山女日記

読んだ本

湊かなえさんの『山女日記』を読みました。
湊さんの小説は『ブロードキャスト』以来です。

この小説を読むまで知らなかったんですが、湊かなえさんは登山が趣味なんだそうです。
すごいなぁ…。
私は、20代なかばに会社の同期が誘ってくれて、女4人で富士山に登ったことがあります。
今思えば、完全インドア派のわたしがよく行ったよなぁ…と。
誘ってもらえなかったら行くことすら考えなかったと思うので、感謝です。
そして、おもしろかったです…けど、もういいかな(笑)。
というわけで、今回は山にまつわるお話でした。
7つの短編が入っていました。

最初は『妙高山』。
比較的よくありそうな話ではあるかな、と思いました。
最初に主人公が懸念したとおり、この2人だけで登山するというのはかなり厳しい状況だなと、私も思いました。
案の定、途中で爆発してしまいましたね。
ただ、老人ホームにいるその不倫相手の実の母親を定期的にお見舞いしているというのは、なかなか斬新な設定だなと思いました。
というか、完全に男に利用されている…のでは…。
若くてかわいらしい魅力的な女性ということみたいなので、偉そうな人を適当に手球にとっているのかなと思いきや、ひょっとして彼女の方がベタ惚れなのか…? なんて思ってしまいます。
知らない女性、しかもかなり年上の人を、定期的にお見舞いに行かなければいけないというのは、私にとってはかなり苦行なので…よくやってるなと感心してしまいます。
惚れが方が負けなのか…?
一方で、主人公の女性。
彼女はよくデパートに勤めてるなと、こちらも感心してしまいます。
学生時代まで剣道をやっていたということで、その性格もあって、どちらかというと警察官などの方が合っていたんじゃないかな、なんて思えるほど正義感が強いというか、きちっとしているというか。
そういう感じの女性なので、女性だけの職場によく耐えられるなと思ってしまいます。
婚約まで済んだような状況で、恋人から親との同居の話を持ちかけられる…なんていうのは、なかなかヘビーな状況ですね…。
まぁ『詐欺』と言っても許されるんじゃないかなと思いますけど。
この先、どうするんでしょうか?
それにしても、浮気の妄想だけであそこまで怒れてしまうのは…まぁ正直、私も同じような感じかもしれないな、と思いながら聞いていました…。

2つ目は『火打山』
『40代でバブリー』とのことでした。
私も40代なんですけど、バブルの恩恵なんて微塵も受けてないよなーと。
いつ書かれた小説なのか確認したところ、2012年ぐらいとのこと。
なるほどー、私より10個ぐらい上となると、確かにちょっとバブリーな感じがするのかもしれないですね。
山登りの「や」の字も匂わせない感じの女性でしたが実は、という内容で、意外性があっておもしろかったです。
しかし、新卒で勤めていた一流企業の洗礼が…すごく怖い…。
まぁ、当時ならそういうこともあったのかな…という感じではありますね。
なんかすごい『選民意識』というか、『偽りのエリート意識』というか。
ちょっと気持ちが悪いなと思いました。
まあ、でもそういう場所にいたら、それが当然でそう育ってしまっても仕方ないのかもしれないなとも思います。
「分不相応な格好したところで、自分がしんどくなるだけ」というのは、ある程度年を取らないと理解できないのかもしれないです。
相手の男性も、いいところを見せようと思って山に誘ったものの、実は自分よりも上級者だった、というオチでした。
でも、そこで変に卑屈にならずにちゃんと向き合える人だったのが、すごく良かったです。
どのような形であるかはわからないですけど、幸せになってほしいなと思える2人でした。

3つ目は『槍ヶ岳』。
最初読み始めたときは、いわゆる『マンスプレイニング』の話か、と警戒していたものの、終わってみたら迷惑なおばさんの話でした…。
確かに、主人公の女性にとっては、自分の父や母や妹などとの関係を見直すいい機会になったのかもしれないですが。
このおばさん本当に迷惑ですね。
そして、こういう人にイライラしないで接することができるのは、本当に素晴らしい人格だなと思います。
デパートに勤めていたらいろんなお客さんがいるんでしょうね。
そういう接客に彼女は慣れているんでしょうね。
私は無理だな…とつくづく。
私は中高6年間部活で陸上やっていたんですが、『足を引っ張られる』みたいな経験ってほとんどしたことがないので、大人になって完全な趣味でこんな風にされると、すっごくイラッとしちゃうと思いました。
それなのに彼女は、ちゃんと目的地まで引っ張っていってあげて…尊敬します。
と同時に、自分はこのおばちゃんみたいにならないように気をつけようと、心に深く刻み込みました。
高山植物などにも、私はあんまり興味を抱けないと思うので、もし登山を趣味にするんだったら本当に黙々と登る感じかなと思い、「それだと別に登山じゃなくてもいいのでは?」と思ってしまうんですよね。
主人公の彼女のように、1人で楽しみたい人にとっては、着いてこられることって本当に迷惑でしょうね。
お疲れ様でした。

4つ目は『利尻山』。
「妹は一体何歳なのか」と思って聞いていたら、35歳。
まぁ、ある程度心配になる年ではあるな、となかなか納得してしまいました。
せっかく東京の外国語の大学に行ったにも関わらず、地元に帰ってきて玉ねぎ農家となると、まー周りが心配しちゃうのもわかる気がすしますけど。
それとはまた別に、「今どき結婚しなくたってなんとか生きていけるんだからほっといてよ」という気持ちもわかりますね。
難しいところだー。
私は、妹と2人だけでどこかに旅行したという経験がないなと、今更ながらに思いました。
4つ離れているんですが、幼い頃はケンカもよくしましたけど、それなりに仲もいい…いいはず…なんですけど。
まぁ、お互い子供がまだそんなに大きくないから、というのはあるかもしれないですね。
いつかこんな風に、登山ではないにしても、どこか2人で旅行に行けたりするのかな、なんて、ちょっと楽しみに思いました。
話の内容とはまったく違いますけど。
にしても、姉の離婚を切り出された原因が何なのかがまったく書いていなかったので、さて想像するしかないんですが。
おそらく、旦那の浮気だろうなーと思ってしまいます。
そもそも、ものすごくエリート意識にこり固まった男の人みたいなのでねー。
しかも、見てくれもそれなりにいいみたいですし。
それで医者でしょー?
お姉さんは「何で自分が選ばれたのか」とか、考えたのかなーなんて思っちゃいますけど。
利尻山は当然行ったこともなく、多分行くこともないとは思うんですが、地図で見てみると本当にまるっとした島に山がポツンと中央にあって、なんだかすごい場所だなと思いました。
でも、往復で10時間歩きっぱなしって。
…結構な拷問だな、と。
登山しているあいだ中、いろいろ考えたかったんでしょうけどね。
でも、声に出したりメモを取ったりできない状況での考えごとって、自分的にはうまくいかないイメージがあるので、大丈夫かなと心配してしまいます。
今まで散々妹に説教してきたから、子供連れて戻るという選択肢が取りにくいかもしれないですが、それでもいいんじゃないかな、と。
玉ねぎ農家ということなので、淡路島とかなんでしょうか?
北海道とかではないかな?
映画で「ピンバッジでカナリア」ということは、以前読んだ『往復書簡』の中にあった『北のカナリアたち』の原作つながりということでいいんでしょうか?

家族旅行がずっと雨というのも、なんか乙なものではありますが、まーかわいそうかなとも思いました。

5つ目は『白馬岳』。
まず、最初に旦那に謝罪を。
勝手な思い込みで申し訳なかったです。
まさか、浮気ではなくうつ病の方だったとは。
鼻持ちならない感じだったのも、虚勢だったのかな、と。
わかんないですけどね。
登場人物は前回の『利尻山』からの続投です。
そのとき話題に上がっていた娘のなっちゃんが今回は同行していて、3人で山に登っていました。
小学5年生の女の子、一人っ子だから甘えん坊な感じがよく出ていました。
でも、少しずつ母親よりも体力も出てきて、いつの間にか支えてもらえるようになっていたところが良かったですね。
うちの娘はまだ小2ですけど、いつかこんな風にしっかりとしていくのかな、なんて思いながら読んでいました。
前回は妹の一人称でしたが、今回は姉の一人称です。
やっぱりなんだかんだ言っても夫のことが大切なようで、本当は離婚なんかしたくないんでしょうね。
最初、養育費のことすら頭からすっぽ抜けていた旦那に対して怒りすらこみ上げてきましたけど、精神的に弱っているのかと思うとそんな気持ちもなくなりました。
本当であれば、旦那こそこういうところに連れてきて、家族3人ですっきりする方がいいのかもしれないですけど、ちょっとうつっぽい人に山登りは厳しいよな、と。
少し離れてみて、お互いに大事だということに気づければいいですね。
さて、これからどうなりますかね。
続きがあるかどうかはわからないですけど、後悔しない選択をしてほしいなと思います。

6つ目は『金時山』
これより前の山に比べると、随分ライトな感じではあったものの、ここから始めて欲しいという恋人の思いが十分に伝わってくる感じがして、なんか良かったです。
私も富士山に登ったことはありますが、確かに富士山云々というよりも、やっぱり『日本一』的な付加価値みたいなものを求めていたところもあり、気持ちはなんとなくわかりました。
あと、富士山、実際登ってみて確かにしんどいです。
しんどかったけど…そこまでものすごくしんどいわけではない、というのも分かりました。
たくさんの人が登るから、きちんと整備された山という感じはしたような気がします。
今回の主役は、1つ目の『妙高山』の同期3人組の、残りの1人でした。
彼女たちの話を聞いてたときは「急に男ができたからそっけなくなった」とちょっとした裏切り者的な印象を持っていましたけど、そこまでではない感じでした。
なんか、勝手な先入観で思い込んでしまって申し訳なかったな…と。
やっぱり、こういう場合は両方の話を聞いてちゃんと確認しないと、勝手なイメージが作られてしまうものだなと反省です。
前回の医者の旦那にも通じますねー。
あと、『劇団員の彼氏』ということで、勝手にまた嫌なイメージを持っていたんですが、全然そんなこともなく、きちんとした誠実そうな男性でした。
素敵な出会いだったし、山のエピソードも良かったし、2人がこの先どうなるか分からないですが、できれば幸せになってほしいなと思います。

最後は『カラフェスに行こう』。
『カラフェス』が何なのかもわからないですし、どんな内容のイベントなのかも正直あまり分からなかったですけど、音楽が聴けるのであれば素敵なイベントだなと思ってしまいますね。
今回出てきたのは、前にも出てきた玉ねぎ農家の翻訳家をしている妹でした。
なんだかんだで、やっぱり同じような趣味のお友達が欲しくて、ウェブサイト『山女日記』で進められたこのカラフェスに参加してみたみたいです。
そこで、ちょうど同じサイトで相談していた人に偶然出会ってお友達になるという、短めだけどちょっと素敵なストーリーでした。
そうですよね、別に異性である必要はないですもんね。
同性で気心の知れた人ってすごくいいです。
年齢も職業も全然違うみたいですが、共通した趣味を共に分かち合うことができるのはすごく素敵なことですね。
羨ましく思います。
姉夫婦のその後も、ちょっと知ることができて良かったです。
結局別れることなく関係を修復できたみたいで、子供のためにも本人たちのためにも良かったんじゃないでしょうか。
旦那さんの鬱も軽減したのか、今度は家族で山登りをすることになったみたいで、それも良かったです。
この話だけ、掲載されたのが『山と溪谷』だったみたいです。
『ヤマケイ』といえば、『金田一少年の事件簿』の明智さんですねぇ…。
おまけレベルではありますが、そういうシーンがありましたねー。

『登山小説』と聞いて抱くイメージとは違う感じの小説で、それもまたすごく良かったです。
どうしても、『クライマーズ・ハイ』的な感じを想像してしまいますからね。

続編もあるようなので、楽しみです。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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