中山七里さんの『総理にされた男』を読みました。
中山さんの小説は『帝都地下迷宮』以来です。
『総理にされた男』は2021年に一度読みました。…いやー、Kindle は調べればそんなこともわかるので便利ですね。
今回の再読は、先月読んだ『月光のスティグマ』を読んだあともう一度読みたくなったからです。
『月光のスティグマ』は、阪神大震災で親を失った男の子と、親と双子の片割れを失った女の子が、大人になって再会する話です。終盤で2人の男女はアルジェリアに行くんですが、そこでテロに巻き込まれ、日本大使館に保護を求めるもその大使館がテロリストに占拠されてしまいます。その話を読んで、この『総理にされた男』で同じエピソードがあったのを思い出し、もう一度読んでみようと思いました。
主人公の加納慎策は売れない俳優をしています。彼はたまたま、現在内閣総理大臣をしている真垣統一郎に姿かたち・声質が似ているので、それを活かして舞台の前説で真垣総理のモノマネをして、ちょっとした有名人になってきています。
慎策は珠緒という女性と同棲をしていますが、ある日彼女の家から外出した途端、筋骨隆々の2人の男に両脇を挟まれ、半ば拉致のような形で車に押し込まれてしまいました。
着いた場所は総理官邸。出迎えたのは内閣官房長官の樽見。樽見の口から「真垣総理が急病なので、替え玉をしてほしい」と頼まれてしまいました。依頼のような形を取っているものの、実際は断ることができるとは到底思えません。渋々引き受けることにしますが、条件として、慎策の学生時代の友人で准教授をしている風間を参謀として付けるよう要請しました。
慎策の天性の舞台度胸と抜群のセンス、それから真垣総理そっくりの外見や仕草で、樽見・風間と本物の真垣総理の主治医等数人以外の全国民は『替え玉』に気づきません。
一方で、同棲していた恋人が突然いなくなってしまった珠緒は、慎策の行方を案じ、警察に捜索願を出します。通常であれば事件性がない場合は何もしてもらえないのですが、一人の刑事・富樫が慎策の捜索を開始してくれました。ところが、とんでもない方向の妨害によって捜索も打ち切られることになってしまいます。珠緒はテレビで見る真垣総理が、慎策と同じ『癖』を持っていることに気づき、疑念を抱きます。
真垣総理となった慎策は、党内の閣僚、野党、官僚を相手に舌戦を繰り広げ、本物の真垣総理かそれ以上の活躍を見せます。
しかし、ついに本物の真垣総理が亡くなってしまい、慎策は『舞台』を降りることができなくなってしまいました…。
この本を読んだ人ならほぼ思い浮かべると思うんですが、『ザ・ニュースペーパー』というコントグループの方々がいらっしゃいますね。ちょうど安倍元総理や小泉元総理、菅元総理などもレパートリーにありますからね。…調べたら、岸田総理はいらっしゃらないようですね(笑)。ザ・ニュースペーパーの皆さんは、メイクとかが特徴を誇張する感じなので、見れば「コントだ」とすぐわかりますが、慎策のそれはものすごくリアルだったってことなんでしょうね。
にしても、風間曰くずっと『ノンポリ』だった慎策が、風間の教えも良かったのかもしれませんが、真垣総理の代役を期待以上にこなすのは本当にすごい。
正直、私も『ノンポリ』なんだと思います…。新卒で入った会社でちょっとだけ各新聞社の世論調査の業務に関わったことがあったので、少しは興味を持っているんですが、そこまで詳しくありません。
この小説を読んで、総理大臣の仕事ってこんなことまであるのか…と愕然としました。忙しいなんてもんじゃない。とんでもない仕事です。いやー、大金積まれてもやりたいと思えない…。どこを向いても敵・敵・敵、敵だらけ。伏魔殿とはよく言ったものです。
今回の(私的な)山場であったテロリストによるアルジェリア日本大使館占拠の事件、本書の4章で書かれています。風間が慎策から離されてしまい心細く思っているところに、この事件。そして、もう一人の味方であるはずの樽見も、これまでの疲労などが重なって倒れてしまいます。本当に本当に四面楚歌。この状況をウルトラ C とも言える手でなんとか切り抜けます。
『月光のスティグマ』では、アルジェリアの現場で人質が一人ひとり呼ばれて殺害される現場が描かれています。本当に緊迫した状況で、その恐怖が伝わってくるようでした。
一方でこっちの『総理にされた男』では、その映像がインターネットを通じて日本まで届き、それを総理官邸で見ている、という状況です。もちろん現場ではないので慎策の命は危険ではないんですが、招集されたメンバーが思い思いの言動をするし、憲法第9条の関係で自衛隊を送ることもできないし、もうぐちゃぐちゃです。そんな中で総理を訪ねてきた是枝幹事長から「人質の中に自分の秘書がいる」と告げられます。それが、『月光のスティグマ』の生き残った双子の片割れの女の子、優衣です。
いやー、『月光のスティグマ』を読んだときは震えましたね…。ここでこっちと繫がるかーって。こういうのって、どの段階でこの話を使おうって考えるんでしょうかね! 中山さんにお伺いしてみたいです。
『総理にされた男』では描かれていないんですが、『月光のスティグマ』では是枝幹事長のその後も描かれています。
ちなみに、『総理にされた男』は単行本発売が2015年、『月光のスティグマ』は2014年でした。『月光のスティグマ』の方が少し先だったんですね。
物語の一番最後に、慎策はようやく珠緒と再会することができます。そのシーンはとてもステキで、最後のセリフも涙目で笑ってしまったんですが…。その『腹案』で切り抜けられるのか…? もちろん、精神的な支柱としては申し分ないと思うんですが、実は珠緒は政治学部出身だった! とかあるんですかね? それに、『真垣総理』と珠緒の接点が見つけられないと思うのだけど…。
なんかどうやら今、『総理にされた男』の続編が連載されているらしいんですよ。X(旧 Twitter)の中山さんのアカウントで流れてくるんですが、本になるまで待っているところです。きっと、この珠緒の問題も何らかの方法で切り抜けられているんだろうな、と楽しみです。
中山さんの小説では、たまに『真垣総理』が出てきます。登場人物として、というよりは、現在の状況を説明するための用語的な感じでの出演なんですが、その時の『真垣総理』は本物なのか『替え玉』なのか…。それを考えるのもおもしろいです。
再読ではあったものの、改めて本当におもしろかったです。『総理大臣のお仕事』、もちろん全部ではないと思いますが、いくつか知ることができてよかったと思いました。
ほんと、改めて中山さんの引き出しの多さには驚かされっぱなしですねー。
Kindle Unlimited で読みました。
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