米澤穂信さんの『満願』を読みました。
米澤さんの小説は『I の悲劇』以来です。

今回の作品は短編集、どれもなんというか物悲しい雰囲気の漂う話ばかりでした。
1つ目は『夜警』。
確かに、自分の過ちを隠すために新しく事件を作るような人は、警察官には向いてない、というか警察官であってほしくないですね…。
もちろん、そんなことをする人っていうのは、たくさんの真面目に働いている警察官の中で本当に一握りどころか一つまみぐらいだとは思いますが。
お医者さんは「医学部の6年間で医師に向いてない人は脱落していく」っていうのを聞いたことありますけど、それでもそうじゃない人もいるみたいですからね。
いくら警察学校が厳しくても、ヤバイ人材が残っちゃうことはあるんだろうなと。
警察官になってからちゃんと成長できて、警察官らしくなっていけるんだったらいいんでしょうけどね。
今回の川藤巡査の場合、完全に性格と職業のミスマッチだと思うんですが…。
結局、柳岡巡査部長も辞めちゃうんですかね。
前に『首吊りを発見した部下』みたいにならないで欲しいなと思いますが…。
警察官辞めた後って潰しが効かないって、よく聞きますしね…。
2つ目は『死人宿』。
1つ目の『夜警』が警察モノだったので、先日読んだ『可燃物』のような警察モノの短編集かと思ったんですが、今回は全然違う話がきました。

宿に落ちていた遺書は誰のものなのか、を考える話。
一応誰のものなのか分かったけど「まさか」という展開でした。
確かにまあ、こういう評判の宿であれば、『重なる』こともなくはないでしょうけど…。
でも、いくら人間関係に疲れて逃げた先の宿で働いているとはいえ、その宿の環境が『こんな』だったら精神の方がすり減っちゃうかなと思いますが…。
それでも勤め続けるんですかね…。
私だったら、ここからも逃げちゃうと思います…。
3つ目は『柘榴』。
いやー、これは気持ち悪かったです。
夕子もですけど、成海が本当に気持ちが悪い。
ダメでしょこれは。
しかも、ゆくゆくは妹までも…『社会的』になるのか『実質的』になるかは知りませんが、亡き者にしようとしていますよね。
やばい。
男の人で、どうしても『紐体質』っていう人はきっといるんだと思います。
そういうことを考えると、学生時代に結婚してしまうのはちょっと難しいなという気しますね…。
社会人になって働いている姿と見てからじゃないと、結婚は厳しいですね。
出産・育児で働けない期間があることを考えると、家族として信頼の置ける人物にはなり得ないです。
でも、その紐体質と別に…娘に手出すなよー。
本当に気持ちが悪い。
「私の考えすぎじゃないか」と思って違うパターンもいろいろ考えてみましたが、やっぱり『そういうこと』ですよね…。
私自身が女の子の母親になってからは、やっぱりこういう話は虫酸が走るようになりました。
母親を陥れてでも手に入れたかった父との生活かー。
さおりは気づいたみたいだけど、一体『どこ』まで気づいているのか…。
気づかないほうが幸せでしょうけど。
さおりのお父さんだけは成海の危うさに気づいてたみたいですが、やっぱり同性には嗅ぎつける事ができるなにかがあるんですかね。
4つ目は『万灯』。
天然ガスの産出国に行って現地の人と交渉をする総合商社の社員が、いかにして2人も殺害するに至ってしまったのか、という流れが描かれています。
うすら寒くなりましたねー。
元々そんな武闘派だったわけではなく、ただの普通のサラリーマンのはずなのに。
常に生死の境にいるような危険な職場だったし、言葉もろくに通じない現地の人との交渉で命の危険を感じることもしばしば。
そんな仕事あるんだなーと思いました。
自分はパソコン関係の学部だったから、そういうところに就職した友達もいないし、まったく違う世界ですね。
そういう方たちのおかげで、我々は夜でも明るい場所で安心して暮らせているんですね。
今回はバングラデシュの話でした。
現地の人とのコミュニケーションの取りづらさ、反感を覚えられてしまうとどうなってしまうか、なんかが書かれていて、とても怖かったです。
あとは、本当につい数時間前までは普通の人生だったのに、突然殺人者になってしまうようなそんな展開もとても怖かった。
それから、まぁ…病原菌…。
命に関わるような病気、怖いですね。
この話は冒頭「自分は裁かれている」というようなフレーズから始まりますが、話が進むまではそれがどんなシーンなのかわかりませんでした。
なるほどねー、そういう裁かれ方か、と。
もう、四面楚歌というか、どっちに行っても手詰まりな感じです。
これからどうしたらいいんでしょうね…。
諦めて自首するしかないのかな。
怖くて想像だにしたくないです。
5つ目は『関守』。
こういうのが『ミイラ取りがミイラになる』ということなんでしょうか?
にしても、都市伝説や怪談っていうのは、案外こういう感じなんだろうなって、ぼんやりと思いました。
なんというか、日常にパッと開いてしまったエアポケットにするっと入ってしまった感じ。
普段ならなんでもない人が、本当に限定された空間でのみ見せるやばい顔。
わざわざ取材になどこず、別の題材を見つけて適当にこたつ記事っぽいものを書いていれば、今でもちゃんと生きていられたかもしれないのに。
少しリアリティを持たせるために、いい感じで取材をして、それまでの話をつなげて構成を組み立てたりなんかしたから、こうやって消されるはめになってしまった。
本当に不幸です。
しかし、おばあさんもなかなかやりますね…。
ある意味首尾一貫としているから、まぁ普通に付き合っていく分にはいいおばあさんなのかもしれないですね。
おばあさんの娘さんは今どうしているんでしょうか?
まだちょっとだめな感じなんでしょうか?
お孫さんはちゃんと生活できているでしょうか?
怖いですね…。
6つ目は『満願』。
表題作です。
何が一番大切なのかは人それぞれ、ということですかね。
苦学生だった時にいろいろ助けてくれた大家の奥さんが、殺人で裁判を受けることになったので、弁護士として弁護を引き受けたという話。
奥さんは一審で8年でしたが、結局のところ控訴はせずそのまま服役しました。
で、今日出所したとのこと。
その連絡を受けてから、奥さんが会いに来るのを待っている間中、当時のことをいろいろ思い出していた、という話でした。
昭和55年とかそれぐらいの話みたいです。
私が生まれた年なんですが、今よりももっと女性は生きづらかった時代だったと思います。
そんな時に、自分の心の拠り所が、どんな形であったとしてもちゃんと自分の手元に残り続けるということが、彼女にとっては一番大事だったんですね、何よりも。
いろいろ考え直してみると符合する部分があって、なんだか薄ら寒くなってくる感じはありますけど、それが彼女にとっての『満願』だったということなんでしょうか。
まあ、弁護士は依頼人の利益を最大にすることが仕事だから、それでいくと理想的な弁護人だったということでいいんでしょうかねー。
複雑な思いはあるけど、出所した後、奥さんが幸せに生きられるといいなと思います。
どの話も物悲しく、薄ら寒く、不気味な感じがするのに、なぜか読むのをやめることができない。
ものすごく不思議な本でした。
米澤さんの本には、いつもこういう不思議な魅力がありますね。
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