米澤穂信さんの『遠回りする雛』を読みました。
先日の『クドリャフカの順番』の続刊です。
今回、短編集だと気付かずにちょっと戸惑っていました。
なるほど、今までの『メインイベント』の隙間にあるちょっとした出来事を綴っていくスタイルなんだな、と理解しました。
7つの短編が入っていました。
中には「おっ」と思うものもあり、なかなか収穫がありました(笑)。
1つ目は『やるべきことなら手短に』。
今回の話はちょっといただけないですね。
価値観の違いなんでしょうか?
奉太郎くんの「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に」というモットーにはとても賛同するんですけどね。
今回のように嘘をでっちあげるのは、ちょっと…。
そんなことを組み立てて、必死になってえるちゃんを騙したところで、なんか得られるものがあるかなぁ、って思ってしまいます。
まぁちょっと遠いとはいえ、素直に音楽室の方の謎を解いてしまえばよかっただろうと思うし、結局のところを行かずしてもその回答までたどり着けたっぽいので、えるちゃんだけ行かせればよかったんじゃないかなって思っちゃいますね。
変な嘘ついて、しかも里志くんまで巻き込んで。
なんだかなーって。
結局、ずっと引きずって嫌な気持ちになるんだったら、スッキリしちゃえば良かったのになって思いますね。
結果論ではありますけど。
だいたい、嘘ってこういう感じで心にしこりを残すものですからね。
2つ目は『大罪を犯す」。
「自分がなぜ怒って言ったのかを知りたい」というのはどうなんだろう…と思いますが…。
自分のこと、しかも結構最近のこと、わからないものなのかな…?
そういえばえるちゃんは、氷菓事件でも「なんであの時自分が泣いたのか知りたい」って言っていました。
あんまり感情と出来事が結びつかないタイプの子ってことなんでしょうか。
私は結構結びつくタイプなので、芋づる式に出てきます。
だからすぐ泣くんですよね…。
話の内容としては、「まぁ昔はそういう理不尽な先生ってたくさんいたよね」っていう話ですかね。
そういう『やべー先生』ってどうなったんでしょうねー。
運良く自分のスタンスを保てたまま定年を迎えられたのであればよかったね、って感じですが。
今みたいにコンプライアンスコンプライアンスうるさい世の中だと、ちょっとのことでもものすごく問題になっちゃいますからね。
定年で逃げられなかった『やべー先生』は結構悲惨な目にあってるんじゃないかなと思ってしまいます。
まぁ、小文字の『a』と『d』を間違うというのは、なんか納得できる推理だったなと思いました。
私は、小文字の『h』と『b』を間違われたことがあったなぁ…と思い出しました。
だから、『とにかく字を見せたくない病』なんですよね…。
3つ目は『正体見たり』。
まぁ、ひとりっ子のえるちゃんが兄弟姉妹に対して幻想を抱く気持ちはわからないでもないですけどね。
「兄弟姉妹だからといって仲がいいわけではない」と、それをえるちゃんが知ることができたのは良かったんじゃないかなと思います。
『首吊り』で驚くのは当然ですよね。
私なんて、小学生の時に見た『ポートピア連続殺人事件』の『あみだがみね』のシーンはいまだに怖いですもん。
当時のドット絵だったとしても、ね…。
あとは、私もよく湯当たりしていたので、気持ちはわかります。
ただ、奉太郎くんは高校生男子ですよね…。
私は小学生女子でした。
もうちょっと体調に敏感になったほうがいいんじゃないかな…と思います。
余計なことですけどね。
4つ目は『心あたりのある者は』。
これはなかなかおもしろい話だなと思いました。
単純に「万引きかなんかかな」って思っていましたが、それよりも何段階か上の事件だったな、と。
それこそ国家転覆につながってしまいます。
車椅子探偵よろしく、現場にも行かずに話し合いだけで組み立てるというのは、やはりなかなか目を見張るものがありましたね。
そもそも「自分にそんな特殊能力はない」という証明のための話なんじゃなかったかな…なんてちょっと思いましたが。
まぁそれはどうでもいいか。
なるほど、万引きだと説明がつかなそうな部分でも、偽札だときれいに当てはめることができるんだな、と思いました。
5つ目は『あきましておめでとう』。
これも好きな話でした。
タイトルは「飽きまして」かと思ったけど、「開きまして」なんですね。
自分たちが閉じ込められているという情報をなんとかして伝えるために、ありとあらゆる手を尽くす、ということで。
そうですねー、私だったら無理やり壁破壊しちゃうかな…。
それで、なんとかちょこちょこっと繕って知らんぷりしとくかなー、なんて思っちゃいますけど。
まぁ、里志くんの思考パターンを読んで、何とか来てもらえるように手を打てたのは良かったね、と。
この後、2人は風邪引かなかったのかな、ってちょっと心配です。
あと、この『遠回りする雛』を1冊全部読み終えてから思ったんですけど。
この事件、時期的に『遠回りする雛』よりも後の話だったら、奉太郎くんにとってはちょっとしんどかったんじゃないの~? と(笑)。
6つ目は『手作りチョコレート事件』。
読む前にちらっと見た Amazon レビューでは、「この事件が一番後味が悪かった」とありました。
まぁ、摩耶花ちゃんはかわいそうだなとは思うけど、変に意固地になった高校生男子なんてそんなもんなのかなとも思います。
…私は女子校だったので、高校生男子との交流はほぼありませんでしたが。
里志くんはちょっと真剣に考えすぎなのかな? とも思っちゃいます。
好きだと思うんだったら付き合えばいいんじゃないかなって。
別に、自分のスタンスとかは「恋愛は別だから」って普通に軽く言っちゃえばいいわけだし。
別にここで付き合ったからって結婚までしなきゃいけない、生涯ずっとそいとけなきゃいけない、っていうわけでもないんだから、大切だと、好きだと思うんだったら付き合えばいいと思いますけどね。
濡れ衣を着せられた天文部の女の子、スカートにチョコレートを隠すとか…まぁないわ。
摩耶花ちゃんも、もうこんだけ真剣に考えてもらえるんだったら、もしお付き合いできるんだったら大事にしてもらえるんじゃないかなって思いますけど…。
へんにややこしい男はやめて、別に行くのも一つの手だとは思いますけどね(笑)。
まぁ「盗まれた」ってことで、その結末を察してしまったのはかわいそうだなと思います。
あと、「ハートのチョコレートを砕かれる」っていうのも、まぁちょっとかわいそうですね。
結局食べる時には砕いちゃうんですけどね。
最後7つ目は『遠回りする雛』。
これが、読み終えた後に「おっ?」と思った話です。
…これは、奉太郎くんがえるちゃんのことを意識し始めた、っていうことでいいんでしょうか?
私はそう受け取ってしまったんだけど大丈夫でしょうか?
まぁ、里志くんが撮った写真、見たいですよねー。
きっと綺麗だったでしょうね。
そして、その写真をずっと大事に持ち続けてほしいと思います。
はじめ、緞帳越しに話していたえるちゃんが、なんか妙に落ち着いてる感じだったから、「ひょっとして声だけ似ている別の人なんじゃないか」と思いました。
先日の『名探偵コナン』での和葉のお母さんの件がよぎったので(うちは夫が毎週『サンデー』を買います)、「ひょっとしてえるちゃんのお母さんなんじゃないか」なんて思いましたが…変に深読みしすぎでした。
まさかずっと好奇心を抑えていると、ここまで別人のようになるとは。
そして、この企てを成功させてしまった男性は、なかなかいい肝っ玉してるなと思いました。
これだけの人に迷惑をかけて、ただ「綺麗な写真が撮りたかった」と。
まぁ、別に罪に問われるようなことではなかったとはいえ、なかなかできないですけどねー。
まー、結局は二人の仲は遅々として進まない、みたいな感じになるのかな、と思っていますが。
まぁ、青春ですね…うらやましいです。
コメント