宮島未奈さんの『成瀬は信じた道をいく』を読みました。
先日の『成瀬は天下を取りにいく』の続刊です。
今回も短編集で、5本の物語が入っていました。
初登場の人視点の物語もあり、まず成瀬の成瀬っぷりに驚くところから入るのが、『お約束』っぽくておもしろかったですね。
表紙の『びわ湖大津観光大使』のタスキを掛けた成瀬、以前本屋で見かけたときに「どんな話だよ…」と思っていましたが、本当に観光大使でした…。
さすが成瀬です。
1つ目は『ときめきっ子タイム』。
『総合学習』『調べ学習』というのが、今どきの小学生っぽいですねー。
そして、ゼゼカラがついに地域の知る人ぞ知る『ご当地芸人』みたいになってて、すごい出世だと思いました。
実際、一市民にすぎない自分がこんな風に調べられたら、すごくくすぐったい気持ちになるだろうなと思います…。
まぁでも嬉しいでしょうねー。
成瀬もみゆきちゃんもまだ高校3年生のままで、みゆきちゃんは東京にまだ引っ越してない状態です。
部活(班)のかるたは終わったみたいだから、時期的には秋の辺りなのかな?
…小学生女子特有の『他人から嫌われたくない気持ち』とか『自分が好きなものを他人がどう思っているかの不安』とか、そういう気持ちがすごく伝わってくるようで、懐かしい気持ちになりました。
しかし、成瀬はいろんなところに自分の爪痕をしっかりと残している、本当にすごい子なんだなというのが改めてわかりましたね…。
彼女が大人になるまでずっと見ていたいですね。
次は『成瀬慶彦の憂鬱』。
成瀬パパ視点の話でした。
まー、オチは予想がつきました。
多分そうだろうなと。
成瀬は地元から離れることはないよ、と。
でも、そこまでの過程はまったく想像がつかなくておもしろかったですねー。
まず第一に、キャンパスで野宿する人がいるっていうのも驚きです。
警備員とかに止められるんじゃないの…?
さすが京大。
森見登美彦さんや万城目学さんの物語からしか京大を知りませんが、正直納得してしまう感じはあります。
そして、それを連れて帰ろうとする成瀬もすごいです。
お父さんも唖然としつつも、多分正しい行いだし、反対できないですよね…。
「せめて、連れて帰るのが女の子だったら良かったのに」と思いましたが、さすがに京大とはいえ、女子で野宿はないか…。
そんなこんなですが、その彼・城山くんも京大受かってよかったですね。
私としては前巻の広島の西浦くんを推したいですが、城山くんルートもあるんでしょうか…?
というか、そんなルート自体存在するんでしょうか…?
4月からは晴れて大学生、仲良くキャンパスライフをエンジョイしていただきたいです。
急にディープインパクトに例えられ始めた成瀬がとってもおもしろかったです。
ただ、ディープインパクトについての知識があまりないので、納得までには至りませんでしたが。
でもまぁ、それくらいお父さんは『トンビがタカを生む』的な気持ちでいるんだろうなと。
前巻の東大のキャンパスで偶然再会した、大貫さんとかは東大受かったかね?
そっちにも春が来てるといいですね。
3つ目は『やめたいクレーマー』。
無事に大学生になった成瀬、家の近くの平和堂でバイトをしているようです。
そこに通っている主婦の目線での話でした。
主婦・呉間言実(くれま・ことみ)はクレーマー体質であるらしく、ついついお客様の声に次々と投書してしまいます。
本人はやめたいと思っているんだけど、目がついたことを発信しなければ気が済まないという感じみたいです。
まー、そういう人、いますよね。
また、成瀬がそのクレームに対して「理路整然としているからわかりやすく、とてもいい」と褒めるのがおもしろい。
なかなかその境地って、バイトだと到達できないと思うんですけど…。
やっぱり頭いいんだなーと思ってしまいますね。
呉間夫がですね、ものすごくいい人なんですよ。
妻の気持ちに共感を示し、暖かい言葉をかける、穏やかな夫。
稼ぎとかはまったくわかりませんが、すごく素晴らしい男性ですね。
今の時代に求められる能力だと思います。
呉間さんのクレームのおかげで万引きをしていた老女が逮捕され、それについていろんな人から賛辞をもらうんですが、家庭に入っちゃうとなかなかそうやって褒められる機会ってないから、とっても嬉しかっただろうなーと。
…ときめき祭りの司会を、まだゼゼカラがやっていることにも安心しました。
しかし、またオチが秀逸だなと思って。
やっぱちゃんとクレーム入れてほしいですね。
4つ目は『コンビーフはうまい』。
せっかくの『びわ湖大津観光大使』の話なのに、このタイトルは一体…という感じですが。
成瀬と、『スマホの奴隷をやめたくて』の奴隷をやめる前の忍足みかんさんみたいな女の子・篠原さんは、まあ相性は良くないだろうなという感じでした。
だけど、なんだか不思議な友情が芽生えたっぽくて、仲良くなれている感じでよかったですね。
篠原さんにとっては、なんだか珍獣を観察しているような気持ちなんでしょうけどね。
観光大使の大会は、『女子アナ』っぽい人ばっかりになりそうで自分にはまったく縁がなさそうでちょっと怖かったです。
実在するんですか…?
成瀬もスマホという文明の利器を手に入れ、どんどん女子大生っぽくなっていくんでしょうか。
それはそれで寂しい気もしますが、そうならないような気もします。
あと、『コンビーフはうまい』って、どういう電話番号なの…?
ググると、いろいろ考察しているサイトも見つかって、おもしろかったです。
さすが将来近江にデパートを建てる女、観光大使もお手の物ですね。
個性的で型にはまらない観光大使として、マニアックな層から支持を得そうな気がします。
でもあんまり仲良くすると、みゆきちゃんがまたやきもち焼いちゃうんじゃないの、って思っちゃいますけどね。
最後は『探さないでください』。
物騒なタイトルですが、そこは成瀬ワールドですから。
まー、まさか自殺するわけはないだろうと思いつつも、なぜこんなメッセージを書いたのか、それを探るために、成瀬を探す旅に出ます。
『オールスター登場』と聞いていたので楽しみにしていたんですが、広島の西浦くんが出てこなかったよ!
あの子はもう出てこないのだろうか…、もう過去の男だということなんだろうか…。
観光大使の服を着て紅白に出るというところがまたすごいなと思いました。
そして「いつかはゼゼカラで出てよう」というセリフが、それが現実になりそうなことを予感させているというか。
やっぱり成瀬は本当におもしろい人ですね。
そして、めちゃくちゃ愛されていますね。
結局観光大使の相方・篠原さんにもなんだかんだで愛されてるし、呉間さんも嫌々ながらも心配してるし。
まぁ、成瀬みたいな子がいたら、好きになっちゃいますよね。
さて、成瀬ワールドを読み終えてしまったわけですが。
Wikipedia には『やすらぎハムエッグ』という、単行本未収録の話があるようなので、さらなる続刊を期待してしまいます。
読む前は「どんな話だよ…」と思っていましたが、本当に気持ちの良い物語でした。
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