三浦綾子さんの『氷点シリーズ 全4冊合本版』を読みました。
三浦さんの小説は初めてです。
本書は『氷点』上下巻と『続 氷点』上下巻の4冊が一緒になっています。1964年に朝日新聞で連載が開始された、と Wikipedia にありました。『氷点』は、タイトルは知っていたし、ドラマ化されたことがあるのも知っていたんですが、まさか60年前の作品だったとは…。すごい…。
しかも、デビュー作ではないものの、作家生活のかなり初期の頃の作品だったんですね…。
まず、『氷点』を読み終えて思ったことは、「陽子が幸せになってほしかった」でした。ただただ、ひたすらに陽子がかわいそうな話でした。現代ではそうそう見られないようないい子ですね。実際にいたら、いい子すぎてちょっとつまらないかもしれませんが。でも、彼女が背負わされた物の重さを考えると本当につらい。
そして、陽子の育ての母である夏枝。こいつはダメだろ。なんですかね、トロフィーワイフの成れの果て、って感じでしょうか。自己愛がありすぎて、母親になっちゃダメなヤツの典型って感じがしました。今から60年前の作品と考えれば、余計にそのダメっぷりが際立つと思います。いいか悪いかは別として、昔の方が今よりも遥かに母親に対して『母性』とか『自己犠牲』的なものが求められていた時代だったと思うので。ちやほやされすぎてそれだけがアイデンティティだというか。かわいそうな人かもしれませんが…ね。でもさ、息子の同級生に色目を使うのはダメだろ。きもいわ。
陽子の育ての父である啓造も大概ですね…。医者なんですよね? そんな身勝手で酷い理由で、一人の赤ん坊の運命を決めてしまってはダメでしょうよ…。しかも、途中までは罪の意識なのか嫌悪なのか、陽子のことをめちゃくちゃ避けてるし。まぁ、彼は、それ以外は誠実に生きていたし、途中で大変な事故にも遭ったし、奥さんが夏枝だし、同情する点もたくさんありますが。
兄の徹と、兄の友人の北原くんは、これまた真面目ないい子たちですね。昔はこんな子たちばっかりだったんでしょうか。天然記念物級ですねぇ。
ルリ子ちゃんが死んでしまったことは、本当に悲しい事故だったと思いますが、啓造がちゃんと夏枝に事情を聞いて、夏枝もそれに真摯に回答していれば、こんな長くつらい物語ができるようなことにはならなかったんですがね…。まぁ、それだと小説にならないんですが。「なんでちゃんと聞かないの」と何度思ったことか。
啓造が不貞不貞いうもんだから、妙齢の男女が同じ部屋に存在するだけで不貞だとする人なのかと思っていましたが、どうやらそうじゃなかったようです。それこそ夫婦でちゃんと会話をしていれば、ルリ子ちゃんのことは防げなかったとしても、陽子が不幸になることはなかっただろうになー、と感じました。ただまぁ、その次のキスマークはアウトですけどねー。
青春の真っ只中である陽子が、遺書を書いて自殺しなければいけないほど悩んでいて、それを周りがなんともできなかったが…ダメ大人ばっかりですね…。
まぁ、『続 氷点』があるから、なんとか陽子は死なないのかなとは思いましたが、本当にそうだったのでよかったですよ。
でも、死なずにすんで、自分の身の上がはっきりしても、まーたつらいことばっかり。
新キャラ(?)として三井母子が登場、これまたいろいろ引っ掻き回すんだな…。相沢順子ちゃんとお友達になって、彼女の生い立ちを知ってそれでも友情を感じているところは心温まったんですが、とにかく三井母子に振り回される。徹兄が特に振り回されていましたね…。まぁ、それは自業自得っぽい感じもありますが。
前作で行方不明になっていて、死亡疑惑もあり墓まで建てられていた松崎さんが、まさかの復活。まぁ、勝手に墓を建てるのもどうかと思いますけど。全然償いになっていないし。たまたま立ち寄った旅館での奇跡の再開だったわけですが、『小説っぽい』と言えばそれまでですけどこういうこともあるような気がします。失うものも多かったみたいですが、生きていてよかったですよ、本当に。
陽子ちゃんを巡って兄とバチバチ火花をちらしていた…訳ではなかった北原くんですが、彼もまた三井家のものに運命を狂わされた一人になってしまいました。陽子がようやく自分の気持ちに素直になろうとしていたというのに、本当に揺さぶってくるなー…。
『結末』が確定していないところで終わってしまいました。これは…いわゆる「読者に委ねる」という感じなんでしょうか…? 委ねられてもどうしたらいいんだ! 好き勝手に妄想しちゃうぞ! もう、3人で暮らせばいいんじゃないかな!? 鬼滅の宇髄さんのところみたいな感じで。ひとり足りないし、男女逆だけど…。
いろいろ好き勝手書いてしまいました。
Wikipedia を見ると、『氷点』はキリスト教の概念である『原罪』が重要なテーマで、『続 氷点』でのテーマは罪に対する『ゆるし』なんだそうです。にも関わらず、私は一人でカッカカッカ怒ってましたけどね! 身勝手でひどい人たちばっかりだよ!
一番新しいドラマだと、2006年の石原さとみちゃんが陽子をやったものですね。見ていなかったんですが、夏枝が飯島直子さん、啓造が仲村トオルさん。素敵な夫婦だ…。徹が手越くんていうのがおもしろいですね。金髪だったのかな、違うか。
北原くんが窪塚俊介さん。三井母が賀来千香子さん。達哉が中尾明慶くん。なるほどなるほど。
おもしろいとおもったのが、村井の北村一輝さん。なるほどなー、なんだか危険な色気がありますもんね。
しかし、本当に何回もドラマ化されているし、海外でも展開されているんですね。すごい作品ですね。
計4冊で長い話だったけど、おもしろくてあっという間に読んでしまいました。キリスト教的な視点がないためよくわからなかったところもありましたが、船の事故の宣教師のところとかは泣いてしまいました…。宗教的な背景とかがわかればもっと深く読めたのかもしれませんね。
三浦さんの作品は本当にたくさんあるようで、私でも名前を知っているものがいくつもありました。機会があればそれらも読んでみたいです。
[AD]氷点シリーズ 全4冊合本版
コメント