死神の精度

読んだ本

伊坂幸太郎さんの『死神の精度』を読みました。

伊坂幸太郎さんは東北大学出身の作家さんで、馴染み深い…はずなんですが、実は今まであまり読んだことがありませんでした。
『グラスホッパー』の映画は見に行ったんですが、「正直よくわからなかったな…」というのが感想だったんですよね。
菜々緒さんがきれいだったな、という感想も持ちましたけど。
あとは、『魔王』を読んだのは覚えています。その中にある『呼吸』という中編の、競馬場の場面をなぜかよく覚えています。
倍率が10倍? を超える? と急に当たらなくなる? …みたいな話だったような…。
「妙にこぢんまりした能力だな」と思ったものです。
…肝心の内容はほとんど覚えておらず…いつか再読したいです。

今回の小説は、たまたま Twitter(現・X)でおすすめされているのを見て買ってみました。
結果としてとてもおもしろかったので、紹介してくださった方には感謝の気持ちでいっぱいです。

6つの短編が入っていました。
死神の千葉さんが主人公のお話です。

最初は表題作『死神の精度』。
なんて適当な仕事っぷり!
こんなんで決められてたら、命がいくつあっても足りないよ! と思ってしまいました。
でもまぁ物語の世界ですから、なんかそういう適当さも楽しめる感じではありますけど。
それにしても、死神に調査される人間はランダムで決まるのかな?
それがどれぐらいの確率なのか非常に気になるところです。
例えば、何か悪いことをしたから監査にかけられる、みたいな感じなんだったらまだ納得がいくんですけどね。
そうでもなくて本当に本当にランダムなんだとしたら、ちょっとやりきれないと思ってしまいますが…。
せいぜい「死ぬときはあまり痛くない方法だったらいいな」って思うのが関の山でしょうか…。
この先、彼女がどんな人生を歩むのかは分からないですし、きっと描かれることはないんでしょうけど、確かに CD ショップでの試聴で彼女の歌声を聞けるっていうのは魅力的ですよね。
実に小説っぽいというか、ドラマチック展開だな、と思いました。
(というのは、この短編を読んだ直後の感想です)

2つ目は『死神と藤田』。
いやー、すごいところで終わるわー。
この先が一番のピークでしょうから、もうちょっと過ぎたあたり、この戦闘が終了したあとで終わるのかなと思いきや、戦闘が始まる直前で終わるとは…。
やっぱりプロはすごい仕事をするなと思いました。
『今日死なないのは確定』っていうのもなかなかおもしろいです。
相手は必ず今日死ぬ、でも自分のターゲットは今日は死なない。
ただし、明日死ぬ。
まぁ、明日、相手から仕向けられた刺客によって殺される的な感じなのかな、なんて想像しちゃいますね…。
でも、今日は死なない。
すごいなと思いました。
ヤクザの話とか正直好きじゃないですし、やくざものの映画とかもほぼ見ないんですが、そういう『昔気質』のヤクザはそこまで嫌いじゃないです。
例えば、『みなとみらい署暴対係』に出てくる神風会の神野さんとか。

トランパー 横浜みなとみらい署暴対係
今野敏さんの『トランパー 横浜みなとみらい署暴対係』を読みました。今野さんの小説は『渋谷署強行犯係 虎の尾』以来です。 今回のは『横浜みなとみらい署暴対係』シリーズなので、『スクエア 横浜みなとみらい署暴対係』の続刊です。 前回の『スクエア

一般人に迷惑かけない形で、そちらの世界の方々だけでやっててくれる分には構わないんですけどね…。
でも、そんなわけないですしね。

3つ目は『吹雪の死神』。
急なミステリー展開で「おっ」と思いました。
しかも、1人殺された後に、ワープロに謎のメッセージが書かれるなんてこともあったりして、急な展開にちょっとドキドキしました。
でもまぁ、そこはやっぱり『ミステリーではない』というか、死神という人外の存在がいますからね…。
確かに常々思っていましたが、殺したい相手を一箇所に集めてドカンとやるのが一番安全・確実なわけですから、今回のような趣向も理解できると言えばできますね。
でも、こんなにたくさん死神が出てくるのは、なかなかおもしろいというかなんというか。
せめて、えんどコイチ先生の『死神くん』のように、姿を消せるとかそういうオプションがあればいいんですけどねー。
近くに行ったら存在が見えてしまうのは、なんだか仕事がやりづらそうです。
しかし、こんなにたくさんの人から恨みを買って、みんなから「殺したい」と思われるような人生、送らないように気をつけようと思いました。

4つ目は『恋愛で死神』
これは、千葉さん、ちょっと意地悪だなと思いました。
病気のことを知らなかったとはいえ、『可』にしたのはなんでなんでしょう?
これから楽しそうだったのに。
なんで『見送り』にしてくれなかったのかなって。
悲しかったです。
これからきっと2人は仲良くなれただろうにな…。
家に帰って遺体を見つけたら、すごくびっくりするでしょうね。
直前に千葉さんがしゃべったバーゲンの話で思い出して、メガネ取った彼の姿を見て何を思うんでしょうか。
なんでこうなっちゃうんでしょうね。
彼のおかげでストーカーの犯人は捕まったので、その点では良かったんですけど…。
きっと、彼女もすごく大きな心の傷を負っただろうなと。
なんか、みんながみんな不幸になってしまいました。
すごくいい話だったんですけどね。

5個目は『旅路を死神』。
あー、これはなんかすごい話だなと。
別になんてことはない、『もうすぐ死ぬ人間』と『死神』が車で北に向かって走っていく話なんですけど。
人間の過去が少しずつ明らかになっていって…。
やっぱり伊坂さんっていうのはすごい小説家なんだなとしみじみ思いました。
結局、この男性は5日後に死んでしまうんでしょうね。
千葉さんは『見送り』ではなく『可』にする思うんですけど、まぁそれもそういう運命なんでしょうね。
男性は人を殺しているわけですし。
なんというか、特に何かをしたという話ではないんですけど、なんだか妙に心に残る不思議な感覚がする話でした。

最後は『死神対老女』。
これは不意打ちでしたねー!
最後の数行で声をあげてしまいました。
そして、その後は号泣です。
なるほど、ここで繋がってくるのか、と。
見事にやられました。
その前にもサプライズはあって、千葉さんが見送った女性がちゃんと大成できたということがわかりました。
あれから何年経つんでしょうかね。
「CD ショップはあまり見なくなってきた」的な記述があったので、ひょっとしたら40~50年経っているのかもしれないですえ。
10時間の待ちを「大したことない」と感じる千葉さんなので、ちょっと時間感覚がバグってるんだろうなとは思うんですけど。
あとがきにもありましたけど、最初の話でいきなり『見送り』をだったので、「結構そういうこともあるのかな?」なんて思っていたんですが、その後は全部『可』でした。
最初に見せられたのだけが例外だったのかな、と今は思います。
彼女はずっとあのジャケットを大事に取っていたんだな、って。
その後結婚して、子供も生まれて、孫までいて。
今回訪ねて、なかなか良い人生だったようで、なんか安心しました。
でも、「たびたび(死神に)会ってきた」というのは、不思議な縁なのか何なのか…。
そして今回は、ついにその彼女がターゲットになってしまいましたね。
と言っても、彼女自身はそんなに悲壮感があるわけでもなく、淡々と受け入れているようでした。
「ようやく来たか」という感じなんでしょうね。

やっぱり、なんというか、不思議な話だなと思いました。
1つ目以外は全部『可』になっているのも、あとがきを読んでまぁ納得した、かな…。
なるほど、だったら仕方ないかな、という感じです。
話の流れとかの組み立て方についてもちょっと語られていたのでおもしろかったです。
…この小説は『推理小説』なんですか…?
まったくそう思わなかったんですが、『第57回 日本推理作家協会賞短編部門受賞』とのことです。
へー…。
いや、とってもおもしろかったんですが、ジャンルについてはちょっとわからない、というか…。

千葉さんのなんだか『微妙』なキャラクターも、とても魅力的でした。
日本語を流暢に話すことができるにも関わらず、微妙なニュアンスや単語の詳しい意味なんかを知らないので、そのせいでちょっと会話が食い違う、というお決まりな展開もとてもおもしろかったです。
「あなたなかなかおもしろいね」っていうのが、千葉さんにとっては嫌な言葉みたいなんですが、まぁそう言うしかないよね…っていうね。

続編もあるんですねー、すでに買ってしまっていますけどねー。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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