中山七里さんの『テロリストの家』を読みました。
中山さんの小説は『有罪、と IA は告げた』以来です。
今回の背景には『在アルジェリア日本大使館占拠事件』という架空の事件があります。
以前読んだ『月光のスティグマ』や『総理にされた男』で出てきていました。
アルジェリア国内でテロが起き、在アルジェリア日本人が保護を求めて日本大使館に身を寄せたところ、その日本大使館自体がテロリストに占拠されてしまい、人質の日本人がインターネット中継の中一人ずつ殺されていったという事件です。
フィクションだとわかっていても、異様な動悸が止まりませんでした…。
『月光のスティグマ』では、実際にその事件に巻き込まれた当事者目線で描かれていて、一緒にいた女性が突入時の混乱の中命を落としています。
『総理にされた男』では、日本国内でネット中継を見ながらその事件を解決に導く総理大臣視点です。
ウルトラ C の解決策で事件をなんとか収束させたものの、そのやり口と犠牲者が出たということに対して非難をこれから受けるかも…という感じで終わっています。
その事件が起きてから以降は、日本国内で「テロリスト憎し」の気運が高まっている、という設定です。
表紙は4人の家族がマスコミからマイクやカメラを向けられて困っている絵です。
一番左の息子っぽい人の影だけ、マシンガンを持っているように変形しています。
その絵からして、家族4人のうちの息子に当たる人物が『テロリスト』なんだろうなとは思っていました。
でも、まさか父親が警察官で、しかも公安の刑事だったとは。
なかなか大変な状況だなと思ってしまいました。
まあ、同じ状況が最初から最後まで続くことは、中山七里さんの小説だからないだろうな、とは思っていましたが…。
まさか息子が殺されてしまうなんて。
ちょっとびっくりしてしまいました。
息子がテロリストに志願したことが知られて、いわゆる『マスゴミ』だけではなく、件の占拠事件で犠牲になった男性の親まで出てきてしまいます。
もう日本中から非難されて大変な感じです。
…しかし、公安っていうところは、本当に『一つひとつのパーツしか作らせてもらえない』んですね…。
同僚との仕事のつながりが見えないから、自分の仕事がどういう部分に影響を出しているのかがすごく分かりづらい。
人によっては全くやりがいを感じられない職場だなぁと改めて思いました。
それでも、「国民をテロから守る」というものすごく大きな信念があるから、それを支えに頑張れる人はいるんだろうなとは思いますけど。
兄はずっと誰かをかばってる感じがあります。
彼のモノローグの中から読み取れるんですが、結局それが誰かわかりません。
そして、そのうちに殺されてしまったんだけど、物語の最後でそれが誰だったかがわかります。
その人物の動機も、「日常生活でうまくいかない」「いろんな人からいじめられる」などが重なって、この日本という国自体に嫌気がさしたという感じでした。
今とても辛い人は視野狭窄になりがちで、そうやって『無敵の人』になって大変な犯罪を犯すということがあります。
そんな状況に置かれてしまって、破壊願望・破滅願望を持つ気持ちも、まぁわからなくもないかな、とは思います。
ただねー…。
日本で暮らした若者が、現地に行ってまともな戦闘力になれるとはどうしても思えないですね。
ましてやテロリストの国ですから、日本人が考えているような『人権』があるとも思えないです。
だから、もうちょっと誰かに相談できなかったかなとは思ってしまいます。
だからこそ、この一家の兄がこうやって気を配っていたんだから、もうちょっと彼に相談したりしてあげてほしかったな…と思います。
結局、この兄とはちゃんとした言葉も変わってないまま永遠の別れをすることになってしまって、ものすごく後悔も大きかったことでしょう。
『事件』なんてみんなそんなモンだと思いますが、誰も得をしない、悲しみだけが残ってしまいましたね。
テロリストに志願すること自体が『私戦予備・陰謀罪』に当たる可能性があるとのことです。
こういう知識、知らないんですよね。
若い子なんて特に知らないと思います。
習う機会がなかった、といういいわけなんですが、今までは自分から学ぼうとする機会も気持ちもなかったので。
知らないで、おもしろそうだからと気軽に応募して、取り返しがつかないような事態に発展してしまう。
確か、2000年あたりに何度か偽札が出回ったというニュースを聞いた覚えがあります。
カラーコピーしたとかそのレベルのものだったように思います。
気まぐれや出来心でやったとしても、通貨の偽造はかなりの罪になる、とそのとき知りました。
国家を転覆させる可能性のある重罪だと。
『踊る大捜査線 THE MOVIE』の身代金の番号を控えるシーンで、青島くんがお札をカラーコピーして怒られるシーンもありました。
当時はとても効率的で控えミスもなくいいアイディアだと思ったので、なぜ怒られるかわからなかったんですが…。
コピーじゃなくて写真だったら良かったのかな…?
そういう、日常からちょっと外れたという程度のことでも、重罪になる可能性があるということ、あまりにも知らなすぎるなーと、改めて思いました。
やっぱり『無知は罪』は真実なんですかね。
知ろうとする努力は必要なんですね。
なんか、いろいろ考えさせられる話でした。
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