恒川光太郎さんの『夜市』を読みました。
恒川さんの小説は『滅びの園』以来です。
『夜市』と『風の古道』という2つの話が入っていました。
表紙は赤をベースにした金魚。
それに、少し光が漏れる感じの字体で書かれた『夜市』の文字。
それだけで、ちょっと怖いと感じてしまうのが不思議です。
『第12回日本ホラー小説大賞受賞作』とあったので、かなり身構えて読みました。
なんせ、私は怖いものが苦手なので…。
でも、小説は意外と行けるはず、と思って読みました。
なんというか、「怖い」よりも先に「不思議」が来る感じ。
もちろん怖さもあるんですが、もっと先が知りたくなる感じでした。
本当に不思議。
まず、『夜市』。
こちらは恒川さんのデビュー作とのことです。
やっぱり、とっても不思議な話でした。
裕司は『それ』を考えて今まで生きてきたのかな、と思うとすごく悲しい気持ちになりました。
きっと野球で良い結果が出たときも、「これは自分の実力じゃない」ってずっと思っていて、常に間違ったことをしてしまったという思いで、何も楽しめなかったんだろうなって。
夜市にいずみを連れて行った目的を、いずみ自身が予想(結果として外れていたけど)したときに、私はその考えに至っていなかったので、本当にびっくりして「裕司、なんて嫌なやつだ!」と思ってしまいました。
でも、そうじゃなかった。
良かったけど、悲しいです。
自分と引き換えに、という考えにまで達するのに、一体どれくらいいろいろ考えてきたんだろうな、と思うととてもつらかった。
そして、まさか助けてくれた男性が…なんていうのが、それもとても不思議なめぐり合わせでした。
彼の今までの半生も不思議の連続。
「よく頑張ったね」と労ってくれる人が早く現れるといいな。
「普通の人間は夜市に3回しか来られない」ということで、男性はもう来ることはできないんですが、今度はいずみがどうするのか、それも知りたいですね。
いずみは完全に巻き込まれで、かなり気の毒な気もしますが…。
それも、不思議なチカラで薄れて、消えていくんでしょうか。
次に『風の古道』。
こちらも不思議な話。
なんというか、『ジャパニーズホラー』という感じなんでしょうか。
ずっと古道から出られないレンくん、とても不思議な生い立ちでした。
コモリを『退治』できてよかったなと、本当に思います。
ああいう卑怯なやつはいるもんだからな…。
レンくんのお母さんはどうなったのかな、というのも興味がありますね。
できれば古道の中にいて、いつかまた巡り合えればいいなと思いましたが、まぁやっぱり外に出ているんでしょうね。
幸せになっていてほしい。
一方カズキは本当に不憫だったなと思います。
彼との別れがなんだか淡々としていて、それもまたこの不思議な雰囲気に拍車をかけている感じでした。
主人公はなんとか元の世界へ戻ることができてよかった。
そして、こういうのが『神隠し』と、我々の世界では認識されているのかな…なんて思いました。
人間が入ってはいけない場所に、なにかの表紙でスルッと入ってしまう。
死者が蘇る方法がなかった、というのも、結局は良かったんじゃないかなと思います。
とても悲しいけど、そこで行き帰りが実現してしまったら、これからなにかに遺恨を残しそうで怖い。
後日談として、主人公が、カズキがいないことを責められなかったか、が心配です。
知らぬ存ぜぬで突き通すしかないんでしょうね…。
それも悲しいことですけど。
一番最後に、「これは成長の物語ではない」と、はっきり書いてあったのがとても印象的でした。
淡々としていてある意味清々しい。
こういう事があったという事実(フィクションですけど)だけが淡々と描かれているというのが、かえって深く染み込んできました。
「一つを選べば他の風景を見ることは叶わない」まさに至言です。
そうやって、いろんなことを選択して生きていくしかないんですもんね。
とてもおもしろかったです。
『滅びの園』もおもしろかったけど、また違った色合いで『夜市』も『風の古道』もおもしろかった。
すごい作家さんですね。
なんだか癖になります。
Kindle Unlimited で読みました。
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