宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証 第III部 法廷 下』を読みました。
先日の『ソロモンの偽証 第III部 法廷 上』の続刊です。
ついに最終巻です。
長かった、でもあっという間だったような気もします。
読んで良かった、今はそういう思いでいます。
本当にすごい話でした。
神原くんは、こうやってみんなから裁いてもらうためにずっと頑張ってきたんだね…。
もちろん大出くんに対する贖罪もあったでしょうけど、みんなからちゃんと裁いてもらうために、ここまで一生懸命やってきたんだなぁと思うと、もう胸が詰まって苦しかったです。
最終巻は初っ端からイベント目白押しでした。
なんとなく、本当になんとなくなんですが、ドラクエ2のラストのあたりを思い出しながら読みました。
アトラス、バズズ、ベリアルときて、ハーゴンからのシドー。
もうこっちは満身創痍なのに、まだ来るのかよ…と。
神原くんの尋問が終わってラスボスが終わったなって思ったのに、一番最後の最後で樹里が出てきて。
この子はどこまで荒らしていくんだろう、と思ったんですけど…そこがよかったです…。
樹里は、「自分は垣内美奈絵に似てる」って、それをちゃんと自分で気づけたから、この子はもうきっと大丈夫なんだろうなって思いました。
なんか勇気づけられたような気がします。
そして、最後の最後まで自分の嘘をつき通す。
でも最初の目的とは違って、神原くんのために嘘をつき通す。
そういう気持ちが彼女の中に芽生えたのは、本当に僥倖だなと思いました。
樹里は、このまま行ったら垣内美奈絵と同じルートを辿っただろうし、何でもかんでも人のせいにして典型的なダメな女になってたと思います。
でも、きっともう大丈夫だろうって思えました。
本当に、本当に良かった。
最終日前に1日休廷した日があって、往年の名作野球漫画『タッチ』の、3年の地区大会決勝の前日、和也の墓参りに行ったところを、なんとなく彷彿とさせるような感じでした。
戦いの最中にいるんだけど、ちょっとした息抜き、みたいな。
その1日を描いたのが、なんか小休止という意味でもリフレッシュという意味でもすごく効果的だったなと思いました。
陪審員それぞれもそれぞれの過ごし方をしていて、電話連絡を回すことで点と点が交流を始めて、そして少し話題が生まれる。
そういうところが、陪審員たちの葛藤なども垣間見れたし、中学3年生の子達の日常も垣間見れたし、すごく良かったです。
そして最後、本当にすごい『判決』でしたね…。
弁護人や検事たちよりも『リアルの中学3年生』として描かれていた陪審員達でしたが、でもそんなことは全然なくて、やっぱりその辺の中学3年生では到底できないことをやり遂げた、本当に素晴らしい子たちだったなと、改めて思いました。
Amazon のレビューに「これはジュブナイル小説だ」って書かれていたのを何件か見たんですが、本当にそうなのかもしれないなと思いましたね…。
無力な中学生かもしれないけど、それでもここまでできるんだな、と。
子供たちに夢と勇気を与えられるような内容だな、と。
内容はちょっと血なまぐさいかもしれないですけどね。
物語の一番最後に、弁護助手の野田くん視点で、彼が教師になったことが描かれていました。
そして、彼は城東第三中学校に教師として戻ってきました。
なんと、お子さんもいるそうです!
どんなパパなんだろー? 奥さんは?
…校長先生から「ようこそ戻られました」って伝えられていました。
校長先生から伝説の学内裁判の様子を聞きたいと言われ、「何でもお話できます、どんなことでも」と答えていました。
その言葉に、彼にとっての学内裁判がどんなものだったかが滲んでいるように思います。
そして、その学内裁判をともに走りきった人たちと「友達になりました」と。
その言葉だけで十分だと思いました。
思いましたけど…やっぱり野暮ですけど、他の子たちがどうなったのか知りたいなと思いますねー!
6冊分なんて、とっても長かったはずなのに。
とても長い旅路でしたが、冗長的に感じるシーンは1個もなくて。
全てが必要なシーンだったなと思いました。
やっぱり、宮部みゆきさんはすごいですね。
そして。
Wikipedia には、『2014年に全6巻で刊行された新潮文庫版の最終第6巻『ソロモンの偽証 第III部 法廷 下巻』には、主人公の20年後を描く書下ろし中編「負の方程式」が収録されている。』
と、書かれていました。
…残念ながら、Audible ではその部分はありませんでした。
しかもその『負の方程式』、杉村三郎シリーズでもあるみたいなんですよね…。

…というわけで、購入しました。
最終巻だけ。ひどいな。
で、読みました、『負の方程式』。
文庫本にして100ページちょいの中編です。
それよりも前の460ページ分はすべて読んでいるので、ちょっとだけ「もったいないな」という気持ちもありました。
でも、読んで良かったな思えるような内容でした。
主人公は杉村さんです。
「娘が10歳ぐらい」と言っていたので、『昨日がなければ明日もない』よりは前、という感じでしょうか。
とある私立の中学校で、『落ちこぼれ児』を集めてやるキャンプのようなものが開催されたんですが、「担当だった体育教師にいじめられた」と生徒が口々に言う事態になりました。
その体育教師はそれを否定しています。
担任教師は…まぁ、いろいろ問題のある先生だったらしく、これ以外にも問題が発生してしまい、その対処のために弁護士を雇ったようです。
で、その弁護士がなんと藤野涼子だった、というつながりでした。
なるほどな、そうきたかー。
涼子は相変わらず涼子しているというか、あれから20年経ったのに全く変わってないような感じがしました。
正義感のある、ちょっとうざいと感じてしまいそうな女の子のままでした。
弁護士になっているというのは、まあ想定内というか意外というか。
「どっちなんだよ」って感じですけど、「検事じゃないんだ」っていう意味です。
真相としては、生徒の方に非がありました。
ただ、体育教師は本当に問題がある人物だったので、心情的には納得してしまう部分も多々ありました。
でも。
涼子が生徒たちに「正々堂々とやらなければ意味がない」と怒ったのが印象的でした。
涼子自身が中学3年生だった時にやった学内裁判のことを思い出していたんだろうな、と。
涼子の中で、あの学内裁判と比べたら、どんな行いも幼稚に思えてしまうでしょうね。
あんなことはなかなかできるもんじゃないし、涼子たちにとっては貴重な経験だったでしょうけど。
だからといって、それをみんなに無理強いすることはできないですね。
むしろ、今回の生徒たちがやったことの方が『現実的』というか、ある意味情状酌量の余地があるというか。
「こういうことだったらきっとあるだろうな」って思えるような感じでした。
…まあでも、実際問題社会に出たら『自分は悪くないという証拠を積み重ねていく』という作業も必要になってくることなので、涼子に今回怒られたというのは、この生徒たちにとってはいい経験になったんじゃないかなと思います。
しばらくは反感しか芽生えないでしょうけどね。
本文にあったんですが、中学3年生はいきり中学3年生になったわけじゃなく、中学2年、中学1年、小学生の頃もあったし、それまでの積み重ねがあるんですよね。
みんなそうだから、それまでの人間関係ってあるんだなと。
それらをいきなりブチッと切断してしまったら、そこ歪みが生じてしまうんだろうなって、なんか納得しました。
最後に涼子の口から神原くんと結婚した話が出ました。
「あー、やっぱりそうか」となんだか安心しました。
そして泣きました。
象牙の塔と言ってたから、なんか学者になったんでしょうね。
何の学者になったんでしょうねー!
涼子が世帯主みたいな感じで一生懸命働いているみたいです。
それについて若干の不満はあるようなんですが、対外的な言い訳として用意した言葉なのかな、とも思いました。
きっと神原くんが穏やかに家庭で過ごしていることが、涼子にとっても救いになってるんじゃないかなって。
野田くんに関しては、本編の方で語られていましたが、その他の子はどうなんでしょうね。
例えば樹里とか大出くんとか。
ヤマシンとか井上くんとか。
そして、あの子たちのクラスで同窓会とかやるんですかね?
あそこまで強烈な印象のあるクラスだと、却ってやりづらかったりするのかな。
とにもかくにも、あの子たちがちゃんと立派に大人になって、この社会の中で幸せに生きているといいなと思います。
本当に、評判に違わぬ対策でした。
読んで良かったです。
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