原田マハさんの『お帰り キネマの神様』を読みました。
原田さんの小説は先日の『キネマの神様』以来です。
はじめこの本を見たとき、昨日の『キネマの神様』と何が違うのかがわからず混乱したんですが。
どうやら、
- 『キネマの神様』→ 原田さん作のオリジナルの小説
- 映画版『キネマの神様』 → 原田さんの『キネマの神様』を山田洋次監督が映画化したもの
ただし、人物や設定は似ているもののストーリーがぜんぜん違う - 『お帰り キネマの神様』 → 映画版『キネマの神様』を、原作者の原田さんがノベライズしたもの
ということらしいです。
すごいことですね…。たしかに、オリジナルの『キネマの神様』を読み終えたあと、Wikipedia の『キネマの神様』のページの『映画』の項目を読んだんですが、話があまりにも違うので「Wikipedia の編集間違ってる?」と思ったんです。でも、Amazon のレビューにも「小説と映画は別物」と書いてあったんですが、ここまで違うとは…。
最近、原作とドラマ化で話が違って悲しい結果になってしまったことがあったので、正直いい感情は持てなかったんですが。
でも、『お帰り キネマの神様』の『まえがき』に、タイトルを『歓び』とした上で、この小説の立ち位置、原田さんがいかに映画が好きか、そして、山田洋次監督に対する最大限の敬意と好意が書かれていました。原田さんはこの流れが『コラボレーション』だと断言した上で、溢れんばかりの歓びをまえがきとしていらっしゃいました。なので、部外者は何も言うまい、です。
シングルマザーの円山歩は映画雑誌『映友』で契約社員のライターとして働いていたものの、父・郷直(通称・ゴウ)のギャンブル癖ゆえの借金の督促が職場まで来てしまい、契約を更新してもらえませんでした。また、歩には息子・勇太がいますが、高校受験をせずに引きこもりになってしまい、そのことも歩みを悩ませています。
歩の母・淑子は昔の友人である寺林新太郎・通称テラシンが館主を務める『テアトル銀幕』でパートとして働いています。ある日テラシンから試写会に誘われ観に行くことになりました。銀幕の大スター・桂園子の美しい目元がアップになったその瞳の中に、助監督時代のゴウが映っていたのでした。
なぜゴウが助監督を辞めてしまったのか、テラシンとはどういう付き合いだったのか。
また、テラシンが勇太に貸した、ゴウが初監督を務めるはずだった作品『キネマの神様』の脚本。読み終えた勇太は、ゴウに対してある提案をします。
本当に、まったく違う話だなーと驚きました。
もちろん面白いです。でも、登場人物と設定が共通しているだけで本当に違う話。桃鉄といたストよりも違うものです。…どちらもモノポリーからの派生です。
歩は『映友』に入るのではなく出されているし、新村のような人物はいなくなっています。ばるたんくんは歩の息子勇太に変更された感じ。
そして、ゴウとテラシンの撮影所時代が物語のメインのような形で加えられていました。
同じ素材を渡されても、料理人が違うと違う料理ができる、という感じでしょうか。どちらが良いとか悪いとかじゃなくて。違うタイトルだったら素直に楽しめたのにな、とちょっと残念に思ってしまいました。
映画化にあたっては、ゴウははじめ志村けんさんがやるはずだったそうですが、新型コロナウィルスに感染後亡くなられてしまったため、沢田研二さんが演じられたそうです。志村けんさんの代役が沢田研二さんって、すごい…。うちの母が大のジュリーファンなんですが、どう感じるんだろうか…。今の母に聞いてもわからないと思うから聞きませんが。
それを先に読んでいたので、『遠目に見ると沢田研二に似ていると思えなくもないくらいだった。角度によっては志村けんに見えることもあったが。』という一文が、おもしろいのと悲しいのとで、ちょっと気持ちが乱されました。志村けんさんといえば、私くらいの年代の人でも大スターですからね…。
銀幕の大女優・桂園子は北川景子さんが演じられたそうです。いやー、これは納得。彼女、本当にきれいですもんね。なんというか、時代を超越した美人だなと思います。
終盤の歩がスピーチをするシーン、涙が止まりませんでした。自分が書いた原稿なのに一番泣いているゴウの姿が浮かんできて笑いながら泣きました。
そして、ラストシーン。美しい園子に手を引かれて歩くゴウ。その姿は、沢田研二さんではなく、若いゴウを演じた菅田将暉さんだったってことでしょうか。ステキなシーンですね…。そしてステキな最期…。ものすごい有終の美の人生だったことでしょう。振り回されて迷惑を被っていた周りも、最後の最後で報われたと感じられたんじゃないでしょうかね…。
オリジナルの『キネマの神様』が300ページくらい、『お帰り キネマの神様』が200ページくらい。ボリュームとしてはちょっと少なくなっていますが、さすがの原田さんでかなり濃密な物語でした。おもしろかったです。
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