浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』を読みました。
浅倉さんの小説は、以前『ノワール・レヴナント』と『教室が、ひとりになるまで』を読んだことがあります。
どちらも、ちょっと不思議な能力を持つ人が出てくる話でした。
特に、『ノワール・レヴナント』の、本の背表紙をなぞると中身が脳にインストールされる能力、すっごく欲しかったです(笑)。
ただ、脳にめっちゃ負担が掛かりそうなんだよなー。
今回の小説では『不思議な能力』を持つ人は出てこなかったんですが、すごくよく練られた話だなと思いました。
最近、浜辺美波さん主演で映画化されましたよねー。
浜辺さん大好きなので…行きたいんですが…なんかきっかけがなくて…。
この小説、ずっと私の Kindle に『おすすめ』に表示されていました。
でも、就活の話だと、自分の就活の経験がいろいろフラッシュバックするから、あんまり読みたくないな…って思ってしまっていました。
1980年生まれ、モロに『就活氷河期世代』なもんで…。
あ、別に、今結構明らかになってきている『就活生に対するセクハラ』的なことを受けたわけではないです。
ただ単に、本当に内定がなかなかもらえなかっただけというか。
まー、要するに実力不足だっただけかもしれないんですけど。
でもまぁ、以前『何者』を読んだときもおんなじことを思いましたし、なんだかんだでやっぱりおもしろかったのも事実。

今回映画化されていることもあり、「せっかくだから読もう」という感じで読み進めました。
それこそ最初はいまいち乗り気がしない感じだったはずなのに、いつのまにかどんどん読み進めてしまいました。
最後の方は、本当に涙が止まりませんでした。
いやー、おもしろかったです。
にしても、今の時代で『就活生』じゃなくて、本当に良かったなと心から思います。
今回の小説のように、グループでの活動とかさせられちゃうわけなんですよね…。
まぁ、私のときも『グループディスカッション』はありましたけど…、でも本当に無理なんですけど…。
就活も、新卒のときよりも中途のときの方が気が楽でしたね。
小説の前半、みんなで1つのチームになっていくパートは、何というかちょっと偽善者の集まりっぽい感じもしてました。
なんだかこっぱずかしくて、いわゆる共感性羞恥なのか、読んでいてキツかったです。
しかも、徐々に雰囲気がおかしくなり、『あの事件』へと発展するところも、書き方が絶妙だなと思いました。
というか、いきなりそんな風にくるっと手のひら返しされるような採用方法、本当にひどいなと思いましたね…。
小説にも書かれていましたが、やっぱり人事担当者は短い面接での接触しかないのに、その人の人間性とかそういうの見極めるのは無理ですよね。
会社で働いてきて、改めてそう思います。
見極められた人だけが働いているんだったら、なんで…という人たくさんいます。
私もそう思われていたかも知れませんけどね。
まぁ、それにも関わらず学生はその人たちに『生殺与奪の権』を握られている感がすごいというか、それはやっぱりかわいそうだなと思いますね。
ただ、その学生側の言い分として「今後何十年かこの企業で過ごすんだから」的な文言が何回か出てきましたが、今の大学生もそんな『終身雇用前提』みたいな感じで就活しているものなんですか?
私自身が新卒で入社した2002年の時点でも、私は「まぁ5年もいればいい方だろう」ぐらいに思っていました。
結果として最初の会社には6年強勤めていましたが、定年まで勤め上げるという発想は一切なかったですけどねー。
しかし、物語の構成が本当に巧みだなと思いました。
はじめはちょっと偽善者の集まりっぽい感じでちょっとよそよそしかったけど、そこから彼らの印象が良くなるような材料を少しずつ集めていってどんどん『仲間』になっていきました。
でも、少しずつ雰囲気が不穏になるようにしてあるというか、少しのすれ違いがどんどん深くなっていって埋まらない溝になっていくのが、いい意味で「イヤーな感じ」でしたね。
そして、最後に出てきた最終面接での封筒。
すごい仕掛けだなと思いました。
出てきた『暴露情報』が、波多野くん以外は絶妙なクリティカル加減だったのもすごかったです。
でも、最後にちゃんとそれを突き詰めていくと、100% その人が『悪人』だというわけではなくて。
それが、私にとってはすごく救いになりました。
100% いい人も100% 悪い人も多分いなくて、やっぱり切り取られた情報だけでその人の印象を決めてしまうのは怖いことなんですね。
嶌さんのお兄さんがまさか『その人』だったというのは驚きました。
最後の方で「会わせてあげる」って言ったのには笑ってしまいましたねー。
後輩ちゃんとも、心を開いて仲良くなれるといいなと思います。
嶌さんの足が悪いっていうのは気づくことができなかったです。
でも、そういう些細な言動からいろんな人の隠された部分がわかってきて、それがそんな風に作用するんですね…。
本当に、舌を巻くような構成でした。
読み始めの、私の気が重い感じはどこへやら。
本当に気持ちがよく、スカッとして、読後が爽やかでした。
波多野くんのその後ついては、とても悲しかったです。
でも、1人でこの真相までたどり着いて、本当にすごい子だったんだなって思います。
正直、6人の中では彼が一番目立たない感じだったので、本当に意外でした。
…6人で入社できていたら、どんな未来になっていたんだろうなって。
この会社は、本当にもったいないことをしたんじゃないかな、と思いました。
あとがきに、作者の浅倉さんは「小説のプロットの管理を Excel のセルやグラフでやってる」と書かれていました。
うわー、すごい!
私も Excel 大好きなので、結構いろんなことに使ってはいるんですが、そういう使い方は思いつかなかったです。
…まぁ、小説を書く予定はないですけどね…。
でも、その資料を、見てみたいですねー。
「『セル』は移動させるのが簡単だから」と書いてあって、「なるほど」と唸ってしまいました。
『教室が、ひとりになるまで』が浅倉さんの小説だと気づいたのは、解説にかかれていたからです。
なるほどなーと思いました。
なんというか、なんかその巧妙な伏線管理みたいなものが共通しているなと思いました。
いやー、おもしろかったです。
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