってしまい、それが『三ツ鐘村』で噂されるようになり…と逆風が吹き荒れます。
ですが、ねぇ、いったん燃え上がった炎は…という感じで、『深追い』していきます。
でも、そう思っていたのは秋葉さんの方だけで。
…明子も、同情はできないですがいろいろあって、まー大変な人生だったんでしょうねー…。
それ以外に解決方法はなかったのか、難しいなと思いました。
途中で秋葉さんが結構ギリギリなことやってますけど、大丈夫だったのかな…(笑)。
結局秋葉さんがこの先どうなるのか、その部分は描かれないまま終わってしまいましたが、これもまた絶妙ですよね…。
本人は望んでいるみたいですが、明子の中では『元彼』でも『同級生』でもなく『警察官』になってしまっているわけですからね。
応援したいような、反対したいような。

2つ目は『引き継ぎ』。
これはまた、ヒリヒリとするような内容でした。
同じ警察官だとしても、いや、だからこそ、こんなにもライバル視して火花をちらしながら競うんでしょうか。
警察官であった父から、半ば伝説と化した岩田という泥棒についての情報を『引き継ぎ』された警察官・尾花。
こんな『大作』があったら常に手元にあったら、まー確かに目がくらみますよね…。
でも、岩田の方でも自分の技術を『引き継ぎ』していたようで。
最後、現場をうろついていた岩田が、まさか尾花さんの父親から諭されたのを思い出して罪滅ぼしをしようとしていたとは。
尾花さんにとってはかなりの痛手だったでしょうが、そのとき抱いた感情は本心だったんでしょうね。

3つ目は『又聞き』。
今回の主人公の三枝くんは、幼い頃海で溺れていたところを大学生に助けられましたが、その大学生は不運にもなくなってしまいました。
三枝くんは警察官になった今でも、毎年命日にはその大学生の実家に行き、一晩泊まってご両親と話をする、ということを15年間も続けています。
…めちゃくちゃ気の思いイベントですよねー…。
小学校2年生といえば、うちの娘よりも小さな子供です。
言い方は悪いですが、その時から『呪縛』を受けて生き方までも定められてしまったような感じでしょうね。
幼すぎてその当時のことは曖昧、でも周りから教えられた状況はわかっている。
周りに流されてしまって、とても苦しかったことでしょう。
でも、その『事件』もただの『美談』だけじゃなかったとしたら。
15年経って始めて、ちゃんと向き合おうと決意したことがすごいと思いました。
自分だけが辛かったんじゃない、他の人も同じように苦しめられていた。
これから警察官として行きていくうえで、とても貴重で得難い経験になったんだろうな、と。
最後の「もう一泊泊めて下さい」が、よかったです。

4つ目は『訳あり』。
警察って、ここまで面倒見てくれるんですねー。
さすが公務員だなー、と思う反面、こういう仕事はしんどいなーとも思います。
これは、読んでいたときに『ボク』こと森下さんの『虫』の正体にはピンときてしまいました。
久しぶりに的中しましたねー(笑)。
まぁ、こういう話はたまに読んだりしますけど…実際にも多いんでしょうか…?
しかし、世の中にはいろんな人がいるんだなー、と改めて思います。
警察官を目指してダメだった人、現場ばかりを歩んできた警察官、家庭の事情で部下を使う上司。
どこにでも、いろんな人はいるでしょうけどね。
最後にあったセリフ「みんながみんな偉くなってしまったら、警察という組織は回っていきませんから」は、私も高校のときに部活の顧問から同じようなことを言われた記憶があり、それが急に蘇ってきました。

5つ目は『締め出し』。
私自身は、今は自分の育った土地にいないですし、たまに実家に帰ったときも友人知人にあったことがほぼないので(もともと約束をしていた人を除く)、『こういう感覚』を味わったことはないんですが。
育った地元で就職すると、こういう感じになるんだろうなーという疑似体験ができたような気がしました。
大人になっても下の上下関係を踏襲しようとする人、まぁいるだろうなとは思います。
でも、相手が警察官になってもそれを貫こうとしてくるのは…すごいな。
だいたいこういうのに書かれるマイルドヤンキーみたいな人って、こんな感じに横柄で女をもの扱いするというか。
嫌な感じ。
まー、そういう人だからこういうことをやってるんでしょうし、そうじゃないと『小説』にならないか(笑)。
しかし、唐沢のおじいちゃんのプロ意識、素晴らしいなと思いました。
今回の主人公・三田村くんは、最後本当にがんばったなと思いました。
でも、これからもっとがんばらなきゃいけないんでしょうね。
応援したいです。

6つ目は『仕返し』。
これはゾワッとした話でした。
私自身も、親の会社の社宅で高校まで暮らしていたので、今思えば母なんかは「暮らしにくかっただろうな」と思います。
…本人である父は、ずっと単身赴任でしたしあんまり家に帰ってきませんでしたからねー。
でも、こういう話を聞いたことはなかったです…あったのかな…?
自分も2児の親ですので、できれば加害者にはなってほしくない、と思います。
もちろん、被害者になるのも嫌ですけど。
親の威光を笠に着ているとなると、本当に困ったものです。
今回の主人公・的場さんは、最後はその膿を出そうと決意していました。
これもなかなかできないだろうなと思いました。
息子の慶太くんが、お父さんの気持ちをわかってくれるといいんですけどね…。

最後は『人ごと』。
これも前の『仕返し』と同じような『父の苦労』の話でした。
最後、娘さんたちには通じた…と思いたいです。
このお父さんがタワマンの最上階に住んだの、私も「見えるように」だと思ったんですが、『娘たちへの当てつけ』だと思っちゃったんですよね…。
心が汚れている…。
にしても、今回の主人公の西脇さんは面倒見よすぎでしょ(笑)。
まぁ、彼自身の仕事へのやりがいを思い出させてくれたから、というのもあるんでしょうけど。
最終的に財布が西脇さんに巡ってきたのが、本当に良かったんでしょうね。

「さすが横山さん」という感じで、一捻りも二捻りもしてある物語ばかりでした。
やっぱりいいですよね…。
シリーズものはまだあまり読んだことがないんですが、深みにハマりそうでちょっと怖いんですよね(笑)。
でも改めて、機会を見て読みたいなと思いました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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