可燃物

読んだ本

米澤穂信さんの『可燃物』を読みました。

米澤さんの小説は、10年以上前に『インシテミル』や『ボトルネック』を読んだことがありました。
『インシテミル』は映画にもなっていますね。
かなり豪華な出演陣だったように思います。
あー、こう書いていると、『インシテミル』も読みたくなっちゃいますね…。

この『可燃物』、米澤さんのお父様が行方不明になったあたりで発売されていたのを思い出します。
Twitter(X)で淡々と報告されていましたが、無事を祈っていただけに残念でした。
ご冥福をお祈りします。

この小説は、群馬県警の葛刑事を主人公とした警察小説です。
群馬県警といえば、以前読んだ麻野涼さんの『県警出動』を思い出します。

県警出動
麻野涼さんの『県警出動』を読みました。麻野さんの小説は『死の臓器2 闇移植』以来です。この『県警出動』は、現時点で4冊出ているシリーズモノのようです。これはまた楽しみ。群馬県の道平川ダムで男性の遺体が発見されました。遺体は群馬県で県議をして...

葛刑事も、財津刑事と塩野くんも、本当に群馬県警にいるんだったら、かなり層が厚いですね…。
うらやましいです。

5本の短編が入っていました。
葛刑事の渋い推理が光る話ばかりでした。

1つ目は『崖の下』。
『嫌味なリーダー格とお供の数人でスキーに出かけて不穏な空気が漂っている』みたいなシチュエーションって、『金田一少年の事件簿』の世界だけかと思っていましたが、実際にはよくあるんでしょうか…。
私だったら行きたくない。
結局、この最後に死んでしまった男の人は、どの時点から彼に殺意を抱いていたんでしょうか?
いや、もしかしたら殺意などを抱いておらず、本当に事故だったのかもしれない?
もう、今となっては、どちらも死んでしまったからわからないですね。
しかも凶器が自分の骨だったなんて…もう、考えただけでも痛くて。
さらにそのことが原因で死んでしまったわけですから、何と言うか痛み分け…でいいのかな…?
やっぱりそれを考えると事故だったのかな、とも思わなくもないんですが…難しい。
錯乱して服を脱ぎ始めてしまった友人を力ずくで抑えたら、抑えどころが悪くて死なせてしまった、みたいなのが真相、だといいんですけど。
それともやっぱり…っていう感じですかね。
当事者が2人とも死んでしまった今は、もはや真実を知る術もないですね。 

2つ目は『ねむけ』。
現代日本の縮図のような事件だと思いました。
「OECD 加盟国33か国の中で、一番睡眠時間が短いのは日本」みたいなことをよく聞きます。
登場人物のほとんどが眠気に襲われている状態です。
別にそれは「付近に催眠ガスがばらまかれた」などではなく、みんなそれぞれがそれぞれの事情で寝不足で。
刑事の仕事も大変だし、救急救命医も本当に激務ですからね…、ネトゲの人は知らん。
寝不足でなかったはずの容疑者が怪我を負わされ、交通事故の犯人として挙げられました。
それ以外の人が全員寝不足ってのは、現代日本の停滞の一因を見たなという感じがあります…。
やっぱ寝なきゃだめですね、頭がすっきりしないですもん。
私はちゃんと寝るようにしてから、ずっと体調いいです。
特にお医者さんと刑事さんにはちゃんと寝て欲しいなと思います。
あとは何だろう、もう信号機に広角の防犯ビデオを標準装備したらいいんじゃないでしょうか?
なんかもう嫌になっちゃう。
私は免許持っているんですが、もう20年以上運転してないんです。
この先も運転するつもりなくて。
だから余計怖いですね…。
『人が死ぬ可能性のある凶器』を乗り回してる人が居眠りしちゃダメですね、やっぱり。
しかし自身も寝不足であるにもかかわらず、葛刑事の推理力はすごいなと思いました。
だからこそもっと寝てほしいですね…。
きっと、もっと推理が冴えわたると思います。
人の行動の曖昧さ、伝聞の不確かさを思い知らされたような話でした。
あと、東野圭吾さんの『天空の耳』という小説を思い出しましたねー。 

3つ目は『命の恩』。
葛さん、食事を菓子パンとカフェオレで済ませすぎです。
ちゃんと食事とって。 
しかし、何ともやりきれない事件でした。
故人に呼ばれていたのかたまたま行ったのかわかりませんが、部屋に入ったら人が首つってたってすっごくショックでしょうね…。
そして、その人の見えない遺志を継いで死体をバラバラにして、動かない体に鞭打って捨てに行って…すごいなと思います。
確かに、数年前に自分と娘までも命を救ってもらったのであれば、ものすごい恩を感じているだろうなとは思いますが…ここまでかー、と。
亡くなった人の人間性がちょっとアレだったから、いろいろ疑われる余地を残してしまったんでしょうけど、故人は本当はきっといい人だったんでしょうね。
お金はちょいちょい借りてたみたいだけど、それでも恩があると言い切れるんですから、本当に恩を感じてたんでしょうね。
しかし、やっぱり娘のことを考えて欲しかったなとは思います。
死体損壊がどれぐらいの罪になるか、私は分からないんですが、『犯罪者の娘』になってしまいましたからね…。 

4つ目は『可燃物』。
この本の表題作でした。
なかなかにおもしろい動機でした。
まさかそんな理由で放火を繰り返していたとは…と思います。
普通に考えたら、本末転倒ですね。
でもまぁ、本人にとっては重大な理由だったんですかね。
合理的に考えられず、変な思考をしてしまう人ももいるっちゃいると思うので、なんだか妙にリアリティがありました。
とはいえ、ある意味万全の体制で臨んでいたいえども、本当に大変なことになってしまったらどうするつもりだったんだろうかと思います。
そして、実際放火犯なわけですから、結構な罪に問われるんじゃないのかなと思っちゃいますが…。
まさに本末転倒ですね…。
不謹慎かもしれないですが、おもしろいなあと思いました。 

最後は『本物か』。
私はこれが一番おもしろかったように思います。
立てこもり事件、まさかの偽装。
うっかり殺しちゃったところに、ちょうどいいカモが飛び込んできたという状況だったってことですかね。
しかも、『犯人候補』は子供までいるから、こちらの言うことを聞かざるを得ない。
とっても不幸なシチュエーションでしたが、だからと言って『真犯人』が夢想していたような結末には…ならないような気もしますけどね。
というか、実際想定通りにならなかったわけですし。
そして、それを暴いてしまう葛さんは本当すごいなと思いました。
イカスミのパスタの注文数を聞いたり、レジ前で売ってるおもちゃの種類を聞いたり、部外者からしてみたら「何やってんだこいつ」というような情報を一つ一つ吟味して集めていって、それで真犯人の意図に気づく。
素晴らしいです。
子どもに目立ったトラウマ症状が見られず無事小学生になり、お父さんも仕事に復帰できたみたいで、本当に良かったと思いました。 

5個あった短編集で、なぜ『可燃物』が表題作になったのか。
それがなかなか気になります。
まぁ、5個のタイトルの中だと『可燃物』が一番タイトルっぽくて、ちょっとインパクトがある単語だからでしょうか?
『命の恩』とかだとちょっとスピリチュアルっぽいし、『本物か』だとなんだかよくわからないし、とか?

ナレーターの声の感じで、葛刑事はちょっと年配の刑事さんなのかなという想像してしまうんですが、それで大丈夫なのかな?
それにしても、なかなかおもしろかったです。
今回は短編集でしたが、葛刑事の長編も読んでみたいですし、これからも『葛刑事シリーズ』として続刊も検討していただきたいですね。

[AD]可燃物
[AD]Audible
さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

さちこをフォローする
読んだ本
さちこをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました