宮部みゆきさんの『希望荘』を読みました。
先日の『ペテロの葬列』の続刊です。
『杉村さん2.0』という感じで、新たな人生を歩みだした杉村さんの物語です。
今多コンツェルンを辞めたので、『広報 あおぞら』の編集部や今多コンツェルン関係者なんかはほぼ出てこない感じ。
ただ…『睡蓮』のマスターが追いかけてきたのは本当にびっくりです。
有言実行の男。
人の懐にスルッと入りそうな感じのこの人は、使い勝手の良さそうなキャラクターではありますね。
それにしても、『睡蓮』跡地にはどんな店が入ったんですかねー。
ルノアールとかが入ってそうなイメージです。
コンビニとかになったかもしれないけど。
今回の『希望荘』は短編集です。
4つの短編が入っていました。
まず、『聖域』。
杉村さんの独立後初仕事です。
離婚からどれくらい経っているかはわからないけど、傷は適度に古く、忘れられない程度には新しいみたいですね。
幽霊を見たというご近所さんからの依頼で、いなくなった店子の老婆を探すことに。
やっぱりどこかで修行していたからなのか、要領も良く適度に嘘にも慣れている様子。
さらっと嘘を付く杉村さん、ちょっと見たくなかったような…、まぁ仕方ないですね。
しかし、『老いては子に従え』じゃないけど、あんなにひどいことされたにもかかわらず、娘に連絡取っちゃうんだなぁと、ちょっとがっかりしちゃいました。
周りの人にさんざん優しくしてもらったのに、そういう義理を全部忘れて新しい生活にいっちゃうんだなー。
お金って怖いですね。
まぁ、そんな大金に恵まれたことがないからわかんないですけど。
にしても、娘の早苗の性格の悪さは天下一品だなあと思いましたね。
何か天罰が下って欲しいとすら思ってしまいました。
嫌なやつー。
次は『希望荘』。
表題作です。
老人ホームに入っていたおじいさん、亡くなる直前に息子や職員に漏らした一言でとんでもない騒動になるという感じです。
このおじいさんはすごく優しい人だったんだろうなと思いました。
自分が辛い過去を生きてきたから、周りに優しくするということを覚えて、そうやって今まで生きてきたんだろうなって。
つらい目に合ったとき、周りに優しくできる人と、そうでない人に分かれると思いますからね…。
そして、ちゃんと自分が晩年に息子に巡り合えた上で穏やかに暮らせていることを、きちんと感謝できる人でもあったんだなと。
そんな人でそんな満たされたメンタルだったから、『重大なこと』に気づいてしまった時に、それを見逃せずになんとか認めて欲しいと思って、こんな行動を起こしたということなんでしょうけど。
まぁ、それによって残された人たちが混乱して一波乱起きてしまったというのは、ちょっと残念な感じでしょうね。
おじいさんの望んだ未来ではなかったでしょうけど。
もうちょっと事前に家族とは話し合いが持てていれば…とは思いますが、突発だったんだったら仕方ないですかね…。
おかげで事件が一つ解決したし、依頼者家族もちょっと絆が強くなったような気もするので、それはそれで良かったのかな。
帽子店の以前亡くなった女性の妹だけは、なんか取り残されてかわいそうでした。
彼女だけは、もう何年も何年もずっと『あの日』から帰って来られてないんだろうなって。
しかも彼女が悪いわけじゃないのに、ずっと自分のせいにしていて。
それが何とも辛くて…「どうか彼女にも支えになってくれる人がいますように」と願わずにはいられないです。
3つ目は『砂男』。
ようやく出てきた、杉村さんが探偵になるまでの話です。
やっぱり故郷でも事件に巻き込まれていたんだなぁと。
もう、そういう星のもとに生まれたんでしょうね、仕方ない。
そこで出会った本職の人にスカウトされるような形で探偵になったというのがいきさつでした。
すごく納得できるストーリーだなと思いましたね。
まぁ、売店で産直野菜を売っている姿も様になってたと思いますけど。
にしても、『戸籍の売買』みたいな話だと、やっぱりこの間読んだ『火車』が一番最初に思いつきますね。
あっちは売買ではなく乗っ取りという感じでしたけどね…。
今回いなくなってしまった男性は、イメージ的に『仮面ライダーガッチャード』の錆丸くんで想像していました。
目をつけられた人が悪かったとしか言いようがないような感じで、ただただ不幸でしたね…。
そして、神経がまともすぎたからダメだったんだろうなと。
かわいそうな人だなぁと思いました。
彼の子供も奥さんのかわいそうだけど、どうすればよかったんでしょうね。
にしても、交換元の青年の傍若無人さが本当に怖かったです。
ストーリー的に、というのもありますけど、「うちの息子もそうなってしまうのではないか」という恐ろしさでした。
うちの息子は発達グレー児で、とても興奮しやすい正確です。
まだ小6だから今は何とか対処できていますが、大きくなって体も力も強くなったらいつまで耐えられるかわからないです。
その矛先が娘(彼の妹)に向かった時には、どうしたらいいんだろうと思ってしまいますね…。
最近はストレスが多いからなのか、言動もより一層おかしくなってきているような気がします。
どうしたもんでしょうか…。
最後は『二重身 ドッペルゲンガー』。
自分とそっくりな姿をした分身、ドッペルゲンガー。
『クロノ・トリガー』のドッペルくんを思い出しますが。私だけか。
東日本大震災を題材にした殺人事件の話でした。
犯人は、それまでずっとついてない、暗い人生だったんだろうなと想像してしまいます。
だからと言って人を殺していいわけではないです。
もうちょっと思慮深かったら、きっとそんなことしたら身の破滅だっていうことをわかるんでしょうけどね…。
やっぱり教育って大事ですね。
にしても、犯人も不良仲間のお友達も、大した役者ですよ。
私だったら絶対にそんな自然な演技なんかできないですわ。
多分寝られなくなっちゃうから、とっても挙動不審になると思います。
イライラしちゃうだろうし。
あの大震災で、多分被災地の辺りでは本当にいろんなことがあって、中にはそれを隠れ蓑にした事件とか、まだ発覚していないものもたくさんあるんだろうなと想像してしまうことはあります。
『阪神・淡路大震災』の方ですが、東野圭吾さんの『幻夜』もそんな話だったような気がします。
しかし、まさか被害がそこまでなかった地域で、震災を隠れ蓑にできるなんてすごいなと思いました。
ある意味彼は、このときばかりはツイていたんでしょうね。
そのツキがこんな時じゃなくて、もうちょっと前に巡ってきていたら、もっと人生変わっていただろうなと思います。
いい意味でボンボンだった昭見さんは、よっぽど明日菜のお母さんのこと好きだったんでしょうね。
幸せになることができず、残念に思います。
そして、もうちょっとだけ『恵まれていない人』の心情を尊重する力があったら、こんなことにはならなかったのかもしれないですね…。
まあ、それは無理ってもんでしょうかね…。
お互いタイミングが良くなかったんでしょうか。
もちろん犯罪はいけないことだと思いますけど。
しかし、4つの短編全部、なんだか薄ら寒い感じの結末でした…。
宮部みゆきさんの短編って、こういう「ちょっと怖い感じ」「ちょっとスッキリしない感じ」の話が多いように思います。
長編でもひどい事件は多いんですが、なんか最後に希望があるように描かれることが多いと思うんですよね…。
正直、読後が爽やかっていうのはないんですけど…やっぱりおもしろいんですよねー。
本当にすごいです。
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