阿津川辰海さんの『午後のチャイムが鳴るまでは』を読みました。
阿津川さんの小説は初めてです。
かわいらしい表紙の絵からは想像もできないような、濃密な話でした。
5個の短編が入っています。
高校生の日常に潜むちょっとした事件を集めた小説…と思いきや、最後にすべてつながっていて思わず唸ってしまいました。
1つ目は『RUN! ラーメンRUN!』。
学校こっそり抜け出してラーメンを食べに行った2人の生徒に対して、『会長』が見事にラーメンを食べに行ったということを当てて、どうしてそういう結論に達したかを少しずつ紐解いていくお話。
こういうのおもしろいですね。
そういう細かいところ見てるんだなーって、勉強になります。
この『会長』はとても頭がいい子なんだろうなと。
でも、最後にやっぱりちょっと歩み寄ってきたところなんかは好感度がぐっと上がります。
『会長』も品行方正パーフェクトな学生ってわけではなくて、「たまにはちょっと息抜きは必要だよね」みたいなやっぱ人間臭いところ見ると、やっぱり好きになっちゃいますねー。
しかし、朝登校したら下校まで外に出られないっていうのは、なかなか厳しいですね。
私の時代でも、コンビニぐらいは行かせてもらってましたけど…ゆるゆる公立だったからなのかな?
私立の学校みたいだから、施設を充実させる代わりに外には出ないで、的な感じなんでしょうか。
そこをあえて抜けていくのもまた青春、ですかね。
次は『いつになったら入稿完了?』。
…もうさ、「編集長とアマリリス先輩付き合っちゃえよ」っていう感じの話でした。
いやー、女子高出身者としては、「こんな青春もあるのか」と甘酸っぱい気持ちにさせられましたね。
先輩の消失のトリックは、話しかけた男子生徒が実はポスターの裏にかくまっていたんじゃないかとか、実はその男子生徒だったんじゃないかとか、いろいろ考えました。
「聞かれてないことには答えません」っていうのは、RPG のモブじゃないんだから、もうちょっと人間味のある対応をしてほしい思ってしまいますけど…。
最後のどっちの絵か確かめるところも、実は弟が直したのはフェイクなんじゃないかと思ってしまいました。
それはちょっと勘ぐりすぎだったみたいですね。
今回は『部長』がいろいろアシストしてくれて、事件が解決に向かいました。
3つ目は『賭博師は恋に舞う』。
何と言うか…男子ってこういう遊び好きですよね…、っていう感想です。
ポーカーの内容は、読んでて正直まったくわからなかったですね。
ただまぁ、おもしろいなとは思いました。
『賭ケグルイ』とかに出てくるイカサマ込みの博打な感じですね。
誰と誰が組んでいるのか?
どういうイカサマを使っているのか? …みたいな。
そっちを探りつつ、勝つためにベットしていくのが、雰囲気だけしかわからなかったけどおもしろかったです。
しかし、『消しゴムポーカー』というのはすごいアイディアですね。
消しゴムという素材故に目印がつけやすかったり、でもつけちゃうと他の人にもバレちゃったり。
いかに自分だけがわかるようなことをするか、というのが考えがいがありそうです。
磁石のところは結構早い段階から気づけたんですが、ねー。
いろいろ考えて、結局は『マサ』の手の中で踊らされていた、みたいなのがかわいらしくて。
そこでそうやって清々しく青春できるのが男子だな、と。
実際もそうなんでしょうか?
女子だったら、こういうことがあったらもう泥沼なんじゃないかなって思ってしまいます。
4つ目は『占いの館へおいで』。
ここでようやく、『会長』で『部長』の『マサ』が、『ナオ』であることに気付きました…。
にしても、「星占いでも仕方ない」のフレーズだけで『替え玉受験』って、ちょっと飛躍しすぎじゃない!? なんて思ってしまいました。
何となく、『いけない』の『その話を聞かせてはいけない』、『遠まわりする雛』の『心あたりのある者は』なんかを思い出しました。


身近なことから結構大きめの『犯罪』が出てくるのは、きっと怖いでしょうねー。
興味も惹かれるとは思いますが。
こうやって少しずつ迫っていくのは、なかなか共同作業としてはおもしろいですし、彼氏がめちゃくちゃ頭がいいことを自慢に思ってしまいますねー。
最後は『過去からの挑戦』。
思わず感服、そして泣きました。
森山先生が第一話からちょろちょろ出てきていましたけど、まさか最終のトリを持っていくとは。
まぁ、ちょっと生徒会長の切れ味が良すぎて、若干鼻白むこともありますけど…それはそういうもんだと思っておきます。
森山先生の17年越しの謎、ようやく解けて良かったです。
しかし、会った瞬間にそんなにわからないものですか?
よっぽど太ったとか痩せたとかでしょうか?
ちょっとは気づかないかな…。
「体育の先生だから仕方ない」って思うのは失礼…か…すみません。
にしても、『生徒会長』は本当に一人なんでしょうか…。
この話読んでて、まさか全部同じ日だとは思わないでしょう…。
それこそ3話まで読んだ時点で同一人物だって気づかなかったの、仕方なくないですか!?
こんなに精力的に動く人いる? っていう感じですよ。
本書のタイトル『午後のチャイムが鳴るまでは』、なんなんでしょうね?
会長のこと、なんでしょうか?
午後のチャイムが鳴るまでは、生徒会長で文芸部の部長でクラスの人気者のマサだけど、ということ?
それとも、「午後のチャイムが鳴るまでは、ラーメン食べに行っていても大丈夫」(第1話より)ということでしょうか(笑)?
すごくよく収まっていて、読んだあとの爽快感が半端じゃなかったです。
「青春だな…」としみじみ。
自分が経験できなかった種類の青春ですからねー。
本当におもしろかったです。
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