伊坂幸太郎さんの『死神の浮力』を読みました。
先日の『死神の精度』の続刊です。

『死神の精度』がおもしろかったので、読了後にすぐ購入しました。
本当に、すごくおもしろかったです。
『死神の精度』は連作短編集だったんですが、今回は一冊まるまる長編でした。
今回千葉さんが担当になった山野辺さんという男性、今の状況はとても過酷なもので、ものすごくかわいそうでした。
私も子供、特に女の子を持つ親として、あんなシチュエーションになったらまともに生きていける気がしないです。
そんな中でふらっと千葉さんがやってきて、なぜだかわからないけど家にあげて話を聞いて…と物語は進んでいきました。
なぜだか知らないけど、そうなってしまうような魅力を、千葉さんは持っていますね。
そして、相変わらずなんかちょっとずれてて、でも真剣で、仕事熱心なのか熱心じゃないのかよくわからないというキャラクターは今回も健在でした。
前作からは8年ぐらいブランクが開いていたとのことなんですが、その間にも千葉さんはいろんな仕事をしていたんだろうな、というような感じです。
にしても、山野辺さん達の『ターゲット』である本郷という男。
…何というか、『生粋のサイコパス』として描かれています。
映画とか、それこそ小説なんかで題材になりそうな感じの真正のやべーやつです。
実際のサイコパスはそんなに頭がいいわけではない、みたいな話も聞いたことがありますが、もちろん頭のいいサイコパスもいるんですよね。
そのサイコパスの、興味とか生きがいみたいなものがやばい方に向かっちゃうと、こういうことになっちゃうんだろうな、と。
まー、本郷については、がんばって働く必要もないし、自分の好きなことだけやって生きていけるご身分なので、そういう嫌な方向に自分の才能を発揮してしまったんだろうなと思いました。
でも、車開けたらドッカーンとなるとか、プラスチック爆弾とか、送られた動画を2回目再生しようとしたらパソコンが壊れるとか…本郷、やばすぎじゃないですか!?
そういう知識や能力を、別の方向に活かせればよかったんでしょうけど。
まぁ、そうなったらこの小説は成立しないんですけどね、代わりにかわいそうな女の子はいなかったってことになりますからね…。
山辺さんは小説家で、会話中に特にパスカルの引用が多く出てきました。
それに千葉さんの持っている妙な知識が混ざり合って、おもしろおかしく書かれている部分もありました。
『武家諸法度』と『シルクハット』って…。
今回の物語は、シチュエーション自体がかなり過酷で厳かったんですけど、悲しみ・苦しみ一辺倒にならずにコミカルさもあったのは2人のおかげですね。
奥さんもなかなかいい味出していました。
『なつみ饅頭』の記者については、最初はすっごくムカつきました。
でも、本人が言っていた通り『本当に悪意はなかった』というパターンも、きっとあるんだろうな、と。
まぁ、だからって、そもそも食べ物を投げるのはよくないですし、状況も考えようよと思ってしまいますけど。
ま、そういう人間もいるわけで、本人もその後気づいて申し訳なく思っていたんだったら…まぁちょっとは救われるかな、と思いました。
途中で協力してくれる宅配サービスの男の人なんかも、やっぱり『袖振り合うも多生の縁』というやつなんですかね。
いろんな人と、ちゃんとコミュニケーションを取っておくべき、という教訓のようにも思いました。
そして、箕輪くん。
…私、いつ「箕輪くんが黒幕でした」って出てくるかなって、本当に怖くてビクビクしながら読んでいたんですけど…。
そうじゃなくて、ただ単に『騙されやすい人』なだけだったなんて…!
だって、行く先行く先箕輪くんの情報に翻弄されていたわけですから、「絶対こいつが黒幕だろう」と思っていました。
もしそうなんだったら、つらいなって。
でも、そうじゃなかった。
予想が外れて、本当に良かったです。
本郷の担当で同僚の香川ちゃんが、まさかの『見送り』にしたので、「なんでそんなことになっちゃうんだろう」とすごく悲しく思っていました。
でも、最後まで読んで、「なるほどな」と。
「よくぞ見送りにしてくれた」と、本当にそう思いました。
あとがきで伊坂さんは、そのシーンを「手塚治虫の火の鳥の未来編で出てくる、死ねなくなってしまった人」とおっしゃっていました。
残念ながら、私は『火の鳥』を読んだことがないのでわからないんですけど。
私としては、『MOTHER3』のポーキーと、『幽遊白書』の戸愚呂兄を思い浮かべました。
いやー、悲惨だわー、私だったら嫌だわー。
どす黒いものは感じるんですが、申し訳ないけどスカッとしたというか、そんな気分です。
一番最後、急に知らない人が出てきてちょっとびっくりしました。
しかも、その後千葉さんが再登場したもんだから、私も「ひょっとして今度は奥さんなの…?」と思ってしまいました。
あとがきでそれは否定されていました。
よかったです。
今回は、千葉さんのおかげで救われたシーンがたくさんありました。
ものすごく、ものすごく痛そうなシーンもあったんですけど、「千葉さんなら、大丈夫なのかな…?」という変な安心感もあったので、普通に読んでいられました。
で、実際大丈夫でしたし。
にしても、この世界観での『死神』という存在は、一体何を楽しみに生きているのかな…とちょっと心配になってしまいます。
『ミュージック』なんでしょうか。
淡々と仕事をこなす、もしくは仕事をこなさない。
まぁ、「なんだかなー」という制度ではありますね。
しかも、自殺や病死以外では死神が担当につくんだったら、世の中の死神の数がすごいことになっちゃうんじゃないかな、という勝手な心配もあります。
見せかけの人口が1.25~1.5倍くらいになってそうな…。
表紙は、千葉さんがなぜか自転車に乗っているシーンでした。
そのシーンが来た時に「あー、これかー」と思いましたねー。
なんというか、すごく不思議な光景だったでしょうね。
私もその場で見ていたら、思わず手を振ってしまうか、もしくは怖いからもう全力で追い越されるか、どっちかでしょうね…。
やっぱり後者かな。
続編は近々には望めそうにない感じのようです。
まぁでも、本当におもしろかったので、是非ともまた書いていただきたいな、と思います。
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