名探偵のままでいて

読んだ本

小西マサテルさんの『名探偵のままでいて』を読みました。
小西さんの小説は初めてです。

去年の年末に購入したんですが、続き物で、しかも続刊が文庫化されていない状況だったので、まだ読んでいなかったんです。
だって、おもしろくて次の巻を読みたくなったら困っちゃうじゃないですか、文庫じゃないと高いし(笑)。
でも、読んで良かったです。
すっごくおもしろかった。
なので、買いました、次の巻、単行本で。
あーあ、まぁ仕方ないですけど(笑)。

『レビー小体型認知症』という、『幻視』が特徴的な認知症に罹患している元校長先生の祖父と、彼の孫で現小学校教諭の女性の物語です。
小学校教諭の楓は小説好きで、そのせいで謎を見つけてしまったり誰かから相談されたりすることが多く、それをおじいちゃんに相談しに行きます。
いわゆる、安楽椅子探偵形式のお話。
その謎解きのときに、必ず孫の楓の意見を聞くのと、おじいちゃんが自らの幻視を生き生きと語る姿が印象的でした。
連作短編集形式になっていて、6つの話が入っていました。

各章のタイトルは他の作品へのオマージュになっているようです。
タイトル以外にも、各章で古今東西いろんな小説の話題が挿入されています。
私もそれなりに読書している方だとは思いますが、こういうのを見ると本当にすごい人はすごいんだなー…と思ってしまいますね。

今回も舞台は『碑文谷』です。
おじいちゃんが碑文谷に住んでいる設定です。
やっぱり碑文谷ってすごいところなのかなぁ…これは1回くらい訪れたほうがいいのかもしれないですね…。
去年読んだ『ハサミ男』『犬を盗む』に続いて碑文谷舞台の話は3つ目です。

ハサミ男
殊能将之さんの『ハサミ男』を読みました。殊能さんの小説は初めてです。 この本、『ミステリーランキング』とかのページでよく見ていたので、楽しみにしながら読みました。Amazon のレビューにも「騙された」とか「なんとか見抜けた」とかいろいろ書
犬を盗む
佐藤青南さんの『犬を盗む』を読みました。佐藤さんの小説は初めてです。 肩に載せられたかわいい犬がこっちを向いている表紙、そして『犬を盗む』というなんともインパクトのあるタイトル。それらに惹かれて読みましたが、おもしろかったです。私自身は犬、

ちなみに、主人公の楓は横浜の弘明寺に住んでいます。
弘明寺には何度か行ったことがあります!

最初は『第一章 緋色の脳細胞』
導入編ということで、どういう物語なのかを端的に示している章です。
幼い頃から自分にいっぱいかまってくれて、たくさんの愛情を注いでくれた知的な祖父が、レビー小体型認知症にかかってしまい、頻繁に幻視を見るようになったというストーリーが紹介されます。
メインの謎は、中古で買ったミステリーの評論本に、その著者の訃報記事が4枚も入っていたということ。
これはなぜなのか?
こういう身近な謎を、おじいちゃんは『緋色の細胞』を使って鮮やかに解いてくれます。
楓は大好きなおじいちゃんとこういう知的談義ができることがすごく嬉しい様子。
でも、一方でそのおじいちゃんが、自分が認知症にかかっていることを知っていて、すごく苦しんでいるということも改めて認識し、とても苦しい気持ちになっています。
すごく知的なおじいちゃんで、自分のこともきちんと認識分析できているところが涙を誘いますね…。
今までそこに当然あって、これからもずっとあり続けると信じていた、信じ込もうとしていたものが、どんどん消えていってしまう悲しさ。
でも、少し減ってしまっているかもしれないけど、まだそこにあるんですよね。
そういう希望も感じました。

『第二章 居酒屋の”密室”』。
おじいちゃんが1回目に出してきた『女将犯人説』だと、『背中のナイフ』に説明がつかないなって思っていたので、最後の真相にはちょっとほっとしました。
女将も、目の前に『クライド』が現れた時、真っ青になったでしょうねー…。
「こいつはいつまで私にまとわりつくんだろう」って。
がんばって高卒認定試験を取り、お店も繁盛し、ちょっと気になる H 君もできたというのに、それ以上の幸せなんて望んでないだろうに。
こんな風にずっと沼からはい出せないのかなって、絶望したでしょうね…。
そして、今回の事件では、明らかで放っておいてもそのうち死んでしまったでしょうけど、結果的に女将が最後の一撃を食らわせたような形になってしまいました。
彼女は前科があるので今回は累犯になって罪が重くなってしまうかもしれないですね…。
でも、ちゃんと更生してまっとうに生きてきたということも、きちんと評価してもらいたいなって思います。

次は『第三章 プールの”人間消失”』。
この話、すっごく好好きなんですけど、おじいちゃんががホント意地悪だなと思ってしまいました(笑)。
まず当然ながら、1つ目の物語がとても恐ろしいものであったということ。
いくらおどけていたとはいえ、『殺人犯の役』をやらせるなんて結構ひどいなと思ってしまいました。
そしてもう1つは、子供たちに対してトラウマを植え付けたんじゃないかということ。
だって、この子達は先生がホームシックにかかって涙しているときに、大きなスイカを持ってきてくれるぐらい優しい子供たちなわけですよ。
「普通に消えたら面白くないから」っていう理由でこういう演出をして、確かに子供たちにとっては不思議な出来事かもしれないですけど…。
私がその生徒の中の一人だったとしたら、『不思議』よりも『怖い』と思ってしまうと思います。
今でこそ、こんなに推理小説とか読むのでそういう類の話は好きですが、小学生の時なんか特にオカルトチックな話は本当にダメでした。
「学校の先生が消えてしまった」なんてことになったら、怖くて怖くて心に傷を負ったと思います…。
しかも、その後ちゃんと種明かししてくれるならまだしも、触れてはいけないタブーみたいな感じになっているんだったらなおのこと怖いですね。
夢にでも見るんじゃないかなぁって思っちゃいます。
なので、いつかはみんなに真相を教えてあげてほしいですけどね…。
おじいちゃんが楓に「校長先生だからと言って男性とは限らない」と言っていましたが、私はなぜか同級生の話を聞いていた時点で『女性』を思い浮かべていました。
ただ、若い女性ではなく、やっぱり年配の定年間近のおばあちゃんではありました。
だから急に男性がどうのこうのとか言われて、「あ、そっか、男性っていう可能性もあったんだ」と逆に思ってしまいましたね。
自分が何で女性を思い浮かべたのかがわからなかったので、この話だけすぐにもう1回読み直したんですが、結局わからないままでした。
でも、なんとなく女性だと思ったんですよねー。
不思議なもんだ。

次は『第四章 33人いる!』。
これは『11人いる!』だろうな、と。
でも、どんな話なのか知らないんですよね…。
ちょっと短めの話でした。
また、なんだかオカルトチックな話だなあと思って読んでいたんですが、最後の最後で3人の友情に気付かされてぐっときました。

『第五章 まぼろしの女』。
四季くん、 やるな〜!
ちょっと見直しました。
正直、彼の風貌はあまり想像ができなくて、なんか根暗な感じの人でしたが、ここで一気に『爽やかくん』に昇格したような気がします。
にしても、好きな女性に絡むタイプの人だですねー。
まぁ、岩田先生が「変人」って言ってるぐらいだから、普通の人ではないんでしょうけど。
今回はおじいちゃんの推理がドンピシャで当たって、改めてすごいなと思った次第です。
「アルコール中毒とか本当かよ」って正直思ったんですが、でもまぁやっぱりそういうことなんでしょうね。
いやぁ、すごいなと思いました。
小説ではありますが、覚醒剤なんかは本当にそういう川っぺりとかで売られているとか、住宅街にも薬物の密売人は普通に侵入してきてるとかは聞くので、ひとごとじゃないなとは思っています。
でも、まだあまり実感は湧かない感じですけどね。
このまま、実感沸かずに一生過ごせるといいんですけどね…。
今回は、仲間を助けるためにみんなで協力して、なかなかいいチームワークだったんじゃないかなと。
あとは、こんな風に冤罪かけられるんだなってゾッとしました。
以前読んだ染井為人さんの『正体』を思い出しましたね…。
今回その男の子もなんとか一命を取り留めたみたいでづし、いなくなった女性も見つかって証言してくれるということだったので、本当良かったなと思います。
『正体』のときも、親切心で覗き込んで犯人にさせられてしまった感じだったから、今回の岩田先生みたいに親切が過ぎるのもどうなのかなと思ってしまいますね…。
まか、遠巻きにして声をかけるぐらいがいいのかもしれないですね…。
怖いです。

最後は『終章 ストーカーの謎』。
いやー、見事に騙されました!
楓の目が覚めた時にようやく「こいつが犯人だったかー」というのが分かって愕然としました。
しかもなるほど、2代に渡って、だったわけですね…。
業が深いというか、何と言うか…。
おじいちゃんも『ボケた振り』という秘密兵器が使えるなんてすごいです。
でも、途中の「陸上をやっていた」というくだりで、『十種競技』とか『スニーカー』とかのあたりは…全然わからなかったです…。
私も中高6年はみっちり陸上やってたんですけどね、おかしいな…。
でもまぁ、本当に無事でよかった…。
「主人公だから、そんなひどいことにはならないだろう」とは思っていましたが、残酷な結果になる話はやっぱり嫌なので、救出がギリギリっていう感じじゃなくて良かったなと思います。
最後の最後で、楓は『どっち』のことをおじいちゃんに相談したかったのかな…?
結局書いていないんですが、考えるのも楽しいですね。

噂に違わず本当におもしろかったです。
ケチな私が、続刊の単行本をソッコーで買ってしまいました。
なので、次も読みますー。

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さちこ

40代2児の母。2011年からフリーランスやってます。東京の東の方在住。
第一子が発達グレー男児で、彼が将来彼の妹に迷惑かけずに生きていけるよう、日々奮闘中です。

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