久坂部羊さんの『廃用身』を読みました。
久坂部先生の本は『人はどう老いるのか』以来です。

久坂部先生の本は3冊目です。
前回読んだ『人はどう老いるのか』もその前の『人はどう死ぬのか』も、『ノンフィクション』ジャンルの本でした。

今回の『廃用身』は小説、しかも久坂部先生のデビュー作だそう。
来週、その『廃用身』の映画が公開されるというニュースを知り、急いで小説を購入しました。
主演は染谷将太さんとのことだったので、医師の漆原氏を染谷さんで想像しながら読みました。
いやー…、なんというか、本当にすごい話でした。
最後の『エピローグ』、その最終部分にものすごい衝撃を受けました。
…久坂部先生すごいですね、これがデビュー作ですか…。
Amazon のレビューを見て「みんな同じことを思ってたんだ」と笑ってしまったんですが、私も読み始めてちょっとして、「間違えた本を買っちゃった…?」と思い、目次を確認したり、作者情報確認したりしました。
この本は大きく2つのパートに分けられていて、前半のちょうど50% ぐらいのところまでは主人公の漆原氏が書いた『A ケア』についての本となっています。
そして、残りの部分は、その漆原氏の『本』の担当編集者の男性が、この一連の『騒動』の流れや所感を書いた内容になっていました。
前半部分がまさに『ノンフィクション』っぽく、『まだ世間にそんなに認知されていない医療技術』の紹介の文章のようになっていたので、「本を間違えた?」と思ってしまったわけです。
『A ケア』というのは、病気などの影響で動かなくなってしまい回復の見込みのない老人の四肢を、『切断』することを指します。
残酷に聞こえますし、実際残酷なんでしょうが、漆原氏が積極的に行っていたわけではなく、本人にも家族にもきちんと同意を得てから行っています。
そして、その施術により本人たちにいい反応が現れたり、体重が軽くなったり行動の妨げになったりしていた『部分』がなくなったことで介護がものすごく楽になったり、という効果がありました。
前半部分は、漆原氏が自分の視点で「自分たちのクリニック内でどういうことが起きたか」「実際に『A ケア』をやった後にどう変わったか」を書いています。
「『A ケア』が老人医療に対してどういうことをもたらしそうか」の考察や、施術の実施前と実施後でどのように変わったかなどが淡々と書かれている感じです。
「体重が軽くなった」などの身体的な変化だけではなく、施術された対象者のメンタル部分も「ガラッと変わった」などと書かれていました。
いわゆる『こういう本』にはよくあると思うんですが、「自分が考案した医療技術がいかに画期的か」ということが書かれています。
考案し実施した本人が書いたものですから、世間の『悪評』に対する弁解なども入っています。
その一方で、不都合なことは極力隠さないような公平さがあり、そこから誠実さも感じました。
デメリットなども少なからず書かれていたので、素人考えではありますが「かなり信頼が置けるお医者さんなんじゃないかな」という印象を持つんですよね。
ですが、半分ほどでプツッと切れてしまったかのように、『漆原氏パート』が終わってしまいます。
後半が始まるといきなり「以上は漆原氏の遺稿である」という衝撃的な内容が唐突に明かされます。
「…ということは、漆原さん死んだんだ」と。
嫌な予感しかしない状態で、後半を読み進めていくことになります。
後半は…なんというか、「やっぱりこの流れか」と、思ってしまいました。
「またお前らか」と。
結果として、2人が自ら死を選んでしまったわけで、今回の『騒動』を扇情的に書き立てたマスコミの人たちが殺したんだな、と私は思ってしまいました。
そしてこの展開はまったくの絵空事なんかではなく、「実際にこんな感じで推移するだろうな」と思わせるもので、本当に怖いです。
『A ケア』自体については、私自身は正直『賛成』かなと思ってしまいました。
もちろん、実際にある治療法ではない、とのことです。
そもそも、タイトルの『廃用身』という言葉も久坂部先生の造語とのこと。
だから、こういう病院もなかったわけですし、そういう治療ももちろんなかったんです。
亡くなった医師も、後を追った奥さんもいなかったわけです。
全部フィクションだった、ということなんですけど…、この小説の導入が導入だっただけに、「本当にあった話なんじゃないか?」というリアルさをすごく感じました。
実際、『A ケア』の内容は読んでいてすごく納得できますし、合理的だなと思いました。
自分がもし、「四肢の一部が全然動かない、むしろ生活の邪魔になってしまう」という状態で、『A ケア』ことを説明され、そのメリットが実際にあるとするならば、「切断する」という選択肢も視野に入れたいな、と思えるような内容でした。
…ここに例として上げるのが適切なのかどうかは疑問ではありますが、私自身は高校3年生のときに『虫垂炎』になって虫垂を切除しています。
数年前に乳房に『しこり』を見つけたとき、結局調べてもらって何でもなかったんですが、「ひょっとしたら乳がんかもしれないから、そうであれば切除するんだな」と、いろいろ想像しました。
そのときも、「そうならそれも仕方ないな」と思いました。
実際にそうなったときは、また違う衝撃を受けるとは思いますが。
まぁ、ただ『盲腸』や『乳房』とは違って、ダイレクトに見た目に影響がある部分ですからね…。
でも、それこそ『義手』とか『義足』などで周りの人に奇異な目で見られないようにすることもできると考えると、ひょっとしたらかなりいい治療法なんじゃないかな、と思ってしまう部分はあるんですよね…。
もちろんフィクションですし、私は医学的な知識がゼロの素人なので、ここに挙げられている『効果』がどこまで本当なのかはわからないですけど…。
漆原氏は外科医ですから、多少エキセントリックな部分があるのは仕方ないと思っています。
そうじゃなきゃやっていけないような仕事だと思いますし。
なので、漆原氏が唯一よくなかったのは、看護助手の彼女との関係と、彼女に対して与えてしまった『精神的なショック』でしょうか。
奥さんもいらっしゃる人なわけですし、それはダメでしょ、と。
でもまぁ、当事者じゃないからわからないですし、その状況だと仕方なかったのかもしれません。
漆原氏の遺書「頭はわたしの廃用身」、これはすごい衝撃でした。
漆原氏は「自分もそういう状態になったら『A ケア』を選択する」と公言していたので、『有言実行』ではあるんですが…まさかこう来るとは。
そうなる前にすでに亡くなっていたとのことですが、それでも衝撃的な見た目だったでしょうね…。
そして、漆原氏の奥さん、それから、お子さん・慎くん。
慎くんについては、婉曲的な言い回しにはなっていましたが…そういうことなんでしょうね…。
これがマスコミに知られたら、「親の因果が子に報い」とかなんとか書かれるんだろうな、と。
確かに、この一連の『騒動』の一番の犠牲者は慎くんかもしれないですけど、別に『親の因果が報いた』わけではないです。
慎くんはとても大変なものを背負わされてしまったわけですが、いろんな人が協力してくれているみたいなので、がんばって生きていてほしいなと思います。
(あ、もちろんフィクションだとわかっています)
映画がきっかけで読んだ小説でした。
主人公の漆原氏が染谷将太さんというのが、なんだかすごくマッチしていると思いました。
染谷さんは、以前見た『ベートーヴェン捏造』や『爆弾』にも重要キャストとして出演されていました。


いやぁ、どんな漆原氏になるのか、本当に楽しみです。
チケットはすでに購入済みですので、早めに見に行きたいと思っています。
けど…どうやって映像化するんだろう…?
流石に慎くんまでは…?
どうなるんだろう、楽しみです。


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