正体

読んだ本

染井為人さんの『正体』を読みました。
染井さんの小説は『震える天秤』以来です。

震える天秤
染井為人さんの『震える天秤』を読みました。染井さんの小説は『正義の申し子』以来です。前回読んだ『正義の申し子』は、ちょっとコメディーな要素があったように思いますが、今回読んだ『震える天秤』はかなり渋い内容でした。序盤の状況説明だけ聞いていて...

ここ最近はずっと染井さんの小説を読んでいましたが、ついにこの『正体』を再読しました。
『正体』は、以前 WOWOW で亀梨和也さん主演でドラマ化されていて、そのニュースを知ったときに購入したんです。
3年くらい前かな。
なので、写真の表紙は今売っているものとは違うと思います。
その時1回読んでいたので、今回は2回目でした。
やっぱり1回読み終えているので、ラストがどうなるか知っていると少し冷静に読めますね。
なので、もちろん衝撃は初回に比べると薄かったですが、より詳細までちゃんと読めたような気がします。
…でも結局、めっちゃ泣いたけどね…。

やっぱり自分自身も一応女性なので、やっぱり印象に残ったのは三章の Web ライターと五章新興宗教の章でした。
Web ライターの章は、この章の主人公であるさーやがどんどん隆士くん(慶一くん)に惹かれていって、彼が鏑木慶一だと分かった後でも「それでも一緒にいたい」という気持ちに変わっていく過程がすごくうまく描かれているなと思いました。
そして、「彼の無実を信じてあげられなかった」ということを、後々ずっと後悔し続けているというのが、やっぱりかわいそうでした。
章の後半の彼女の「だってこの人、捕まったら殺されちゃうんだもの」というモノローグが、なんだかすごくゾクッとしました。
すごくさりげない感じでつぶやいているのに、内容が彼女のメンタルの不安定さをすごくよく反映していて。
だってこんなセリフ、日常で使う場面ないですもんね…。
特に、対象が人間の場合。
いかに彼女のメンタルがとんでもない状態だったかというのが、よくわかるなと思いました。
そして、この章のラスト。
身を挺してでも彼を逃そうというその気持ち。
「あなたは那須隆士。わたしにとってはそう。過去なんて関係ない」と告げて抱きしめ抱きしめられた時、どんなことを思ったんだろうなって。
まさか、それが今生の別れになるとは…いや、思っていたかもしれないですね…。
特に、彼女はその前がダメな恋だったから、慶一くんの存在にすごく救われていたと思うし、自分に何があったとしても彼を守ってあげたいと思っていたでしょうね。
そのあと、最後に関係者一同が集合するまでの間については描かれていないんですが、警察からは激しい追及にあっただろうし、会社の人や家族やいろんな人から責められたり怒られたりしたんだろうなと思います。
それでもその集まりに顔出して行動をしていたというのは、やっぱり本当に彼を大切に思っているからですよね…。

新興宗教の章は、反吐が出るほど卑怯ですね。
でも、こういうことをやっている集団って、すごくたくさんあるんだろうなって思ってしまいます。
もちろん、純粋に本当に『人々の救済』を目的としているところもあるんでしょうけど、大体小説で題材になったり、ニュースで報じられるのは悪徳なものばかりなので、ついついそう思ってしまいますね。
にしても、自分ではまったく動きも手伝いもしない夫が、自分の父親を老人ホームに入れたくないと言うシーン。
本当に胸ぐら掴んで揺さぶってやりたいぐらいの怒りが湧き上がりますね。
だったら自分でやれよ、と。
私だったら完全に『離婚』の2文字がよぎりまくると思うんですけど、やっぱりこれからの生活のことを考えたりすると、簡単には離婚できないだろうな、という気持ちもわかります。
私がまだ未成年で実家にいた時に、母がよく「絶対に自分が稼ぐ術を手放してはいけない」と言っていたんですけど、改めてそうだなと思います。
もちろん、今現在夫には不満は特にないですし、このままずっと一緒に家族で暮らしていきたいと思っていますけど、やっぱり自分自身で稼げる力があるというのは精神的に大きな支柱にになるなと思いました。
あとは、詐欺被害。
これは…悔しいです。
確かに泣いている声って誰のものなのか判別しにくいかもしれません。
その盲点を突いてくるのはすごくうまい方法ですね…メジャーな方法なんでしょうか?
確かにそんなこと言われてしまったら、「自分の子供が迷惑かけている」というので、一刻も早く解決しなきゃと思ってしまいますね。
そして、きっとこの子は学生時代から母親にいっぱい迷惑をかけていたんだろうなぁと、こうやっていっぱい母親に尻拭いさせてきたんだろうなぁと。
私も改めて気をつけなければいけないな、と本当に思いました。
まぁ、唯一非があるとすれば、振り込む前に息子にちゃんと電話をかけなかったことでしょうか。
いくら「携帯無くした」って言われていたとしても、一回ぐらいは電話してみるのが良かったんじゃないかなとは思うんですけどね。
もしくは「息子に全部払わせてください」と言って切ってしまうのもアリだと思いますけどね。
仮に使い込みが本当だったんだとしても、それぐらい痛い目を見なければいけないんじゃないかなと思いました。

今回、3年ぶりに再読して、「ひょっとしてラスト変わってたりしないかな」なんて思ったりしたんですけど…、やっぱり私が知ってるラストそのままでした。
当たり前ですけどね。
鏑木慶一くんが死んでいなかったら、彼はすごく優秀な子だったので、ひょっとしたら法曹界にとってすごく有益な人物になり得たかもしれないし、他の分野でも彼の才能を発揮して、いつかはすごいことを成し遂げるような人になったかもしれないですよね…。
別にそうじゃなくてもいいんです、生きていてくれれば。
やっぱり、救われないラストだなと思ってしまいました…。
私が持っている小説は、前述の通り亀梨くんが主演の WOWOW のドラマが放送される直前に買ったものです。
今書店に並んでいるものは横浜流星くんが表紙になっているものですよね?
そっち買ったらラスト変わってるとか…ないですよね?
一番最後、みんなが一堂に会して慶一くんを助けようと力を出し合うっていうところ、すごく感動的です。
でも、やっぱり本人がいないっていうのが、すごく辛くてしんどかったです。

今回読み終えた後、Amazon プライムビデオで WOWOW のドラマを一気に全部見ました。
ドラマは今まで見たことなくて、ずっと見たいなと思っていました。
プライムビデオに追加されていることにまったく気づいていなかったです。
いやー、嬉しかったです。
内容としては、まず、鏑木慶一くんは高校生ではなく32歳でした。
正直そこは違和感がありましたけど。
「当時高校生で、まだ社会に対する知識があまりない」ということで浮かび上がってくる彼の純朴さみたいなのが、ドラマではちょっと抑えられてしまったかなという感じはあります。
でも、主演の亀梨くんはとっても上手だなと思いました。
スキー場の章は全カット。
ただし弁護士の渡辺さんは、Web ライターの章で慶一くんの目の前で自殺未遂をしようとして彼に止められるという形で話の中に入ってきました。
渡辺さんの痴漢の容疑のくだりはそのまま採用されていました。
新興宗教の時、慶一くんが最後に資料を渡して立ち去るときに渡辺さんの名前を出して、「きっと協力してくれます」と伝えているところがオリジナルでした。
でも、小説でも、もしそう言っていたらきっと渡辺さんは協力してくれたんだろうなと思えたので、いいオリジナルだなと思いました。
そして、介護施設に警察が突入してきて揉み合いになったとき、窓から逃げようとして足を打たれて倒れるように変更されていました。
そこで慶一くんは死なずに病院で手当をしてもらい、そのまま収監されるという流れです。
その間にみんなが集まって、それぞれ自分の役割をして彼の裁判をアシストし、最後は無実を勝ち取って終わっていました。
亀梨くんが傍聴席の方を振り向いて深々と頭を下げ、そのまま泣き崩れるシーンがとても印象的でした。

小説派の人からはひょっとしたら不評だったのかもしれないですけど、でも私はやっぱりこっちの方がいいです。
慶一くんは本当に心がきれいで優しく強い人なので、警察の横暴なんかで殺害されてはいけないと思います。
WOWOW 版では、慶一くんと刑事の又貫の因縁みたいなものは、あまり強く描かれていなかったのが印象的でした。

精神科医の樺沢先生がご自身の YouTube で「映画『正体』、ラストが良かった。救われてよかった」とおっしゃっていて、最初はピンとこなかったんですが、「ラスト、変わってるってことか!」とようやく気付きました。
それから WOWOW 版を見て、「このラストだったら映画で見たいかも」と思ったんですよね。
小説版のラストだったら、ぐったりして帰路につけない(笑)。
なので、映画版を見に行こうと思ったんですけど、それを思い立ったときには家の近くでの上映が終わってしまっていました…。
ざ、残念すぎる…。
まぁ、配信が始まったら見ようと思います。

この小説を読んでいていつも思い出すのが、やっぱり東野圭吾さんの『白夜行』です。
私は『白夜行』、小説も大好きなんですけど、ドラマ版も大好きなんですよね。
そのドラマで、主人公の一人である亮の役をやっていた山田孝之さんが、映画『正体』では又貫の役をやっているというのが、なんだか奇妙な感じがしておもしろいなと思いました。
『白夜行』では、刑事からずっとずっと逃げ続ける役、今回の『正体』では逃げている犯人をずっとずっと追う役、かー。
不思議な共通点ですかね。
そして、イオンカードの CM に横浜流星くんと一緒にでているのも、なんだか笑ってしまいますね。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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