中山七里さんの『静おばあちゃんと要介護探偵』を読みました。
中山さんの小説は『こちら空港警察』以来です。
『静おばあちゃん』シリーズの第2作です。
第1作の『静おばあちゃんにおまかせ』は2023年の年始に読んでいたので、今回はこちらの2作目から読みました。
先日読んだ『有罪、と AI は告げた』に出てきた円ちゃんや葛城刑事は、静おばあちゃんシリーズの登場人物です。
無事に判事になった円ちゃんは、同僚からも静おばあちゃんの話をよくされていました。
今回の『静おばあちゃんと要介護探偵』では、静おばあちゃんと円ちゃんはまだ一緒に暮らしていない状態です。
更に、もうひとりの重要人物『要介護探偵』こと香月玄太郎おじいさんは、『さよならドビュッシー』の登場人物でした。
ふたりともまだお元気で…。
そして、まさかこの二人がタッグを組むとは、という感じです。
静さんと玄太郎さんのまさかの邂逅から描かれる今作には、5つの短編が入っていました。
読んでいるときには気付けず、後でいろいろググっててようやく知ったのですが、短編5作のタイトルはすべてアガサ・クリスティの作品から取っているようですね!
一部はちょっともじっているようですけど。
こういうのを一瞬で気付けるようになりたい…。
まだまだ修行が足りないですね。
1つ目は『二人で探偵を』。
玄太郎おじいさんは『さよならドビュッシー』でも、前半の方にしか出てきてなかったし、かくしゃくとした人なんだろうなという印象しかなかったんですが…。
警察を顎で使ったり、猪突猛進な感じもあったりとなかなか破天荒な人でした。
今回のモニュメント爆破事件では、まぁ要するにそのモニュメントがものすごく重かったから目くらましになってしまっただけで、それがなければ普通の遺体をちょっと隠した犯罪という感じだったってことでしょうか。
そして、よく見るビルの解体とかでうまい具合に使う火薬のように、今回も火薬の量がちょうどいい感じであったために、玄太郎おじいさんに犯人が誰かわからせることになってしまった、と。
その道すじがなかなかおもしろかったです。
にしても、人一人殺しておいてのうのうとパーティーに参加するなんて、やっぱり建築会社の社長さんというのは肝が座っている人じゃないとできない職業ですね…。
普通はちょっとぐらい挙動不審になったり、出られなくて欠席するなりなんじゃないのかなと思いますね…。
そして、殺されてしまった彫刻家も、本人にあまり金銭欲がないのであれば黙っておくのがベストだったということでしょうか…。
で、その会社からの依頼はもう二度と受けない、受けた被害はちゃんと周りに吹聴しておく、ぐらいでとどめておけば、今頃もまだご存命だったのかもしれません。
せっかく玄太郎さんに一目置かれるような存在だったのに、残念です。
次は『鳩の中の猫』。
老人をターゲットにした詐欺事件が、玄太郎おじいさんが町内会長を務めるあたりでも起きてしまって、被害者が何人も出ました。
少なくても200万円、多い人は1億円以上の被害額だそうで、老人たちの蓄えをそのように奪っていった輩は当然許せないです。
ただ…今回の事件の犯人は…。
玄太郎おじいさんも最後の方で言っていた通り、彼が子供の頃万引きをした時にかばってあげなかった方が、ひょっとしてやっぱり彼のためになったのかもしれない、と思うと切ないです。
だってかなり昔の話のはずなのに、それがある意味成功体験になってしまって、そのとき痛い目に遭わなかったがためにこの事件が起きてしまったとしたら、ちょっとやりきれないものがあります。
もちろん玄太郎おじいさんのせいではまったくないですけど。
いい大人なんだし。
にしてもこの場合って、彼は辞職させられてしまうんでしょうか?
一応殺意はなかったっぽかったし、被害者の身内ということで気持ちもわからないでもないけど…。
ただ、犯行がばれないような偽造をきちっとした上での犯行だから、どうなんでしょうね。
結婚して子供がいるような年齢の男の人なんだから、もうちょっと考えて行動して欲しかったなという気持ちはあります。
3つ目は『邪悪の家』。
認知症を患った徘徊老人の、万引きの話でした。
悲しいですね。
今までかくしゃくとしていた人が、ぼーっとしたような感じになっているのだけでも悲しいのに、知らず知らずのうちに認知症を患っていたなんて。
元気なときを知る人たちにとっては認めたくない事実なんでしょうね。
そこにプラスして年金搾取みたいな問題も絡んできて。
さらに、不法就労外国人とかも入ってくるあたり、やっぱり中山さんは引き出しが多いなあと思ってしまいます。
コンテナを使うあたりは、今野敏さんの『トランパー みなとみらい署暴対係』の辺りを思い出しました。
この小説が出た時点で、すでに認知症の原因が脳に溜まるアミロイドベータというタンパク質にあるというのが分かっていたみたいだけど、それを予防する方法はまだわからないという記述がありました。
単行本が出たのが2018年ですか。
今であれば「運動しろ」という最も簡単で明快な回答がありますが…、まぁ年取ってから言われるのはしんどいですよね。
ある程度若いうちからちゃんと運動しておかないいけないと、改めて思いました。
まぁ、まさか中山さんの小説でこういう感想を持つことになるとは思わなかったですが。
4つ目は『菅田荘の怪事件』。
これは、アガサ・クリスティの『スタイルズ荘の怪事件』のもじりのようです。
付近の全域にわたるガス漏れ事件と、それに絡めた旧式のガス湯沸かし器の話。
そして、一酸化炭素中毒で亡くなった老夫婦。
まさかこういう結末になるとは、としんみりした気持ちになりました。
やっぱり昔の人にとっては、自殺は不名誉なんでしょうか。
静さん宛の遺書にはどんなことが書いてあったのかな、とちょっと思いをはせてしまいます。
そういえば、みち子さんは久しぶりに登場したような気がします。
『さよならドビュッシー』を先に読んでいるので、彼女に対しては正直あまりいい感情は持ってないんですが、それでも玄太郎おじいさんをうまくあしらってるあたり、立派な介護士さんなんだろうなとは思います。
にしても、ガスなんて人が死ぬ可能性があるものなんだから、そういう公共工事を担う会社にはちゃんと責任を全うしていただきたいですね。
おちおち寝ることも叶わないじゃないですか。
最後は『白昼の悪童』。
こちらも、アガサ・クリスティの『白昼の悪魔』のもじりのようです。
クレーンの鉄骨が工事現場に落下し、真下にいた外国人労働者が圧死してしまった事件。
危うく玄太郎おじいさんが巻き込まれそうになって、みち子さんがそれをかばったとのことでちょっとした怪我を負ってしまいました。
…みち子さんは本当にすごい人です。
みち子さん不在の穴を埋めるべく、静おばあちゃんが玄太郎おじいさんの付き添いをするんですが…。
外国人労働者の元締めの会社に乗り込んだり、クレーンを運転して民家の外壁を壊したりなど、ものすごく大暴れです。
一番最後に静おばあちゃんが「みち子さんの給料を上げてほしい。危険手当ということで」と言っていましたが、確かに玄太郎おじいさんのおもりをするとなれば危険手当は必要だと思いますね。
外国人労働者の体内に覚せい剤などを仕込んで出国させ、日本に入国してからそれを取り除くという点は、まぁなんとなく想像がついたんですが、実際やるとなったらどうなんでしょう?
昔、肛門だか膣だかに覚せい剤を仕込んだけど、それが中で破損して急性中毒になって死亡した、という事件の記事を読んだことがあります。
短時間だったら大丈夫なものなんでしょうか?
ちょっと怖いですね…。
どれぐらいの期間で癒着しちゃうとか、そういう知識が一切ないのでわからないですね。
まさにに命がけです。
それぐらいしてても稼ぎたい人もいるんでしょうし、やむに止まれる事情でそうなってしまった人もいるでしょうし…なんだか気持ちが暗くなります。
今現在、日本が物価がとっても安い国になってしまっているので、そういうことがまだ起きているかどうかはわからないですが。
…でもまぁ、起きているんでしょうね。
みんなが平和に暮らせる世界っていうのは、いつか実現できるものなんでしょうか。
静おばあちゃんも玄太郎おじいさんも生きているということは、結構前の話だという認識でいいんでしょうか?
ゼルダの伝説で言うところの『スカイウォードソード』的な。
円ちゃんが出てくる『静おばあちゃんにおまかせ』では、もう静おばあちゃんは亡くなっていて、『さよならドビュッシー』でも玄太郎おじいさんは最初の方で亡くなっています。
それを思いながら読むと、ちょっと切ないです。
今作品では、Audible のナレーターが2人体制でした。
男性キャストの声を男性の方、女性キャストの声とナレーションを女性の方、と分けてやっていました。
そのおかげで本当に演技に幅があって、普通にドラマを見ている感覚で、とってもおもしろかったです。
人件費は2倍かかってしまうんでしょうが(笑)、すごくよかったですねー。
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