山猫珈琲 上巻

読んだ本

湊かなえさんの『山猫珈琲 上巻』を読みました。
湊さんの本は『少女』以来です。

今回は、なんとエッセイでした。
前回『少女』を読んだ後にこれを読むと、あまりの違いに驚いてしまいます。
もちろん、湊さん自身が登場人物の人たちのようである必要はないわけですし、人間誰しも複数の顔を持っているとはわかっているんですが。
湊さんの柔らかな一面が存分に出ていて、なんだかとても癒やされるような気がしました。

『山』と『猫』と『コーヒー』が大好きなことから付けられたタイトルだとのこと。
『山』は山女日記シリーズ、『コーヒー』はリバースで少し出ていましたね。

『猫』に関しては…何かあったかな…。
今回のエッセイ集は、いろんなところで連載されていたものを集めて来たとのことでした。

まず、『第一部 新聞連載』。
『随想…神戸新聞』。
阪神淡路大震災の年に、卒業旅行として東北を1週間かけて旅行してくれたときのお話でした。
(私は、東京への天候もありましたが、小学校~大学までを仙台で過ごしました。
私の両親は秋田出身です)
『阪神淡路大震災』、その時私は高校生でした。
朝起きて、新聞に大きく高速道路の写真が載っていて、ニュースでもそればかりが流されていて、愕然としていました。
何をすることもできませんでした。
そんな中で、湊さんがこちらに来ていたとは思いませんでした。
しかも。
あるあるだと思うんですけど、地元に住んでいる人間よりも地元に詳しい感じですね…。
中尊寺はさすがに2回くらい行ったことはありますが、餅のことなんて知りませんでした。
白石うーめん、多分食べたことはあると思いますが、白石には行ったことないかもしれないです。
宮城県民だったのに。
『ストーブ列車』は、名前は知っているけど乗ったことないな…。
奥入瀬に至っては、実物はほぼ知らず、この間読んだ『死神の精度』でのイメージばかりが浮かびます。

私自身は東日本大震災はほとんど被災しなかったけど(食器が割れて家具が倒れたくらい)、私の両親はガスが止まった中で生活していたようでそれなりに大変だったみたいです。
幸い、怪我などはなかったのですが。
震災では、いろんな人が支援してくださって、本当にありがたかったです。
『東北への恩返し』として、こうやって話題に挙げてくれることもありがたかったです。
みんな廻っていくんだなぁ、と思いました。
…今回は、新聞掲載という内容的に、毎回冒頭で「旅行に行った」という下りが入るんですけど、それがなんだか Bot みたいでおもしろかったです(笑)。

『オトナになった女子たちへ…朝日新聞』。
湊かなえさんの本はも結構たくさん読んだと思うんですが、そういえば彼女についてほとんど知らないということに気付きました。
今回この山猫珈琲を読んで、湊さんのいろんなことを知ることができて、なんだか嬉しく思います。
まず、出身は広島の因島市とのこと。
映画館がないような場所だったそうで、同級生たちとは今でも仲良しだったのこと、羨ましいです。
被服関係の大学を卒業して、アパレル会社に就職。
それでデパートで販売の仕事をしていた、と。
なるほど、『山女日記』などで出てくるデパートの描写は、ご自身の元職場からイメージされたものだったんだな、とものすごく納得しました。

あと、今は淡路島在住とのこと。
『山女日記』には淡路島の玉ねぎの話も出てきましたね。
青年海外協力隊にも行ってらしたようで、『往復書簡』はその辺りからなんでしょうね。

なんだか、ご自身が経験してきたことを余すところなく出しているのが羨ましいです。
それからお子さんもいらっしゃるそうで、それも全然知らなかったことでした。
作家を始めてすぐのあたりでは、作風との兼ね合いから、お子さんがいらっしゃることを隠してらっしゃったようです。
…まぁ、確かに『告白』や、それこそ昨日読んだ『少女』は、なかなかセンシティブな内容ですから、わかるような気もします。

あと、幼少期は『なかよし』をよく読まれていたとのこと。
私は『りぼんっ子』だったので、そこはちょっと違うなと思いました(笑)。
ちなみに、うちは妹がいたので、『なかよし』は妹が買っていて、交換もしていました。
エッセイの内容を読んでいると、きっとすごく暖かくて優しい女性なんだろうなというのがすごく伝わってきました。
すごく社交的みたいですし、年齢問わず刺激を受けた人からはちゃんと吸収しているし、いろんな集まりに出かけているし、登山が好きで旅行が好きで、とってもアクティブ。
今回、湊かなえさんの Wikipedia もじっくりと読みまして、非常に興味深くおもしろかったです。

『イッツ ア ワンダフル ジャーニー…神戸新聞』。
湊さんが現在自分が住んでいる淡路島について語るという章。
淡路島は湊さんの故郷ではなく、旦那さんのご実家なんですかね?
湊さんは、この神戸新聞の連載を書いている時点で15年ぐらい住んでいるようですが、15年間住んでいても全然知らなかったことというのがたくさんあったようです。
今回のこの連載で、改めて自分の周りのことをたくさん知ることができて、きっと楽しかったんだろうなと思いました。
私も今のところに住み始めてもう10年以上経ちますが、ほとんど何も知らない…。
そして、知らなくても生きていけちゃうんですもんね。
淡路島には、3年ぐらい前に家族で旅行しました。

玉ねぎも食べましたし、確かにすごく美味しかったんですが、野菜嫌いの子供達にはあまり好評ではなく…、悲しい。
生しらすとか、そういうおすすめ料理もたくさんあるみたいですね。
本書に出てきた『鯛そうめん』も食べてみたいなと思いました。
さすが作家さんなだけあって、本当にグイグイと引きつけてくる文章なので、また淡路島に行きたいなと思っちゃいます。
ぼやぼやしていると、息子(中1)が家族旅行なんてしたがらない歳になってしまう(というか、普通ならもうなっていると思う)ので、もう1回行きたいですね。
鳴門海峡のあたりに行きたいですね。
前々から再訪を希望していましたが、今回のエッセイを読んでその思いが強くなったような気がします。
ただなー、いかんせん、遠い…。

『プロムナード…日本経済新聞』
前の3つとはまた違ったテイストのエッセイでした。
7年間一緒に作家生活を歩んできた FAX が壊れてしまった話です。
なぜだかわからないんですけど、じわっと涙が溢れるような思いが湧きました。
なんか本当に、湊さんってすごくいい人なんだろうなーって。
お会いしてお友達になりたいな。
小説『告白』で鮮烈なデビューを果たし、その後も『少女』など結構どぎつい感じの小説をたくさん書かれていたので、どんな方なのかなといろんな想像をしていました。
今回このエッセイを読んで、ご自身の初期の作風に悩まれていたということを知って、なんだかちょっとほっとしました。
同時に、気の毒にもなりました。
ストーリーがいつもすごくおもしろて刺激的なんですが、何と言うか自分の書いたものに飲まれてしまうというか、結構きつかったんだろうなと思いました。
あと、SONY の VAIO が最初に買ったパソコンだと書いてありました!
これは、実は私もそうだったんですよー。
当時、VAIO が発売したあたりにちょうど大学受験が終わって、「大学でパソコンを使うから用意してください」と言われました。
確か富士通とか東芝などのオーソドックスなメーカーが大学で少し割引かれて売られていたんですけど、当時バリバリの PS ユーザーでソニー信者だった私は、「絶対に VAIO を買う!」と決めていたんですよね…。
無事合格したので、親に頼み込んで VAIO を買ってもらって、その時確かに2~30万ぐらいしたのを覚えています。
「高くて申し訳ないな」と思いつつも、本当に本当に嬉しくて。
そのパソコンは、4年間は使えなかったんですが、3年弱ぐらいは一生懸命工夫して使いました。
(メモリの整理、不要ソフトを立ち上げずに起動させる、などです)
ハードディスクが2GB しかなくて、それでもなんとか騙し騙し使っていました。
そんな私と多分同じ時期だったんだろうなーと思って、なんだかすごく嬉しくなってしまいました。
私も、その次、その次の次、ぐらいまではずっと VAIO を使ってたんですが、ここ最近は Lenovo ですね(笑)。

確かに VAIO が SONY じゃなくなくなってしまったというニュースを、とても寂しい気持ちで聞いたなと思い出しました。
その他にも、日常の些細な話題でも湊さんが書くと、いろんなものがどんどん深掘りされていってすごく興味深く感じてしまいます。
目の付け所が私とは違っていて、とても新鮮ですし、勉強になります。

『作家の口福…朝日新聞』。
これまた湊さんの文章力で書かれた食事の話です。
読んでる分にはきついわー。
『せっかくグルメ』のスタジオ観覧ってこんな気持ちなのかな、と思ってしまいます(笑)。
生しらす丼も鯛そうめんも前の話にも出てきましたが、やっぱり改めてこうやってまとめられるとかなりの破壊力です。
結婚して住み始めた淡路島という土地にすごく愛着を持って、「みんなに楽しんでいってもらいたい」という気持ちをすごく持ってらっしゃる方なんだな、と。
「観光大使ではないけど」と書かれていますが、もはやここまで来たら観光大使とほとんど変わらないでしょう。

『猫派ですが、…朝日新聞』
今回はまた一転、まったく違う話題です。
青年海外協力隊の記念イヤーだったらしく、青年海外協力隊のことがたくさん書かれていました。
『青年海外協力隊』、確かに聞いたことはありあすが、応募したいと思ったことはない…。
そもそも旅行があまり好きでない私が、海外で暮らすなんてちょっと正直考えられないな、という感じです。
ただ、自分の子供が「海外で暮らしたい」と言ってきたら送り出してあげたいなとは思います。
でもな…、息子だったら送り出したいけど、娘だったらちょっと躊躇してしまうかもしれない。
(息子ならいい、という意味ではないんですが、女の子は心配で…)
アメリカとのソフトボールの話、やっぱりおもしろかったです。
さすが「自分たちが世界の中心だ」と言ってはばからない国なだけありますね。
まぁ、今までもそうやってルールを作ってきたんでしょうからね。
途中で韓国の話も出てきましたが、こうやって個人個人1人ずつ見られればいいんですが、国単位になってしまうと途端に軋轢が生じてしまうんですね。
まあ、これが『星』単位とかにならないだけいいのかな、なんて思ったりもしますけど(笑)。
国内にいても、県単位だったりとかで考え方も『土地柄』もあったりするんだから仕方ないんでしょうね。
2匹の飼い猫についての話も、なんだかジーンと来てしまいました。
私自身は、親が転勤族だった関係で、ずっと社宅などの集合住宅に住んでいたので、ペットを飼ったことがないです。
だからちょっと羨ましいというのもありつつ、世話とか大変そうだなと思うという感じです。
そんな中で、今回の飼い猫のうちの1匹が亡くなってしまった話、亡くなってから3日後ぐらいに、もう1匹がなくなった猫を探してにゃーにゃーと鳴くという話は、なんだかものすごくぐっときてしまいました。
そういう風に心が動く機会が、ペットを飼っているときっとたくさんあるんだろうなと、羨ましく思います。
でも、なんかそういうのに振り回されちゃって。私はずっと泣いて暮らしてしまいそうだなとも思っちゃって、「やっぱり飼えないな」と思っちゃいます。
湊さんの小説が海外のいろんな国で翻訳されて発売されていて、アメリカでは推理小説として何かの賞にノミネートされたという話が書いてありました。
確かに、そういう話は全然話題として伝わってこないなぁって。
結局受賞されたんでしょうか?
その辺りのことは分からずじまいでしたが、ノミネートされること自体がすごいことなんでしょうし、もうちょっと報道してほしいよなと思います。
映画化・ドラマ化されると大衆に受け入れられるとは思いますが、それがまだ『小説』という形のままの段階では、なかなか多くの人には伝わってこないなと。
精神科医の樺沢先生がよくおっしゃっている「1ヶ月に1冊も本を読まない大人が何 %」みたいな話にもつながって来るんでしょうね。
最近では私は「読書が趣味」と言えるぐらいには読めるようになってきているので、よかったなと思いました。

なんと、この『山猫珈琲』は下巻もあるそうで。
これはこれは。
まだ『湊かなえワールド』に浸れそうです。

Audible で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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