宮部みゆきさんの『模倣犯 5』を読みました。
先日の『模倣犯 4』の続刊です。
ついに終わりました、読み終わりました。
何と言うか、泣けてきました。
本当にいろんなものを奪って壊して、嵐のように過ぎ去って行った事件でしたね…。
結末にしても、本当に薄ら寒くて。
「もしもう少しだけ自制心があったら」とか、「もしもう少しだけ虚栄心が小さかったら」とか、そんな状態の網川浩一だったなら、もしかしたらこの犯罪を見破られることもなく、今でも大手を振って歩いていたのかなと思ってしまいます。
もちろんそんなことは許されないです。
彼はテレビにも出てるし、普通に顔出しもしています。
声紋のサンプルもたくさんあって、誰かが気まぐれで犯人のボイスチェンジャーの声と網川の声を突き合わせるかもしれない。
カズの電話相談の方の声のサンプルも、もしかしたら誰かが見つけてくれるかもしれない。
そういうことが積み重なっていって、網川への包囲網がどんどん小さくなっていって、いずれは逮捕されたかもしれない。
…でも、由美子がそうだったように、悲しい犠牲者がその分だけ増えたかもしれない。
滋子さんはとっても大変な役回りを最後にやってしまったわけですが、無事で本当によかったです。
そして、本当によくやってくれたな、と思いました。
滋子さんも真一くんも、それぞれのパートナーと仲直りができて本当に良かったです。
その2つだけが、今回の事件での明るい話題なんじゃないかなと。
それ以外はもう本当破壊しつくされてしまったなと思いました。
…滋子さんに関しては、本当に「仲直り」と言えるかはまだわかりませんが。
カズたちの中学の時の水泳部の顧問の先生も、辛くて悲しくて消えてなくなってしまいそうでした。
そりゃそうですよね、3人とも知ってたんですから。
しかも、網川に関しては、きっと『いい生徒』として知ってたんだろうなと思います。
これから先の人生で、先生が彼らのことを思い出すとき、きっとかなりの痛みを伴うんでしょうね。
ここにも、直接的ではないけれど被害者が生まれてしまっています。
犯罪は、やっぱりいろんなところに被害者を作ってしまうんですね。
最後の巻でようやく網川の生い立ちが出て来ました。
まぁ、かわいそうだなとは思いましたけど…、そこまで同情できるようなバックグラウンドじゃなかったなというのが印象です。
それで良かったと思います。
「網川は今まで本当にひどい目にあってきて…」となったら、この事件に対する怒りをどこに持っていけばいいかわからなくなっちゃってたかもしれません。
そうじゃなくて、よかったと思いました。
そして、彼が一番最後、滋子さんに追い詰められた時にああいう『自爆』をしてくれて、本当に良かったと思います。
そうじゃなきゃダメだった、と。
やっぱり醜く幕引きをさせたのは、宮部みゆきさんの優しさだったんじゃないかなと思います。
…だからこそ映画版はなー…ほんとに『自爆』しちゃだめじゃん…。
有馬さんは、孫を失って、娘も病気になってしまいました。
有馬さん自身もそんなにハツラツと生きているわけじゃないです。
お豆腐屋さんも辞めてしまったわけですし。
この先どうなるんでしょうね…。
彼は本当に全て奪われてしまった人だな、と…。
でも、真一くんという新しいお友達もできて、少しでも明るい気持ちになってくれたらいいなと思います。
真一くんを付け回していためぐみ。
彼女も、結局は自分の足で立って生きていかなきゃいけないんですよね。
もうそろそろ覚悟を決めて前を見る時期なんでしょうね。
いつまでもファンタジーの中で生きてちゃダメなんだと思います。
完全に『そっち側』に行く前に、最後に真一くんに声をかけられたというのは、彼女にとって良かったんだと思いました。
真一君は優しいですね…。
宮部みゆきさん史上、最も凶暴な犯人、最もデンジャラスな作品だったように思いました。
もちろん、すべての宮部さん作品を読んだわけじゃないので言い切りはできませんが…。
特に、2010年以降くらいの作品は読めてないのが多いからなー…。
結局、最終的に何人の屍が出てくるんでしょうか。
思いつきみたいな形で殺されてしまった木村さん、腕を捨てるのをやってもらったホームレスの人。
その前にも全国津々浦々に出かけて行ってるわけだし。
無数の屍の上にあの別荘が建っていたと思うと…怖いです。
お化けビルとは違う、本物の怖さですね…。
結局、「網川の母親が一番最初の犠牲者だった」っていうところが、なんか海外に実在しているシリアルキラーっぽいなと思いました。
現実では、まだ日本には輸入されないでほしい。
網川はしかるべき罰を受けてほしいと思います。
本音をいうと、シャバには出てこないで欲しいですね。
まぁ、無理かな…。
模倣犯の文庫版は全5巻です。
私が大学卒業前に実家に住んでいたときにあったのは、単行本上下2巻でした。
いつも思っていたことがあります。
あの、表紙の男の人はだれなのか、と。
真っ先に浮かぶのは、カズです。
彼はヒロミとピースに踊らされて、殺されてしまったようなものです。
この事件の中で、加害者と思われていたのに、実は一番の被害者だった、という事件の象徴的な人物でした。
でも…表紙の男性は…言っちゃ悪いけどシュッとしていますよね…。
映画版(藤井隆さん)やドラマ版(満島真之介さん)はシュッとしていますが、原作でのカズは肥満体型だったはず。
まぁ絵なので、「これで肥満体型です」と言われたらそうなのかもしれませんが…。
次に浮かんだのは、真一くん。
彼は事件の冒頭の最初の発見者であり、事件を横断して関わってきたキーマンです。
表紙にふさわしいとも言えます。
ただ…ちょっと大人っぽすぎるような気もするんですよねー。
あとは、事件から直接被害を受けているわけではないので、ちょっと弱いような。
ヒロミやピースである可能性もあると思うんですが、まー、できればそうでないといいなと思います。
表紙の男性のしっかりと前を見据える目つき、ヒロミやピースであってほしくないと思ってしまいます。
有馬さんだと若すぎるし、木村さんだと(不謹慎で失礼だけど)インパクトが薄い気もします。
滋子さんの夫の前畑昭二さん…では、さすがにないかな、と。
やっぱり真一くんかなー。
最初から最後まで出ていたし。
ググっても Copilot さんに聞いてみても、わかんなかったです。
さて、これで Audible にある宮部さんの現代小説はすべて読み終えてしまいました。
いやー、おもしろかったです。
久しぶりに宮部みゆき漬けになれて幸せでした…。
でもなぁ、もっと読みたいんですよ。
『レベル7』も読み応えがあって好きです。
臭そうなシーンは息を止めながら読んでいました(笑)。
『クロスファイア』が、話としては一番好きでした。
今読んだら印象変わってるかな。
『蒲生邸事件』は、本の厚みにたじろいだけど、読み終えて涙が止まらなかったのを覚えています。
他にもなー、もっと読みたいなー。
どうか、どうか、宮部みゆきさん作品の Kindle 版・Audible 版をもっとたくさん出してください…!
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