残照の頂 続・山女日記

読んだ本

湊かなえさんの『残照の頂 続・山女日記』を読みました。
先日の『山女日記』の続刊です。

今回も、前回同様、山にまつわる話が集まっていました。
Audible だと区切りがよくわからないんですが、多分6個くらいの話です(笑)。

はじめは『後立山連峰 五竜岳』。
この女性は、何かに対してずっと罪悪感を抱きながら生きているなと思ってはいましたけど、なるほどそういうことだったのか、と。
まぁ、これは難しいですね。
私だって、今、夫が「会社辞めて喫茶店開きたい」と言ったら、申し訳ないけど反対してしまいますもん。
「定年退職後の楽しみでいいでしょう?」と、確かに言ってしまうかもしれないです。
今もらってきてくれているお給料と、これから得ることになるであろう喫茶店の売り上げを天秤にかけたら、そんなことを言ってしまうと思います。
しかも、大学生だとお金が一番かかりそうな時期ですしね…。
でも、そうやって先延ばしをしてしまったせいで、旦那さんが喫茶店を何もやることなく亡くなってしまった、と。
本当に悲しいことですし、取り返しがつかないことではあるかもしれません。
今回写真の景色を実際に見ることで、自分の中で何か浄化されたというか、消化されたというか、そういう気持ちになったんだと思います。
また明日からがんばって生きていってほしいなと思います。
何か悪意とか悪気があってそういうことをしたんじゃないですし、きっと旦那さんも分かってくれるんじゃないでしょうか。
…一緒に来た女性と山岳ガイドさんとの関係、気になるわー。
トゲトゲしいというかよそよそしいというか。
昔恋人だったとか、そういうパターンでしょうか?

『鹿島槍ヶ岳』。
前回の『後立山連峰 五竜岳』からの続編でした。
やっぱり2人は知り合いだったかー。
というか、恋人というか?
よくわからないですけど、多分友人以上の関係ではあるような気がします。
前回の『山女日記』に出てきた吉田くんの話にちょっと近い感じもしますが、こちらはその後も何かしらで繋がっていきそうな、優しい感じの終わり方で良かったです。
出発前の運動で『船を漕ぐ』とあって、最初は意味がまったくわからなくて「眠いの?」と思ったんですけど、なるほどそういう運動だったということですね。
彼女よりもよっぽどインターネットを使いこなしているおばさんの方がいろいろわかっていて、密かにキューピット役的なものを引き受けようとしていたところが、かわいらしくおもしろかったです。
うまく行かなかったらうざいだけだったかもしれませんが(笑)。
次の喫茶店へは2人で行くのか、そこで待ち合わせをするのか、はたまた別々で行くのかわからないですけど、何かいい報告がもらえるといいなと思ってしまいます。
しかし、彼女、喫茶店でその写真を最初に見たとき、本当にびっくりしただろうな、と。
もちろん小説はというのは分かっているんですが、何と言うか、実際に彼が撮った写真だということが分かって、本当に運命的なものを感じただろうなと思いました。
まぁ、そういう素敵なご縁ってありますよね。

『北アルプス表銀座』。
この章のタイトルはこうなっていますが、この中の曲が『残照の頂』だったということは、この話が表題作ということなんだろうと思いました。
不倫の恋を思わせるような始まり方だったので、同行者が女性だというのにちょっと驚きました。
「まぁ、今どきはそういうこともあるのかな」と思いきや、そうではなかったっぽいです。
いや、そうなのか…?
まぁ、人間誰しもそうだとは思うんですが、3人が3人とも心に傷を負っている感じがあって、3人でいることでそれが慰められて癒されることもあり、さらにえぐられることもあり、なんだか複雑でしたね。
私は観光地化されたような富士山にしか登ったことがないので、そんな『命を預ける・預けられる』みたいな関係とか、そういうシチュエーションがあまり想像できないです。
でも、やっぱり山ではそんな風に『バディ』っぽくなると言うことなんでしょうか?
やっぱりすごい世界ですね。
この3人は、巡り合わせが良かったというか悪かったと言うか、なんか悲しいなと思ってしまいました。
最後、山頂でようかんを食べながら微笑んでいたとて聞いて、「え、やっぱりダメだった?」となりましたよね。
でも「霊じゃない」って言っていて、じゃあ何なんだ? って。
幽体離脱的なものでしょうか?
海外の山かなにかに登っていて、一瞬だけこっち見に来た、みたいなシチュエーションだといいのにな、と思いました。
勝手なイメージなんですが、そういう芸術系のことを生業としている人って、すごく繊細なんだろうなと。
彼には生きてて欲しいなと思います。
みんなそう思ってるんだし、生きていてほしい。
なんとなく「失恋しちゃったから、ちょっと海外に気分転換しに行ってきたんだ」ってケロッとした顔で帰ってくると信じたいです。
恋人同士だったり、結婚することばっかりがゴールじゃないんですよね。
どうか生きていてほしいです。

『立山・剱岳』
お母さんと娘さんが、順番にお互いの気持ちを章ごとに吐露していく形式でした。
最初の一往復目は、お互いなんか牽制し合っている感じです。
娘は、今までの夢だった新聞記者ではなく、登山ガイドになりたいと言い出していました。
娘には言っていなかったものの、父親を登山で亡くしているお母さんにしてみれば、反対にしたい気持ちもあるけれど、娘の気持ちを尊重したいという思いも強いようで。
そして、自分も亡くなった旦那さんと一緒に山を登っているので、血は争えないなと思う気持ちも強い、と。
ただ、待っているとどうしても心配しちゃうから、だったらいっそのこと自分も登山を趣味にしようとするところが、なかなかアクティブなお母さんで素晴らしいですね。
お互いの思いを、山を雰囲気に乗せて吐き出し合うことで、より2人の絆が強まっていく感じがしました。
私としては、出産したことで、娘・母の両方の立場を経験したことによって、どっちの気持ちもすごくよくわかるなと思ってしまいます。
自分の娘が登山ガイドなんて危険な仕事に就くのは反対したいですけど、でもそれが本当にやりたいことなんだったらやらせてあげたいという気持ちもあるかもしれないですね。
「自分は看護師だから、待っていて怪我の手当をしてあげることしかできない」というもどかしさ、なんかいろんな思いが伝わってきました。
しかし、登山ガイドというのは、「なりたい」と言ったらなれるようなものなんでしょうか?
いや、もちろん技術的なものとか体力的なものっていうのは置いておいて、『○○山登山ガイド協会』みたいな団体が存在するんでしょうか?
自分は登山ガイドになりたいと思ったことが1回もないので、なんか想像がつかないです。
最後の『ヒルトン』のくだり、なんだかオチみたいな感じで使われていましたけど、でもすごく素敵だなと思いました。
娘はそれを見て、何と思ったでしょうね。

『武奈ヶ岳』。
Audible でのタイトルは『安達太良山』とのセットでしたが、とりあえずこちらだけで。
大学卒業後30年近く連絡を取っていなかった友人に書いた手紙の話です。
武奈ヶ岳の起伏にぴったりと合っているかのような半生が書かれていました。
すべてが思い通りに進んでいる友人と自分を比較して、顔を背けてしまったかのように別れてしまったことを、ずっと後悔していたようです。
こうやって30年近くぶりに、手紙とはいえ相手に連絡を取ることができたんだから、彼女は本当に勇気がある人だなと尊敬します。
大学卒業直前に、家の跡継ぎだったお兄さんが急に亡くなって、急遽自分が後釜に座ったんですが、大変なことの連続だったようで。
職人の世界というのは、完全に男社会というイメージがあります。
昔読んだ『美味しんぼ』かなにかに「寿司職人は、女性だと手の温度が熱いから、うまい寿司を握れない」みたいなことが書いてあったような気がします。
そういうのもあって、「男女差みたいな感じで受け入れられないのかな」と私も思っていたんですけど。
でもそうじゃなくて、結局はホモソーシャル的な感じで女性を拒絶していただけだったみたいです。
だから、彼女は自分自身できちんと力をつけて、『味』という事実で周りを納得させたのはすごいですね。
途中で起きた様々な出来事にも、いろんな人の力や助言を借りて対処してきました。
そして、今回のコロナで本当にもうダメかもしれないと思ったときに写真を思い出し、自分のお客様に励ましてもらえたというのは、本当に天からの声のようだっただろうな、と。
いくら素晴らしいもの、美味しいものでも、そのときの時流なんかでうまくいかないこともあるかもしれないいですが、こうやって正しく評価されて広まっていってほしいなと思います。
正しく努力している人たちがバカを見るような世の中にはなってほしくないです。
そして、やっぱり飲食業やそういう業界は本当に本当に大変だったんだな、と改めて思いました。

『安達太良山』。
さてどんなアンサーになるのか、と楽しみにしながら読みました。
何というか、結構重めの内容でした。
同じように比較的近所にある山に登り、起伏ではなく色とりどりの風景に自分の今までの人生を重ね合わせて返事を書いたという体裁です。
湊さんが書いてるから当たり前なんですが、めちゃくちゃ引きつける文章で、素人の文通の内容とは思えないですね(笑)。
人間誰しもそうだとは思うんですが、彼女もまた平坦な道を歩いてきたわけではまったくなく、自分が全然想定していなかった様々な出来事でいっぱいいっぱいになってしまっていて、山から遠ざかっていたとのこと。
中でも、やっぱり福島といえば東日本大震災となってしまうわけですけどね…。
そのせいで、せっかくオープンさせたペンションもうまくいかなくなってしまい、夫の両親との同居になってしまっていました。
そんな中で、「介護を休めるんだったら、登山なんかじゃなく休ませてほしい」という言葉。
もちろん売り言葉に買い言葉だったでしょうし、心からの本音というわけではないと思うんですが、やっぱり余裕がなくなるとそうなってしまうよなーと。
幸い、私はまだ介護を経験したことがないわけなんですが、私の母は私の歳にはもう祖父の介護をしていたな…と思い出しました。
それがやっぱりいろいろとしんどくて、結局精神的にちょっと壊れてしまったんだろうなと思っています。
でも、今回手紙をもらったというきっかけから、また新しく始めることができる予感となったようです。
なんか、自分のことのように嬉しいです。
昔の趣味を再び始めるっていうのは、自分の衰えなどを感じることにもなっちゃうでしょうし、いろいろ臆病にもなりそうですが、是非ともがんばって続けて欲しいなと思います。
そして、また一緒に登山に行ける日が来ることを願っています。

2作通じて、湊かなえさんが本当に登山を愛しているんだなというのが伝わってきました。
彼女にどれぐらいの登山暦があるのか知らないですし、ここに出てきた山すべてを踏破したことがあるのかどうかもわからないんですが、それでも伝わってくる風景とか、本当に目前に山並みが広がるような感じがしました。
今回、辛く悲しい話っていうのがあんまりなくて、確かに「私もちょっと登ってみたいな」なんて、そんな気持ちにさせてくれるような話ばかりでした。
多分しないでしょうけど…、超絶インドア派なので…。
でも、なんかいい趣味だろうなって、ちょっと羨ましいです。

Audible で読みました。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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