有栖川有栖さんの『菩提樹荘の殺人』を読みました。
有栖川さんの小説は『火村英生に捧げる犯罪』以来です。
今回は4つの短編が入っていました。どれも読み応えがありました。
1つ目は『アポロンのナイフ』。東京で通り魔殺人事件が発生し、その犯人である17歳の高校男子が逃亡しています。彼は美少年らしく、『アポロン』や『切り裂き王子』などと呼ばれてカルト的な人気を博しているようです。そのアポロンに似た少年を、地元で情報遮断しながら休養中だったアリスさんはたまたま見かけていました。そんな折、アリスさんの地元の大阪で女子高生が喉を切られて殺害されるという事件が起きました。アポロンの犯行かと騒がれる中、もう1人男子高校生が同様の手口で死亡しているのが発見されます。大阪での2件の殺人はアポロンの仕業なのか? 2人の被害者と面識のあるコンビニオーナーの男性が、その鍵を握っていました。
これは…すごく、すごく重い話でした。許されることではないかもしれませんが、このコンビニオーナーの男性・安納さんのやってしまったことに、私はすごく同情してしまいました。彼はどんな罪に問われるんでしょうか? 少年犯罪の報道とかを見て感じていたことだったので…。もちろん、自分で実行しようとは思いませんけど。
2つ目は『雛人形を笑え』。『雛人形』という男女のお笑いコンビで活動していた女性が殺害されました。お笑いコンビ『雛人形』は、男性の『帯名(おびな)』という名前から想起されたコンビ名で、相方の『メビナ』は2代目でした。相方が替わってからじわじわと売れはじめた、その矢先の事件でした。
ひとえに帯名くんの『考えなさ』が招いた事件だったように感じました。彼が、もうちょっと主体性を持って動ける人だったら…と。高校時代にお笑いコンビをくんだのも流された結果でしたが、せっかく売れ始めていたのにこのような事件になってしまったのも残念ですね。でもねー、こういう人いるよねー…。
3つ目は『探偵、青の時代』。アリスさんが偶然で再会した大学時代の同級生と、火村先生の話で盛り上がります。同級生の女性は火村先生と同じ学部で、他者と馴れ合うことの少ない火村先生と一度だけコンパに一緒に参加したとのこと。当時、少し遅れて到着した火村先生は、その場にある違和感から、先に到着していた学生たちの『犯罪』をあれよあれよと見抜いてしまいます。
火村先生は学生時代でも今と変わらずで、些細な違和感から次々と組み立ててしまう感じだったんですね。金田一少年の事件簿のスピンオフの『明智少年の華麗なる事件簿』のようです。
余談ですが、『青の時代』といえば、私にとっては KinKi Kids の歌及び堂本剛くんが出ていたドラマなんですが、もともとはピカソの若い頃の作風の通称で、それが転じて『孤独で不安な青春時代』を表す言葉になったそうです。三島由紀夫の著書に『青の時代』という小説があるみたいなんですが、『光クラブ事件』を題材にした小説なんですね! 『光クラブ事件』は『白昼の死角』を読んだことがあったので、『青の時代』もいつか読んでみたいです。
以上、Wikipedia の情報でした。いやー、Wikipedia めぐりって時間を忘れちゃいますよね(笑)。
最後は表題作『菩提樹荘の殺人』。『アンチエイジングのカリスマ』としてテレビなどにもよく出演していた男性が殺害されました。彼は家の庭にある池のほとりで、トランクス一丁の状態で発見されています。容疑者は、マネージャーをしている姉、付き人の男性、以前付き合っていた女性、現在付き合っている女性。なぜ、そんな変な状態で殺されていたのか? カリスマの裏の顔とともに殺人事件も解明されていきます。
かなり長めの話でした。少しだけ、先日読んだ『怪しい店』の話を思い出しました。
やっぱり『信頼関係』にかこつけて人の弱みを収集するようなこと、しちゃダメですね。まー、大抵の事件はそういうものなのかもしれませんが。そして、そんなことしてなくても、殺されるときには殺されちゃうんでしょうけどねー。
4つの話では『アポロンのナイフ』が好きです。…好き、というか、ずっしりきました。なるほど、こういう『犯罪』もあるのか…と。先日読んだ『火村英生に捧げる犯罪』の中の『雷雨の庭で』のように、動機が不明なまま解決とされる物語もあれば、これのように『なぜこんなことをしたのか』が重要な話もある。当たり前ですが、おもしろいですね。
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