未明の砦

読んだ本

太田愛さんの『未明の砦』を読みました。

太田さんの小説は、以前『犯罪者』『幻夏』『天空の葦』の三部作を読みました。
修司くん・相馬さん・鑓水さんの3人がメインとなっている物語なので、『トリオシリーズ』と呼ばれているそうです。
はー、知らなかった。
特に『犯罪者』は、本当にドキドキしながら読みました。
次の一瞬で状況がガラッと変わってしまう、みたいなことが何度も起きて、「みんな、まだ生きてるの…?」とずっとヒヤヒヤしっぱなしでしたねー。

太田さんはテレビドラマなどの脚本家として活動されていて、水谷豊さんの『相棒』の脚本などを多数手掛けてらっしゃるようです。
で、『犯罪者』で小説家デビュー。
脚本家さんだということを知らなかったので、「これがデビュー作ってハンパないな…」と驚愕したものです。

太田さんは「ちょっと社会的弱者に近い人たちが、力を合わせて巨大な悪に立ち向かう」という小説を書かせたら、右に出るものはいないんじゃないでしょうか。
『犯罪者』もそんな感じの小説でした。
今回の『未明の砦』もチャプターは100を超えていて、とってもとっても長かったです。
途中で、長さとは別に物語的にちょっと辛くなっちゃって、最後までいけるか不安になることもありましたが…。
やっぱり全部読めて本当によかったです。
終わった直後、ものすごく励まされたような気持ちでいっぱいになりました。

物語の冒頭、キーとなる4人が『逃亡』するところから始まります。
細かい説明はされず、さらに『テロ等準備罪』なんて物騒な名前を出されるので、何をやらかしたのかとずっとヒヤヒヤしていました。
『テロ』だから、なにか建物爆破しようとしたりしたのかな、なんて。
それがだんだん内容がつかめてきて、期間工や派遣工として不安定な身分で働いている人たちの苦悩がこれでもかという感じで描かれていました。
こんな不安定な状況で毎日過ごしてるんだなと思うと、確かにこれじゃぁ未来に希望を持つこともままならないと思ってしまいます。
4人にもそれぞれいろんなバックグラウンドがあって、ここにたどり着くまではそれぞれみんな辛い思いをしていました。
その『ついていなさ』に、精神科医の益田先生がよくおっしゃっている、いわゆる『サイコロの6の目が連続で出る』みたいな感じなんだろうな思いました。

精神科医がやっている聞き方・話し方
益田裕介先生の『もう人間関係では悩まない 精神科医がやっている聞き方・話し方』を読みました。益田先生の本は『精神科医が教える 親を憎むのをやめる方法』以来です。 今回の本はタイトル通り、聞き方・話し方の本です。メンタルヘルスとか発達障害とか

班長の玄羽さんの親のような暖かさに包まれて、初めはバラバラだった4人もどんどん仲良くなっていって。
このひと夏で、彼らの精神面や人生にものすごく大きな影響が与えられたんだろうな、と思います。

にしても、毎回毎回本当に思いますが…警察ってこんなんなの? と。
もちろん、すべての警察官がこんな感じだとは思っていません、思いたくないです。
でもこれ、ほとんどでっち上げ…ですよね、この令和の世の中で。
「公安だから」って言われたらそれまでなんですが、やっぱり権力がある人、お金をいっぱい持っている人が守られるんだなって思ってしまいます。
それが『上級国民』っていうやつなんでしょうけど…。
「小説だから」ということで大丈夫なんでしょうか?
実際には、こんなことはないって思って大丈夫ですか?

『生きていけばやり直しがきく』というのも、本当にその通りだなと思います。
玄羽さんはもう亡くなってしまいました。
彼があの4人に肩入れしたのは、別にこの未来を引き起こしてほしかったからではないんでしょうけど、結果として玄羽さんの優しさ・いたわりはすごいお土産となって彼らの中に残ったんだと思います。

『文庫の姉さん』こと朱鷺子さんのところで本を読みあさった彼らの痕跡を見て、刑事さんが「ちょっとでも違った環境だったら、もっと違う人生を歩めただろうに」って言っていました。
まさに、その通りだなと思います。
勉強だったり、自分が興味を持てることだったり、そういうことに没頭する時間や余裕があったなら、彼らはどんな人生を送っていたんでしょうか。
そして、やっぱり教育、知識って大事だなと思いました。
これが本当に正解なのか知らないで、押さえつけられているのが普通だと思って、それに唯々諾々と従っていたんだったら、こんなフィナーレにはならなかったことでしょう。

もちろん物語としては、「この先ストライキがどれくらい続くのかな」とか、「会社側とはどんな風に折衝を続けていくのかな」とか、いろいろ思うところはあります。
もっともっと続きを見ていたかったです。
ただ、やっぱりここでやめるっていうのがプロだなって、本当にいつも思います。
語り過ぎはきっと蛇足なんですね。
この先は自由に想像してみようと思います。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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