原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読みました。
原田さんの小説は『お帰り キネマの神様』以来です。
あー、ずいぶん原田さんの小説読んでなかったんですね。
美術館とかに行くたびに思い出していたので、もっと最近にも読んでいると思っていました。
ここ最近は『湊かなえ祭 in Audible』だったんですが、諸事情により差し込みです。
ピカソの『ゲルニカ』は、何度か行ったことのある『箱根 彫刻の森美術館ピカソの『ゲルニカ』は、何度か行ったことのある『箱根 彫刻の森美術館』で飾られていたのを何度か見ましたし、以前丸の内オアゾまで見に行ったこともありました。
でも正直ちょっと怖い絵だし、絵のバックグラウンドも全然知らないし…という感じだったんです。
今回の『暗幕のゲルニカ』を読んでいろいろ知ることができて、本当によかったと思いました。
原田マハさんの小説はいつも登場人物が生き生きと動いているから、どの人が実在の人物でどの人が架空の人物なのかわからなくて、ちょっと混乱しますね…。
今回は一番最後に「パルドとルースは架空の人物、21世紀パートの人たちも架空の人物」と書かれていました。
そっか…パルドはいなかったのか…。
じゃあゲルニカを守ってくれたのは誰なのかな? なんていろいろ思いを馳せたりします。
主人公・瑤子の上司のティムは、以前読んだ『楽園のカンヴァス』に出てきた人だ! とピンと来て、なんだかとっても嬉しかったですね。
解説にも書いてありましたけど、その時よりもずいぶん頼もしい感じになっていたのが良かったですね。
『楽園のカンヴァス』からどれぐらい経ったんでしょうね。
ピカソについては、以前は「変な絵を描く人」、今はまぁ「キュビズムの巨匠」ぐらいの認識しかなかったので、どんな人物なのかまったく知りませんでした。
まぁ、読み終えてのピカソの印象としては「戦争は嫌いだけど、自分をめぐるキャットファイトは好きなんだな」っていうのが一つです。
「奥さんと離婚してないのに別の女と子供を作り、さらに若い愛人を持つなんて、正直好きにはなれないタイプの人だけど、ゲルニカなんかに表されるような強烈なメッセージ性のある創作物を作る人って、まぁそんな感じで好色なのかもしれないな」というのも一つ。
まさか、第二次世界大戦直前のゲルニカ爆撃と9.11のテロがオーバーラップして1つの物語を作り出すとは。
本当にびっくりしました。
今作の主人公の一人である瑤子は、9.11のテロで夫を失ってそれはそれは悲しかっただろうと思います。
あの朝のことを何度もリフレインして、悲しみに打ちひしがれたことでしょう。
そんな彼女が、まさかこんなだいそれたことをなすまで回復するなんて。
夫・イーサンはさぞかし喜んでいることでしょうね。
でも、最後に渡された、自分が持っていたピカソのドローイングと似た構図のピカソの絵。
あれが瑤子の手元に来たということは、要するに、あの時助けてくれたマイテは死んでしまったということですよね…?
それを思うと、やっぱり涙が溢れてきます。
でも、夫がETAのリーダーで、結果的にマイテは事件をサポートしてしまったのだから、『犯人一味』ということで仕方ないのかな…。
それにしても、以前読んだ『美しき愚かものたちのタブロー』も第二次世界大戦の話でした。
あんな自分の命すら保証がないような緊急事態になっても、「アートを守ろう」という気持ちを持つ人はたくさんいるんだなっていうのと、そのアート自体がテロの標的になってしまうということがあるんだなっていうのが驚きでした。
以前テレビで見た、バーミヤン遺跡が爆破されてしまったショッキングな映像を思い出します。
バーミヤン遺跡もきっと現地の人の精神的支柱になっていただろうし、長い間あそこにあったものだから、爆破されてしまったのはとても悲しいことですよね…。
でも、「あれは1世紀ころから作られた、ものすごい歴史のある遺跡・建造物だしなー」って正直思っていました。
今回のターゲットになってしまった『ゲルニカ』は1937年の作品で、もちろん貴重なものであることは重々承知していますが、大きいとはいえ『絵』だし、本当に失礼ながら100年弱の歴史しかないし…と。
でも、『ゲルニカ』のような反戦を強く描いた作品は、戦争を仕掛ける側からすると目障りなものだろうし、反戦を掲げて戦う人たちにとっては象徴的なものになるんですね。
そしてそれこそ、今ゲルニカに住む人たちにとっては「自分たちに返して欲しい」って思うような、象徴的なものなんですね。
こんなにも様々な火種を抱えることになるような代物なんだなと。
日本でのうのうと生きている自分にはまったく想像が及びませんでした。
こういう、自分の知らない世界を教えてもらえて、本当にありがたいなと思います。
瑤子がテロリストに拉致されてしまったところは、読んでる側からしてみると「いやいや、絶対そっち行っちゃダメなやつじゃん」と(笑)。
でも、当事者からしてみたら差し迫った危機だし、車に乗らないわけにはいかないよなーって感じですよね…。
果たして、どうすれば防げていたのかなと思うんですけど…。
こればっかりは仕方がないのかなと思ってしまいます。
難しい。
こういうセキュリティ対策って、この2024年の今だったらもうちょっとやりようもあるんでしょうか?
一番最後、ゲルニカを国連に飾ったのはすごいアイデアだなと唸りました。
きっと、どこに飾ってもいろんなところから不満を出ただろうし、そもそもいろんな意味で『動かさない方がいい』ってずっと言われてたものですもんね…。
今回も新たな別の火種になってしまったばかりですし。
諸々の不満を完全に封印できたわけではないでしょうけど、今の現状での最適解なんじゃないかなと思います。
しかし、ゲルニカに暗幕をかけた時の『言い訳』が苦しすぎて笑ってしまいました。
そんなこと言うやつ目の前にいたら張り倒したくなるわー。
そして、日本にも素晴らしい『ゲルニカ』があるから、そちらに打診してくれても良かったんじゃないかな、とちょっと思ってしまいました。
日本のは陶器製、劣化も少なく触り放題ですよ(笑)!
ピカソという画家の、この時期の愛人だったドラ・マール。
今作のもう一人の主人公でした。
彼女について知ることができたのは本当によかったです。
『泣く女』がドラ・マールだったんですね。
きっと感情の起伏が激しくて、放っておけない感じの女性だったんでしょうね。
樺沢先生がたまに YouTube で『ティファニーで朝食を』の主人公の話をされますが、そんな感じの女性だったんでしょうか。
プライドが高くて一途で、ピカソのことをとても理解しようとしていて、本当に素敵な女性でした。
まー、友だちになれそうか、と聞かれたらちょっと…かもしれませんが。
この物語の中では、引き際が潔く、そこもかっこいいなと思いましたね。
彼女から生まれた女性が、その子供に鳩の絵を託し、最後には瑤子のもとに届きました。
不思議な、素敵な縁でした。
本当におもしろかったです。
やっぱり、いいですね、原田マハさん。
コメント