逆ソクラテス

読んだ本

伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』を読みました。
伊坂さんの小説は『フーガはユーガ』以来です。

今回は短編集で、5つの話が入っていました。
読み終えて気づいたんですが、すべて小学生が活躍する話でした。
読後感がとても良く、本当に読んで良かったと思います。

最初は表題作『逆ソクラテス』。
想定していなかった方角に着地してこんなに感動させられるとは、本当に驚きました。
子供たちが話していたのは、いわゆる『ピグマリオン効果』と『ゴーレム効果』のことですよね。
なるほど、それが『逆』ソクラテスにつながっていくわけですねー。
おもしろいです。
確かに、自分が小学校の時の先生って、何と言うか結構頭から押さえつけてくるタイプの人も多かったように思います。
特に男性の教師なんかは。
正直、嫌な気持ちになることもたくさんありました。
自分が小学校6年生のとき、5年生の学年主任の先生が、なぜか毎回のように「今の6年生(私達のこと)のようになるなよ」と聞えよがしに言うんですよね…。
それもあり、5年生全体からはなんとなく蔑みの視線を向けられていました。
別に、たかだか1つ違いなので、「敬え」と思っているわけでもないんですが、「どうしてこんなふうに言われなきゃいけないんだろう」とずっと思っていましたね…。
なにか因縁があったのかな。
私は小5の1月末に転校して来たので、よく知らなかったんですが。
まー、逆に何もないのにこんなこと言わないですよね、いくらなんでも。
今回の話では、くだんの久留米先生が、その後自分の考えを改められたかどうか、気になります。
それは久留米先生の『人間力』的なものにかかってるんじゃないかなと思いますし、まだ見ぬ彼らの後輩たちが彼らの努力の恩恵を受けられたかどうかは定かではないですね。
でも、少なくとも草壁くんにとっては、かけがえのない経験になったんだろうなと思います。
安斎くんのその後がちょっとだけ書かれていましたが…チンピラっぽかったって…?
正直信じたくないという気持ちの方が強いですけど…。
また土田くんが適当なこと言っているだけなんじゃないの…と思いたい気持ちが強いです。
草壁くんにものすごいきっかけがくれた安斎くんが、自分のせいではなく親のせいで良くない方に行ってしまったのであれば、それはすごく悲しいです。
彼にとっても『逆ソクラテス』をしてくれる人が現れてるといいなと思うんですけど。
「僕は、そうは、思わない」。
すごく、すごくいいセリフですね。

2つ目は『スロウではない』。
これもまたいろいろ考えさせられる話でした。
私自身は運動が好きだったこともあり、運動会はすごく楽しみにしているタイプの子供でした。
でも、もちろんそういう子ばっかりじゃないというのもわかっていますし、今だとそういう子の方が少ないんだろうなと思います。
…まぁ、正直「なぜ2チーム作ったのか?」と先生方に聞きたいですけどね…。
『全員リレー』ならまだしも、2チームもピックアップしなくていいんじゃないかな、と思いますけどね…。
私は『ゴッドファーザー』は見たことないので、2人のやり取りの詳細まではよくわからないんですけど、でもなんか雰囲気出てますね。
あの有名な曲も流れてくる感じです。
そして「消せ」というのは、なんか不謹慎ながらものすごくおもしろくて。
こういう身内だけで通じるキーワードみたいなものって、すごく楽しいですよね。
…なんかちょっと『クールポコ』を思い出して仕方なかったですけど(笑)。
転校生が、実は…というのは、なるほどそういうこともあり得るなと思いながら読みました。
また語りますが、私自身が小学校のうちに3回転校しているので、自分の経験から『転校=親の仕事の関係』と決めつけてしまっていたんですが、必ずしもそうではないんですもんね…。
そして、新しい転校先でやり直す、それもまたいいんだと思います。
まだ小さい子供なんですから、何回でもやり直せばいいですし、まだまだ更生は可能なはずです。
これが大人になっちゃうと…まぁ正直、更生できる見込みはかなり少なくなってしまうと思うんですけどね。
子供の性格は周りの環境に影響されてしまうことも多いでしょうし、自分で「変わりたい」と願えばその方向に変わっていけるでしょうし、新しくやり直してがんばってほしいなと思います。
リレーで鮮やかに棒抜きしたシーン。
多分、みんな唖然として見ていたんだろうなーと。
私的には快哉を叫びたくなるような感じではありますが、その後で難癖つけられて無効にされてしまうというのも悲しいですね。
ただまぁ、そういう経験もありなのかもしれないです。
転校生あるあるなんですけど、やっぱりメールなどがある時代ではないので、友人とは次第に疎遠になってしまいますね。
先生に写真を見せてもらえたのはすごく良かったですね。
さみしさみたいなのも、あるかもしれないですけど…。
「お金持ちがモテる」というのは、大人はみんな知っていますが(笑)、子供には伝えたくないことナンバーワンですかねー。
でも、そうやって大人の人から『本音』を教えてもらえた経験というのは、貴重な体験だったかもしれません。

3つ目は『非オプティマス』。
途中、かなりヒヤヒヤさせられる展開でした。
「まさか『先生』がそんなことするはずない」と思いたかったですけど、精神状態的にそうとも言い切れないし…。
まぁ、「袋の中には何が入っていたのか」ですよね…。
その家のお父さんが、そうやってずっと罪悪感に苛まれていたのと、たまたまとはいえ生徒2人がそこにいたというのが、この結果に寄与したのかな、と思いました。
ただ、生徒2人が抑止力にならずに『事件』が起きてしまっていたら、この2人は後々までずっとトラウマになってしまったでしょうね。
本当に、直前で思いとどまってくれてよかったなと思いました。
学校公開のときに、先生がクラスのみんなと保護者たちに行った『演説なか』、なか聞きごえがありました。
本音と建前もあるでしょうけど、先生の気持ちなんかがふんだんに出ていて、すごく良かったです。
「人間は群れの動物だから、『評判』がその人にとって救いにもなったり、致命傷にもなったりする」ということを教えてもらえたのは、すごくありがたいことのような気がします。
まぁ、この年代の子たちだと、今はピンとこないかも知れないですけどね。
にしても、『カンペンを落とす』というのは、私が小学校ぐらいのときから、もうすでに使い古されている手法ですが…。
今でも使われているんでしょうか?
うちの息子・娘の小学校はカンペン禁止ですね。
しかし、一番最後、またすごいところで終わるなーという感じです。
そういう構成も、本当にすごいなと思いますね…。
素人にはこういう決断はなかなかできないです。
…なんて言ったんでしょうかねー…。

4つ目は『アンスポーツマンライク』。
バスケットボールは全然詳しくないので、『アンスポーツマンライクファウル』というのも初めて聞きました。
名前的に「そのまんまの意味なんだろうな」とわかりやすいですけど…。
なんというか、なかなか字面で責められるような感じですね…。
まぁ、対戦競技で接触があるものですと、そういうこともあるんだろうなとは思います。
でも、サンデーの『みずぽろ』という漫画で、水球の競技中の水着引っ張り合いがありましたけど、それとかはいいんでしょうかね…。
私、陸上しかやったことないので…。
今回は、なんだか3段階という時制で書かれていて、それもまたおもしろかったです。
最後にすべてが1本につながる感じ。
なかなか執念深い男だな、とは思いましたけど。
そんなことしてしまうと、さらに孤立する結果になってしまうわけで…。
なんかそのあたりはつらいな、と思います。
以前読んだ『刑務所しか居場所がない人たち』のように、何か支援が必要な人なのかもしれないな、とは思いました。

というか、展開が『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 6 嘘の価値は真実』の体育館が襲撃される話のようで、ちょっとドキドキしながら読んでいました。

まーいろいろあったけど結果オーライかな、と思いました。
コーチの居丈高な態度も少し収まるような気がします。
子供たちにショックを与えてしまった点はかわいそうですが、肉体的な怪我はなかったみたいで本当に良かったです。
スポーツの指導法は、四半世紀以上経ってもほとんど変わらないのが現状なのかなと思っていました。
でも、2023年に甲子園で優勝した慶応高校の野球部の『意識』みたいなものは、全国的に拡散していてほしいなと思いましたね。
…元仙台市民なので、仙台育英が負けたのは悔しいですけど。
私自身も殴られて育ってきた世代ですし、最近の子は軟弱だなーと思うこともありますし、もう少し厳しく指導してくれてもいいのでは…? と思うこともありました。
ただ、だからといって今までと同じような指導法ではなく、ちゃんと科学的根拠に基づいた指導ができるのであれば、それにこしたことはないんだろうなと。
スポーツをやっている期間よりも、やらなくなってからの期間の方がずっと長いわけですし。
マイナスなイメージを固定させるのではなく、『生涯スポーツ』的な感じで末長く楽めるようなマインドが作れればいいですよね。
みんながみんな、一流選手になるわけじゃないですからね。

最後は『逆ワシントン』。
これもまたおもしろい話でした。
最初の『クレーンゲームの自由研究』、どこに繋がるのかなと思っていたら、「そこかー!」と唸りました。
状況的に虐待を疑っても仕方ないような感じではありました。
でも、実は全然そんなことなくて、いいお父さんだったのは本当良かったです。
そしてちゃんと「今回は一応違うけど、これからもそういうことがないとも限らないから」と言って、「引き続き息子をよろしくね」と頼める、その義理のお父さんがステキでした。
途中で出てきたいちゃもんつけられるシーンは、ちょっと『8番出口』の電車の中を彷彿とさせる感じでした。

でも、残念ながら『そういう人』ってどこにでもいますからね…。
エンカウントはランダムなので、気をつけるわけにもいかないですし、困ったもんです。
お母さんの機転を聞かせた逃亡もおもしろかったです。
こうやって自分たちの労力、身銭を切ってでも友達を助けたいという思いを抱ける子供たちですから、末永く仲良くしていってほしいなと思いますし、幸せに生きていてほしいなと思います。
一番最後の店員さん、多分『アンスポーツマンライク』の犯人だった人…ですよね…?
どれぐらいの刑になったのかわかりませんが(なってますよね…?)、ちゃんと真面目に働いてるのがわかって、本当に良かったと思いました。
多分、ここまでの道のりは大変だったでしょうし、本当にいろいろあったでしょうね。
でも、「なかなか戻ってこない」と思われるくらい、試合に見入ってたんでしょうね。
彼の人生がいい方向に変わって、本当に良かったです。

『磯憲』が何度か出てきていました。
あとがきによると、伊坂さんの恩師だとのこと。
こうやって、伊坂さんに何度も登場させられるぐらい、印象に残るいい先生だったんでしょうね。
本当に羨ましいし、こういうことがあるのが教師の仕事の醍醐味なんでしょうね。

この『逆ソクラテス』、本当に良かったので、Kindle でも買ってしまいました(笑)。
早速息子にも読ませたいです。
どうやら、クラスの学級文庫に置いてあるようですが。

Audible で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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