宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』を読みました。
宮島さんの小説は初めてです。
この本、近くの本屋にポスターがずっと貼ってあって、ずっと気になっていたんです。
どういう系の話なのか、『最高の主人公』とはなんなのか。
「みんなハマる」と書いてあるけど、そんなみんながみんなハマるわけないでしょ…と。
今回 Audible にあったので、早速読ませていただきました。
…で、気づいたら成瀬にハマってるんですよね…(笑)。
月並みな感想ですが、成瀬のことが大好きになってしまいます。
なるほど、こういうことか、と。
この歳になると『新規 IP』にはなかなか手を出しにくくなってしまうんですが、いやー思い切ってよかったと思いましたね。
この本は短編集で、主人公の成瀬あかりとその周囲の物語が描かれていました。
最初は『ありがとう西武大津店』。
成瀬は中学2年生かー!
羞恥心と自尊心が一番ないませになっている時期で、自分も周りもごちゃごちゃしている頃だと思います。
私自身はテレビに映るのなんて嫌なタイプだったけど、そういう同級生もいるだろうなとは思いました。
そして何よりも成瀬の場合は、変な悪意とか功名心とか、そういうものがあまり見られなくて、純粋に「かわいらしいなぁ」と思えるところが気持ちよかったです。
ものすごいローカルな行いだったけど、それでも『ファン』みたいな人はできていて、最後に「偽物だ」って叫ばれたところは思わず笑ってしまいました。
確かに偽物だけどさ…別にいいじゃんね…。
「そーいうじじぃいるよなぁ…」と思って、ちょっと嫌な気持ちになりましたよ。
みゆきちゃんは、自分のことを凡人だって言っていますが、紆余曲折ありつつも成瀬を受け入れる懐の深さがあって、すごくいい子なんだろうなと思いました。
成瀬はみゆきちゃんみたいな友達がいて幸せなんだと思います。
2つ目は『膳所から来ました』。
いやぁ、青春ですね!
部活じゃなくても運動じゃなくても、一つのことに打ち込んでいるのはやっぱり青春ですね。
しかし、まさか急に M-1グランプリに出ると言いだして、本当に出てしまうというのはすごいですね。
出るだけなら誰だって出られるかもしれませんが…その実行力。
まぁ、自分が高校生中学生の時だったら、絶対に出ないですね。
せいぜい『高校生クイズ』くらいです。
(部活の大会の人被っていて断念した記憶があります)
M-1出場なんて…そんなこと、恥ずかしくて恥ずかしくて絶対できない…。
さすが成瀬だなと思います…。
そして、それに付き合うみゆきちゃんも本当にすごい。
やり始めたらなんだか夢中になって一生懸命やっちゃうところとか。
すごくかわいらしくて、好感が持てます。
そういう純粋なひたむきさって素晴らしいですね…、どこかに忘れてきたかな…。
周りの人も結構応援しているっていうのがまたいいなと思いました。
いい人たちに囲まれていますね。
ちなみに『ゼゼカラ』と聞いて真っ先に『セガカラ』を思い出しました。
次は『階段は走らない』。
成瀬やみゆきちゃんと関係ない話をいきなりぶっ込んできたな、と。
でも、登場人物たちの年齢と私の年齢がちょっと近いこともあり、なんだか親近感を覚える話でした。
私も転校生だったので、「そんな風に誰かにたまに思い出してもらえたら嬉しいな」とは思います。
でも、自分が卒業した小学校の同窓会ですら行きたいと思わないぐらいなので、そういう意味ではちょっと複雑な気持ちですね…。
それにしても、やっぱり地域のランドマークだった百貨店が閉店してしまうっていうのは、こんなにもたくさんの人の心に悲しみを植え付けてしまうものなんですね…。
私の地元の仙台でも、随分前のことになりますが、駅前の『ams西武』がなくなりました。
その時には、こんな熱心なファンっていたのかな…?
少なくとも私は「ふーん」くらいにしか思わなかったな…。
まあでも、「これぞインターネットの正しい使い方」という感じはします。
Facebook なんかも、最初はそういう役割として誕生したんだったような気がします。
4つ目は『線がつながる』。
まさかの高校生、まさかの坊主、まさかの東大。
いきなりいろんな情報が飛び込んできて、ちょっと混乱しました。
みゆきちゃんとは別々の高校になっちゃったんですねー。
ちょっと残念。
しかしみゆきちゃんも、本人に聞かないで他の人に成瀬の様子を聞くなんて。
まぁ、「客観的な事実が知りたい」っていうことなのかもしれないですけど。
にしても、私の高校も一応進学校だったんですけど、なんせ女子高だったので、「人からどう見られるか」そういう部分って全く気にしてなくて。
とにかく、部活と勉強とゲームしかしてないっていう高校生活だったので、誰とご飯を食べるとか、そういう話題できゃぁきゃぁしているのって、なんだかすごく新鮮でした。
うちの高校、予備校みたいだったもんね。予備校行ったことないけど。
『坊主』に関してはとてもおもしろい試みですけど、よくその年頃の女の子がやるな、とも思いますね…。
はじめ、「髪の毛の長さ正確にどれぐらいか知りたいというんだったら、目印でちゃんと切り揃えておけばいいんじゃないの?」とか思ったんですが、成長期だからよくわからなくなっちゃうということなのかなー。
「目安となる髪の毛を『標本木』ならぬ『標本毛』みたいな感じで決めておくのは?」とも思いましたが、その髪の毛も抜けちゃうかもしれないし…。
なるほど、結構難しいなと改めて思いました。
坊主は確かに正確ではあるなと。
しかし、坊主の生え途中ってどういう感じなんでしょうか。
野球少年みたいな感じが、少しずつ伸びていくんでしょうか。
すごく気になりますね…。
『レッツゴーミシガン』。
これが一番好きだったかもしれません。
ああいう変わった女子を好きになる男子、いますよね!
気持ちはすごくよくわかります。
なんか惹かれるんですよねー。
にしても、思い切って勇気を出して伝えたその心意気やあっぱれ! です。
素晴らしいの一言しかないですねー。
成瀬はああ言って断った形になってしまったものの、頑張ればいけるんじゃないか…?
彼女を大事にして、連絡を密にしていれば、そのうちお付き合いできるんじゃないでしょうか…?
是非とも頑張っていただきたい。
物語的にこれがこのまま続くのかどうかわからないし、この物語が『恋愛モノ』になっていくかどうかは全くわかりませんけど…。
にしても、自分ではできないことをやすやすとやってのける子とか、憧れてしまいます。
男でも女でも。
そして、自分に向けられた好意に気づいてちょっと照れる成瀬が、とってもかわいかったです。
なんか気がついたら、成瀬のこと、どんどん好きになってるんですよね。
おもしろいなぁ。
ちなみに、成瀬の通う『膳所高校』というのは本当に実在する高校らしく、本当に立派な進学校みたいで、本当に部活のことを『班』と言うみたいです。
最後は『ときめき江州音頭』。
もう既に高校3年生になってしまっています。
早い。
みゆきちゃんはみゆきちゃんで、新しい友人関係の中でうまくやっていて、成瀬は相変わらず成瀬っていう感じです。
だから、2人の間に『溝』まではいかないけど、ちょっとした『違い』が出てきてしまっています。
お互いがお互いを尊重しているんだけども、それもちょっと寂しいみたいな。
その微妙な関係がなんだかくすぐったいですね。
ずっと一緒にいた幼なじみが急にいなくなってしまうとき、どういう風に感じるんでしょうか。
私はいなくなる側だったことが多いので、あまりよくわからないです。
やっぱりポッカリ穴が開いたような気持ちになるんでしょうか。
『ゼゼカラ』も解散って言ったときの気持ち、すごく伝わってきました。
でもその後にみゆきが反論して解散しないことになって、なんだかこっちまですごくホッとしてしまいました。
これからの大学生活はそれはそれで。
でも、やっぱりみゆきちゃんとの幼なじみの関係もちゃんと続けていってほしいです。
髪の毛を勝手に切ったことにみゆきが焼いたやきもち、すごくかわいかったです。
この街からたとえ離れたとしても、ずっと友情を育んでいてほしいなと思います。
なんだか、自分が送れなかった高校生活を叶えてくれるような作品だったように思います。
ジュブナイル小説っぽくもあり、アニメの日常回のようでもあり。
ここ最近はずっと人がたくさん死ぬ話を読んでいたので(私の意思で、ですけど)なんだかすごく爽やかな気持ちになりました。
いやー、おもしろかったです。
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