宮部みゆきさんの『理由』を読みました。
宮部さんの小説は『火車』以来です。

先日の『火車』同様、20年ぶりぐらいに読みました。
以前読んだ時は、登場人物が多すぎていろんな人の視点からの描写が複雑に絡み合っているのと、なんか文体が新聞読んでるみたいだなっていう感じがして、あんまり好きじゃなかったんですよね。
でも、改めて読んでみたらやっぱりすごくおもしろかったです。
『火車』を読んだ時も思ったんですが、情景や心理の描写がすごく丁寧だから、それに伴って文章量が増えてしまうのは、まぁ仕方ないですよね。
それでもやっぱり宮部さんの文章がすごく好きだなーって思いました。
それから、前は「新聞っぽい」って感じたんですが、むしろ新聞よりも『ドキュメンタリー』だなと改めて思いました。
速報性のあるニュースなどではなく、事件からある程度時間が経って落ち着いた後に、丁寧に作られたドキュメンタリーを見せられてる感じです。
だから、『そのドキュメンタリーが作られた世界の人』は、その事件のあらましとか、どういう結末になったかっていうのを知った上で見ているっていう体なんでしょうけど(多分)、リアルの『私達』は再読じゃない限り結末がどうなったかを知らない状態で読まなきゃいけないから、それでちょっと温度差が生まれちゃったのかなとも感じました。
まぁ、この物語の壮大さから言えば、本当に些細なことですけど。
私は、20年前とはいえ、一度読んでいて内容も知っているので、「なるほど、こういう感じだったのか」と改めて思いながら読むことができました。
物語を逆走していけば、『犯人』は意外とシンプルなんですよね。
本筋からは見えていない部分で別の思惑が進行していて、そちらで突っ走ったがための犯行だったわけです。
その『犯人』も別の人の手にかかってしまったんですが、ストーリー的にそれも不思議ではないな、と。
でも、こんなに話がややこしくなったのは、いろんな人がいろんなバックグラウンドを持っていて、それが複雑に絡み合っているからなんですよね…。
当たり前なんですが、人間は一人で生きているわけではなく、誰かにプログラミングされているわけでもないので、自分の好き勝手に動くんですよね。
普通に前から読んでいくと、話がどの方向に行くか見当がつかないです。
ただ、実際にのちのち Wikipedia などに載るような大きい事件っていうのは、きっとこんな感じで人が少しずつ関与して複雑になっているんだろうなって、そういうのがなんか伝わってくる感じでした。
そして未だにですが、不動産に関するトラブルとかってのはやっぱ怖いなと思ってしまいます。
不動産は大きな財産ですからね。
以前読んだ『境界殺人』にも書かれていましたが、財産で揉めるととっても大変です。

そういえば、『占有屋』という言葉を初めて知ったのもこの小説だったし、いろいろ思い出深いです。
宮部さんはこの小説で直木賞を受賞されていますが、以前読んだ時はやっぱり『火車』の方がおもしろくて、「『火車』で取れた方が良かったのに」て思っていました。
でも、やっぱり『理由』も十分おもしろい。
賞が取れても取れなくても、いつでも宮部さんの小説はおもしろいですが、『直木賞作家』という箔が付いた感はあります。
というか、まー逆に、「宮部みゆきにあげなかったら誰にあげるのさ」状態ですよ。
それにしても、『犯人の男性』は何であんなやっつけな感じの人生になっちゃったんでしょうか。
もうちょっと自分も周りも大事にして生きていけなかったのかな、と思います。
せっかく縁があって子供も生まれたのに。
今までの家庭環境などもあって、かわいそうだからと頑張って更生させようとしたけど、やっぱりダメなものはダメなんですかね…。
いろんな人のいろんな優しさがあって、事件はこういうところに落ち着きましたけど。
『彼』だけなんか、ポッカリ浮いてるような感じがして…かわいそうっていうか、残念だなって思いました。
残された『彼女』は、一体どれぐらいの罪に問われるんでしょうか。
やっぱり、環境的に『彼女』は『必要』だと思うんですよね…。
正直殺意があってやったわけではないような気もするし、むしろ『正当防衛』だったんじゃないかなと思うから、情状酌量で執行猶予とかになんないかなーって思ってしまいますが、甘いんでしょうか…? どうなんだろう?
学生時代の先生が嫌いで、「その先生の言う通りの『ろくでもない人間』になりたくない」っていう気持ちが、なんだかすごくわかるなあと思った。
昔ってそういう嫌な先生多かったですよね。
そういう先生をいっぱい見てきたので、今は逆に「腫れ物に触るみたいな扱いだな」と思ってしまいますが。
登場人物が多すぎて、ちょっと敬遠していた『理由』ですが、やっぱりおもしろいものはおもしろいと改めて感じました。
宮部さんはすごいなぁ。月並みな感想ですが。
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