久坂部羊さんの『告知』を読みました。
久坂部先生の本は『カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座』以来です。

今作は、『訪問診療』を舞台にした短編集でした。
全部で6つの話が入っていました。
主人公は『あすなろクリニック』に務める20代後半の看護師・中嶋享子。
…本当に、医療従事者の方々には感謝の気持でいっぱいになります。
最初は『綿をつめる』。
主人公の享子さんは、今回訪問診療初心者の三沢先生と一緒に『看取り』に行きます。
三沢先生はお酒を飲んでしまったようで、タクシーで到着しました。
道が混んでいたらしく、到着が遅れてしまい、臨終に間に合わなかった…という大失態をやらかしたものの、あすなろクリニックのベテラン・一ノ瀬先生からのアドバイスを受け、最期のときはしっかりと執り行うことができました。
その後、いわゆる『エンゼルケア』を中島さんと三沢先生で行います。
その様子が書かれているんですが…。
いやぁ、話には聞いたことがありますが、結構壮絶だなぁ…と思いながら読んでいました。
『腹部』を押して『中身』を出したり、いろんな穴という穴に綿を詰めたり。
まさにタイトル通りです。
中島さんが言っていた「ここできちんとやらないで、お葬式で何かあったとき、故人にとってそっちの方がかわいそう」というのは、「なるほどなー」と思わされました。
それから、『死に化粧』も看護師さんがするんだなーと。
なんとなく『納棺師さん』の仕事なのかな、と思っていました。
その辺りの役割分担的なものってどうなってるんでしょう?
今回は『訪問診療』だから、看護師さんが最後にやったのかな?
故人の化粧品があるから、とかそういう感じなんでしょうか。
しかし、本当に、大変なお仕事だなと思いました。
2つ目は『罪滅ぼし』。
これは…なんか、私自身の父と母の姿にちょっと重なるな、と思いながら読んでいました。
夫が仕事一筋で、ほとんど家庭を顧みず。
ようやく定年退職したものの、妻がアルツハイマーになってしまい、その介護に行き詰まりを感じている、という感じです。
私の実家でも、父が母を一人で見ています。
私の母は、このアルツハイマーになった女性ほどは進行していませんが、まぁかなり近い感じの状態でしょうかね。
やっぱり、以前の母とはまったく違う感じになってしまっています。
ですから、「父もこんな気持ちいでいるのかな」と思いました。
この男性、最初は妻にとても当たり散らしていましたし、『介護殺人』なんてワードもよぎったりする感じでしたけど、少しずつ介護のペースがつかめてきて、妻ともなんとなく意思疎通ができるようになりました。
以前は最大の鬼門で困難に感じていた『便通の管理』も軌道に乗ってきた矢先、妻が今度は白血病になってしまいました。
そこで夫が、「今まで苦労をかけた『罪滅ぼし』として、もっと介護をきちんとやりたい」と言うんですよね…。
正直、まあ正直、「遅いな」と思いましたけど。
その自覚があるんだったら、もっと早く家族と向き合ってほしかったな、と。
…それは、まぁ『今の世の中』に生きている人間の感覚なんでしょうね。
いわゆる『昭和の価値観』だと、この夫さんの感覚なんでしょうね。
この夫さんも、まさか奥さんがこんなに早くアルツハイマーでこんな状態になってしまなんて思っていなかったでしょうしね…。
ひょっとしたら、「一緒に旅行行ったり」とか、そういうこともいろいろ考えていたかもしれないですね。
その計画が、全部台無しになってしまって。
それでも、なんとか自分なりの『やりがい』みたいなものが見つかった矢先に、ね…。
でも、こうやってきちんと向き合って、相手のことをずっと考えながら過ごしてきた『最期の時間』は、過ぎてしまえばかけがえのない時間だったと思えるんでしょうけど…。
難しいです。
3つ目は表題作『告知』。
今の時代ですと、本人に対して病気の告知をするというのが一般的なはずなのに、今回の人はその『告知』を受けていません。
以前、他の病気になったときにとても落ち込んでしまって大変だったから、という理由で、「自分には告知しないでほしい」と言ったのを、周囲の人たちが今でも守ってあげているという状態です。
今までは入院していたので、その間だけ気を付ければよかったものの、退院してきて自宅療養になっってしまったので、24時間ずっと気をつけていなければいけなくなりました。
周りの方が疲弊してきてしまっているんですね。
そういうこともあるんだなぁ、と。
本当に難しい問題だと思いました。
確かに「自分自身の容態をきちんと知っておきたい」と思う人もいるでしょうし、「知らせないでほしい、とっても怖い」と思う人もいて当然だとは思います。
でも、一緒に暮らすうちにだんだんカマを掛けるようになってきてしまって。
それが辛いですね。
少しずつ自分の体がおかしくなっていく様を、本人はどんな風に受け止めているんでしょうか。
疑心暗鬼になったり…しているんですよね、きっと。
だからカマかけてきて、「違うよ」って言ってほしい。
いやー、本当にきついです。
この人の場合は、結局告知せずに、最後そのままスーッと、比較的スムーズに亡くなりました。
でも、これで一悶着起きてしまう可能性も十二分にあったわけですよね。
本当に難しい問題だなと思いました。
「自然に任せる」=「結局何もしない」ですけど、それが案外難しい、と。
確かにそうですね…。
4つ目は『アロエのチカラ』
『民間療法』については、以前読んだ同じ久坂部先生の『悪医』にもいろいろ載っていました。

正直、藁にも縋る思いの人にひどいことするもんだな、と思いながら読んでいました。
でも、『悪医』でもそうだったように、「本人たちがやりきった感を感じられる」というメリットもある、ということなんでしょうか。
『金額』がかなり掛かるケースが多いだけに、とても難しい問題だなと思いました。
ただ、今回の人は『アロエ』にその活路を見出したというのが、おもしろいなと思いました。
まー、そんなに金額もかからなそうですし。
私の夫の妹も10年くらい前に亡くなったんですが、お義母さんが『枇杷の葉っぱ』とかそういうものをたくさん買っていたのを思い出しました。
義妹が「薬が苦いから飲みたくないんだよね」と言って飲まなかったことがあったんですけど、そのときに『オブラート』とか『おくすり飲めたね』とか、そういうのを買って渡せばよかったのかなって、私でもいまだに思ったりしますね。
もちろん、そういうものなんてとっくに試していたかもしれないですけど。
だから、そういった後悔をなくすためにも、いろんな方法を試すのはいいのかもしれないなと、少し思いました。
少し話が逸れました。
民間療法が効くか効かないか、それこそ人それぞれでしょうし、ひょっとしたらそれで本当に治る人もいるかもしれないですからね…。
最後、その病気の奥さんじゃなくて旦那さんの方が亡くなった、というのは…言葉はよくないかもしれないですが、コメディのようだなと思ってしまいました。
でも、実際にこういうことってあるんでしょうね、きっと。
5つ目は『いつか、あなたも』
この『告知』は文庫本なんですが、単行本で出たときはこの『いつか、あなたも』というタイトルだったとのことです。
読み終えて…なんだか、うーん、とても難しく、とてもしこりが残る話だなと思ったんですよね。
これを『表題作』に持ってくるというのは、なかなか、なかなかだな、と。
26歳車椅子、統合失調症の疑いの女性。
この話の最後に「彼女もいろいろつらいんだよ、今の状況が好ましくないことは自分でもよくわかっているだろうけど、どうにもならないんだ。事態が悪化するとわかっていても、自分を止められない」というような一ノ瀬先生の台詞がありました。
本当にもったいないなと思ってしまいました。
26歳、まだ若いのに、これからまだ何にだってなれる可能性がたくさんあるにもかかわらず、こうやってしか生きていけないのかな、と。
「根性で治せ」とか、そういうこと言うつもりはないですが、本当にもったいないです。
しかしね…。
一ノ瀬先生が嵌められたこのシチュエーション、本当に怖いですね…。
お医者さんだから、最近の駅員さんみたいに『小型カメラ』を首からかけておくということもできないでしょうし。
いやー、本当に難しい。
もし、こんな風に密室で2人きりになって、どっちが「何かしたとか」「しない」とかそういう問題になった場合、事実がどうなのか確かめようがないですよね。
まぁ、常識的に考えて、すぐにでも看護師や家の方が上がってくる可能性があるシチュエーションで、『そんなこと』をするはずもなく。
でも、『被害者』に畳み掛けられたら困ってしまいます。
今回の場合はどうすれば良かったんでしょうか?
中島さんが下に行かないで、ドアを開けて大声で呼べばよかった、とか?
まー、あとからだったらなんとでも言えるわな…。
今回その場から離れたのは本当に一瞬だったんだと思うんですけど、それでもこんなことになってしまうわけですもんね。
常に2人で一緒に行動するしかないってことでしょうか。
本当に難しいな、そして怖いです。
最後は『セカンド・ベスト』。
ALS の患者さんの話でした。
今回の患者さんの本条さん、すごく明るいくて前向きにがんばっている人です。
だからこそ、余計に辛いです。
結果的に、大晦日・年末年始は無事過ごせて、きっと思い出も作れたんだと思います。
でも、本当にこれは幸運だったからなんでしょうね。
すべてのケースでこんな形で綺麗にうまくいくわけではないですもんね。
そして、まさに今回のケース、そこから本条さんは3ヶ月間『がんばった』わけですが…。
それが果たして本人にとって良かったことなのか、分かりませんでした。
最後の3ヶ月は、『ダイジェスト』のようにさらっと描かれていました。
…この部分をもっと長く厚く書くことっもできたと思いますが、それはきっと読む方もとっても辛い話になってしまうでしょうね…。
だから、あえてのダイジェストだったんだろうな、と。
本当に難しいですね。
この話はフィクションではあるものの、久坂部先生の体験談がかなり入っているとのことでした。
読んでいてとてもリアリティがありましたし、変に美化として終わりじゃないところもたくさんありました。
「きっとこういうこと、あるんだろうな」と思える内容でした。
医療従事者の方には、本当に感謝してもしきれないですね…。
心からそう思いました。


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