三浦綾子さんの『銃口 上下合本版』を読みました。
三浦さんの小説は『氷点シリーズ 全4冊合本版』に続いてです。
『銃口』というタイトルと表紙の男の子が佇む絵とが全然結びつかなくて、不思議な感じが漂っています。どんな内容なのかも全く知らず、前情報一切なしで読み始めました。
上下巻読み終えて思ったことは、「幸せになったようで、本当に良かったよ…」ということです。小説なので当たり前かもしれませんが、主人公の竜太くんの人生、波乱万丈すぎるでしょ…。
前回の『氷点』と同じく北海道・旭川が舞台となっています。土地柄なんでしょうが、途中でタコ部屋から脱走してきた朝鮮人・金俊明さんを匿うシーンが出てきます。そこに一文『この男が後に竜太の危機を救うことになろうとは、むろん知るよしもなかった』と書かれているんですが、この文がなかったら「はぁ、そういう土地柄・時代柄なんだろうなぁ」でスルーしてしまっていたことでしょう…。しかし、本当に後半、あんな場面で竜太くんの命を救ってくれることになろうとは…。邂逅のシーンは「あぁ! 金さん!」と叫び、涙が止まりませんでした。『情けは人のためならず』というのは、きっとこういうことなんでしょうね…。お互いが相手を思いやって、自分にできる精一杯のことをする。そうやって善意に満ち溢れた世の中だったらいいのに…。
『銃口』には、さまざまな人が出てきました。そして、そのうちの何人かは亡くなってしまいました。みんないい人たちだったのに…。
今回の小説のモデルとなった『北海道綴方教育連盟事件』というのは、本当に恐ろしい事件だったんですね。戦前・戦中は日本も某国のような偏った思想で子どもたちを教育していたことは知っていましたが、こんなにひどいものだったとは…。昔から、学校というところは『革命』『改革』からは一番程遠い保守的なところだとは思っていましたが、かつてはこんなに窮屈なことを強いられる場所だったんですね。あとは、教師になるのに大卒でなくても良かったというのは、なかなか知ることのない事実でした。『赤毛のアン』の何か(何冊もあるので)を読んだときも、同じようなことを思った記憶があります。
教師を無理矢理辞めさせられ、その後就職もできなかったのは、本当につらいことだったでしょうね。そして、そのまま招集されて。軍隊は完全な縦社会だし、つらいところだろうとは想像できます。時代としては仕方ないことだったのかもしれません。その中でもいい人はいて、竜太くんの味方になってくれる人たちもいて。厳しい環境でもなんとか耐えられたのは、そういう人たちの存在のおかげなんでしょうね…。でも、弟も戦死してしまってとても悲しかったことでしょう…。
竜太くんのいとこで幼馴染の楠夫くんが出てくるんですが、彼のことがなんかずっと気になっていて。変に大人びていることもあれば、妙に突っかかってくることもあり、恋のライバルになりそうなときもあったけど、結局はそこまで絡んでくることもなく終わってしまいました。「こいつが何かしてくるんじゃないか」「警察にチクるんじゃないか」「芳子(竜太くんのガールフレンド)にちょっかいかけてくるんじゃないか」とずっと警戒していたので、ちょっと拍子抜けでした。私の心が汚れているからでしょうか…?
前回の『氷点』を読んだときも少し感じましたが、やはりキリスト教の考え方が土台にあるようなので、わからない私には危なっかしさのようなものも感じましたし、少し理解に苦しむところもありました。でも、読み終えて心が洗われたような気持ちになりました。
最後のシーンは昭和が終わった直後。長い長い昭和という時代を抜けて、さまざまな出来事がようやく本当に『過去』になろうとしているときです。そのときも、芳子さんが隣りにいてくれて本当に良かった。つらい出来事も思い出として回想できるようになって、本当に良かった。そう思いました。
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